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おてらおやつクラブ活動10年。着実なDX推進とご縁のひろがりによって生まれた、新たな「おすそわけ」の可能性。


増え続けている生活困窮家庭からの支援要請

 2023年度はおてらおやつクラブと直接的につながり、支援を受ける(以下、直接支援)生活困窮家庭は、ついに1万世帯の大台を超え11,153世帯(前年比130.5%)となりました。

 この「直接支援」の活動は、2020年からのコロナ禍により行政や支援団体の支援制度につながることができないご家庭が急増したため、緊急的なくらしの支えとしてはじまりました。しかし2022年度には、私たちの想定を大幅に上回る支援要請が寄せられることとなったのです。そして残念なことに、おすそわけを届けるご家庭に条件を設けて、条件にあてはまらないご家庭へのおすそわけをお断りせざるをえない状況に至ってしまいました。

 そのことへの反省と今後の活動の継続性を高めるため、私たちは議論を重ね、2023年度からは初回の支援はそのままに、2回目以降の支援要請の窓口を「常時開放」から「期間限定」へ変更させていただくことにしました。1件あたりの配送費を最小にして1世帯でも多くおすそわけをお送りする仕組みを構築することで、「断らない支援」の実現を目指しています。

 2023年度は期間限定の支援施策として「夏のおすそわけ2023」「歳末たすけあい2023」を実施しました。家計負担が大きくなりがちな夏休みと歳末を実施時期に定め、多くのお寺さまや皆さまからのご寄付・ご寄贈のおかげで、予定を上回るのべ4,184世帯におすそわけを届けることができました。

 私たちのもとに支援要請が多く寄せられることの背景としては、物価高などにより依然としてひとり親家庭が厳しい状況下に置かれていることにくわえて、自治体を通じて私たちの取組みが周知されていることも要因の一つとしてあげられるでしょう。

 2023年度には、山形県山形市および、奈良県三宅町と「ひとり親家庭への支援に関する連携協定」を締結しました。自治体から、ひとり親家庭への情報提供の一環で私たちの活動を紹介いただき、希望するご家庭におすそわけなどの支援をお届けするとともに、地域の見守りをつくるために必要な企画などを立案、実施していきます。

 自治体との連携は、支援につながりにくいご家庭とのたしかな接点づくりとなります。このような草の根活動は、私たちが「認定NPO法人」であり、高い公益性を有していることにより可能となっているのです。

社会活動の再開に取り残される生活困窮家庭

 では、どのような家庭に直接支援は届けられているのでしょうか。私たちがロジックモデルで策定したアウトカムの評価から見ていきます。

 私たちは毎年、おすそわけを受け取った生活困窮家庭を対象に生活状況などをお聞きする調査を行っています。「直接支援家庭向け調査(2023年12月)」のスコアの前年からの推移を見てみましょう。

 調査結果について私たちが重く受け止めた課題があります。それは、初期成果に掲げる「困った時に助けを求められる」指標のスコアが21.7ポイントと大幅に低下したことです。

 その要因は、今年度、私たちが「常時開放の支援窓口」から「期間限定の支援窓口」へ支援方法を変更した結果、これまでのように生活が苦しくなったご自身のタイミングで申込める仕組みではなくなったためであろうと考えています。このような切実な要望があることにも気を留めながら、次年度も支援体制や活動内容を見直して支援活動を継続していきます。

 一方で、「孤立感や孤独感がやわらいだ」のスコアが8.3ポイント上昇したことは、私たちにとってうれしい結果でした。私たちの活動に新たに関わってくださるお寺さまが2,008カ寺(前年比108.0%)、また支援団体さまが816団体(前年比118.8%)と増加したことで支援の輪が広がり、前年度に比べて多くのご家庭へおすそわけを届けられた成果だと考えています。

 自治体や支援団体との連携を通じて、支援が届きにくいと想像されるご家庭からの声も寄せられています。その一部をご紹介しましょう。

 調査結果によれば、心理的な状況改善(69.8%)の方が、経済的な状況改善(37.0%)に比べて高い傾向が見られます。直接支援で届けられる物資は「おすそわけ」であり、支援者の思いやりの気持ちを実感しやすいことによるのでしょう。このことは、私たちの活動の大きな特徴の1つであり、2023年度も支援の質を維持することができたのではないかと考えます。 

着実に進んだDX推進と活動の自立分散化

 ここからは、アウトカムの評価をもたらした要因について検討を進めます。

 昨年度のインパクトレポートでもご紹介したように、私たちは事務局に一極集中していた配送の業務を、全国のお寺さまに分散し肩代わりしてもらうための独自の配送管理システムを運用しています。このシステムこそが、1件あたりの配送費を最小限に抑え、限りある資金を最大限に活かす工夫の源泉でもあります。私たちは日々システムを安定的に稼働させることによって、各地域における支援活動の自立分散化を目指しています。

 昨年度からはシステムの稼働によって、1,どの程度、事務局に配送業務が集中しているか(=業務集中率)、2,どの程度、同一エリアでおすそわけが循環しているか(=循環率)の2点を注視してきました。

 第1の業務集中率は27.0%(前年比18.6ポイント減)と大きく改善しました。おそなえの物資が全国各地のお寺に分納されることで、事務局では管理の手間が省け、省スペース化が進み、さらに事務局から全国へ発送する長距離配送の費用もかからないなど、多くの利点があります。

 第2の循環率について見ていきましょう。

 まず、支援団体が同一エリアの寺院から受取るおすそわけの循環率は全国平均で90.0%(前年比10.7ポイント増)となりました。とくに「北陸」と「四国」で大幅なスコア向上が見られます。四国・北陸エリアの賛同寺院のみなさまには、事務局スタッフから地道にお声がけをさせていただき、お力添えに応じていただいたことが主な要因としてあげられます。

 他方、直接支援を受けるご家庭が同一エリアの寺院から受取るおすそわけの循環率は全国平均で92.2%(前年比48.9ポイント増)となりました。全国各地での大幅なスコアの改善は、私たちの「夏のおすそわけ2023」「歳末たすけあい2023」の呼びかけに際して、事務局からの働きかけにくわえ、浄土宗や臨済宗妙心寺派などで所属寺院向けに広報協力してくださり、それに多くのお寺さまが応じてくださったことが主な要因としてあげられます。

 各スコアの推移から、後方支援・直接支援ともにおすそわけの“地産地消”が着実に進んでいることがわかります。

 さて2023年度は、通常の講演機会のほか、システム開発を担う奈良先端科学技術大学院大学のメンバーとともに、「助けてほしい/助けたい」という人々の思いをデジタル技術によって結びつける独自の知見をご紹介する登壇の機会を得ました。

 普段は表に出ることのない私たちの技術的な側面に関心を寄せていただけることをとてもうれしく、誇りに感じる機会でした。2023年度は28件(前年比100.0%)の講演を行いました。

 また、私たちの活動に関心を寄せてくださる方々に最新情報を定期的にメール配信する「おてらおやつクラブ通信」の登録者数は、5,779名(前年比120.7%)となりました。広告に費用をかけず、講演等のご縁にまかせて活動を知っていただくことは、私たちらしい活動周知の方法であると考えています。

新たな展開を見せる「おすそわけ」

 冒頭で見たように2023年度は、私たちと直接支援を通じてつながるご家庭が1万世帯を超えました。その実現には、企業さまとの活動連携も大きな支えになっています。ここでは主な取組をご紹介します。

 1つ目は株式会社フェリシモとの「みんなでおそなえギフト」プロジェクト(2022年10月〜)です。私たちの活動趣旨に賛同されたお客さまに一口100円をご負担いただき、一定金額に達するごとにお菓子やお米、レトルト食品などを詰め合わせた箱がお寺にお供えされ、支援を必要とするご家庭へおすそわけされる仕組みです。

 これまでに983箱がお寺にお供えされており、新しい「おすそわけ」のあり方として、今後の広がりに注目しています。

 2つ目は株式会社バリューブックスとの「ブック・プレゼント」プロジェクト(2022年12月〜)です。私たちの活動趣旨に賛同されたお客さまが、プロジェクト期間中に本の買取りを申込み、買取り金額のうち10%相当の本を、困窮家庭の子どもたちにおすそわけする仕組みです。

 これまでに1,872冊がご家庭におすそわけされており、読書機会の提供という新しい「おすそわけ」のあり方を実現した事例です。

 3つ目は奈良交通株式会社とのミスタードーナツのおすそわけ(2023年10月〜)です。おてらおやつクラブとLINEアカウントでつながっているひとり親家庭に希望を募り、配信されたクーポンを奈良交通の運営する店舗で提示するとドーナツがおすそわけされる仕組みです。

 LINEは登録者の居住地や年齢といった属性でセグメント配信することができるため、特定の条件にしぼって支援を必要とする人だけに「おすそわけ」を届けることが可能となっています。年間で計5,400個のドーナツがおすそわけされる予定です。

 このように「子どもの貧困問題」の解決に向けて、「お寺のおそなえを、おさがりとして、おすそわけする」アイデアは10年間で日本全国に広がり、お寺かどうか、お坊さんかどうか、おやつかどうかに関わらない活動へと展開しています。私たちは他者を思いやる気持ちの受け皿として、もっともっと「おすそわけ」の可能性を広げ、子どもたちを笑顔にしていきたいと考えています。

※活動拠点の分散化とおすそわけの多様化にともない、ロジックモデルのうち「OOCの支援を受ける月間子ども数」「寄贈物資量」「寄贈重量」「直接支援発送数」「おすそわけ発送数」「メディア掲載数」「ボランティア参加者数」の報告は廃止しました。一方で、今後はおすそわけの地産地消を示す「循環率」の計測と報告を進めてまいります。

財務状況の黒字転換

 2023年度の受取寄付金は、総額で71,960,283円(前年比155.2%)となりました。昨年度のインパクトレポートでは切迫した財務状況をお伝えしましたが、2023年度は主に2つの要因によって黒字転換することができました。

 1つ目に、遺贈寄付のお申し出がありました。ご縁をつないでくださった方々に、あらためて御礼申し上げます。私たちを遺贈寄付先として信頼し、お選びいただいたことをうれしく思うとともに、そこに込められた期待にお応えできるよう事務局一同がんばります。

 2つ目に、関西テレビ放送株式会社と取り組んだクラウドファンディング「ぷらす8゛(エイド)」があげられます。この企画は2023年3月に関西テレビ「報道ランナー」で私たちの活動を取材していただいたご縁から、子どもの貧困問題の解決に向けて立ち上がったものです。社会に大きな影響力をもつテレビ局との取組みにより、多くの視聴者に関心を持ってもらう機会となりました。

 ほかにも、株式会社フェリシモをはじめとする企業さまからのご寄付、天理市・田原本町とのふるさと納税の仕組みを活用した「ガバメントクラウドファンディング」、東大寺をはじめとする賛同寺院さまからの賛助会員費や設置いただいた募金箱、助成団体からの助成金など、多くの方々にお心を寄せていただきました。ここに厚く御礼申し上げます。

おてらおやつクラブからのお願い

 私たちはこれからも、多くの方々にお力添えいただきながら、生活に困窮するひとり親家庭が、必要な支援や団体に安心してつながれるような仕組みづくりに尽力してまいります。

 子どもたちにとって日ごろから相談できる相手が複数いることは、いざという時に助けを求めたり、頼ったりできる人や場所が社会に存在することを知るきっかけになるはず。
「たよってうれしい、たよられてうれしい。」社会の実現に向けて、引き続きおてらおやつクラブを応援ください。よろしくお願いいたします。

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