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増え続ける支援要請に「おてらおやつクラブ」は大ピンチ?!インパクトを損なわず、効率を高めることに試行錯誤の1年


増え続ける生活困窮家庭からの支援要請

 2022年度も、おてらおやつクラブ事務局には新型コロナウイルスの感染拡大が起きるたびに、支援団体を介さない、直接的な支援(以下、直接支援)の要請が多く寄せられました。この傾向はコロナ禍が始まって以来繰り返されたものであり、私たちも対応力を高めるために、ヤマト運輸様とのDX推進をはじめ、事務局職員の採用強化、システム開発体制の組織化に取り組んできました。
 しかし2022年夏に起きた”コロナ第7波”の影響力はすさまじく、私たちの想定を超える支援要請が寄せられることとなり、支援のあり方そのものを見直さざるをえない状況に追い込まれました。
 私たちの「おそなえ、おさがり、おすそわけ」の活動は、支援したい方/支援を求める方のバランスの上に成り立っています。そのバランスが大きく崩れる事態に直面した私たちは、支援対象者に一定の条件を設けることに踏み切りました。
 それにより、2022年度の直接支援の登録世帯数は全国8,548世帯(前年比143.8%)と増加した一方で、おすそわけの発送数は前年比の74.4%(7,567箱)に減少しました。主に、2回以上支援を申請された家庭への支援をお断りしたことが発送数減少の要因です。

生活困窮家庭の深刻な生活状況

 では、どのような家庭におてらおやつクラブから直接支援が届けられたのでしょうか。私たちがロジックモデルで策定したアウトカムの評価から見てみましょう。

 私たちが実施した「直接支援調査(2022年12月)」の各項目のスコアの推移を見ると、「困ったときにすぐに助けを求められる人や場がある」と「心理的に状況が改善する」の2項目はスコアの上昇が見られ、反対に「孤立感や孤独感がやわらぐ」は大幅にスコアが低下しています。
 前者の2項目のスコアの上昇は、先述の通り、より生活状況の厳しい家庭におそすわけを限定実施したことから、おすそわけを受け取ることで助かったと感じる方の割合が高まったのではないかと考えます。
 なかでも2022年度からは、病気や災害、自死などで親御様を亡くされている子どもたちを支える、あしなが育英会様と活動連携を行うこととなり、高校奨学生のご家庭にもおすそわけを通じた支援を行っています。具体的には、次のようなコメントが寄せられています。

 調査結果によれば、心理的な状況改善(75.8%)の方が、経済的な状況改善(39.0%)に比べて高い傾向が見られます。支援で届けられる物資は「おそなえ」であり、支援者の思いやりをいっそう感じやすいことに起因するのでしょう。これは従来から、私たちの活動の大きな特徴の1つであり、2022年度も一定以上のクオリティを維持できたのではないかと考えます。

 他方、私たちが長期成果として掲げる「孤立感や孤独感がやわらぐ」のスコアが大幅に低下したことについては、強い衝撃を受けています。その要因について私たちは、次のような調査の自由回答に注目し、理由を推測しています。

 1つは、長期化するコロナ禍の影響で、支援団体の側も活動を休止したり、新規利用者の受け入れを停止するなどの措置を取っていることです。もう1つは自治体で、コロナ感染により自宅療養を選択しても、生活状況によらず支援物資の提供を実施しないケースがあったことです。 
 いずれの場合も生活が立ち行かなくなって困窮したときに、頼りになると思っていた存在から支援を得られないという大変な経験をして、孤立感や孤独感を深めることにつながったのではないかということです。 

 ひるがえって私たちの活動においても、支援を受けて助かったと感じる方がおられる一方で、支援を受けられず困窮状況を深めさせてしまった方がおられることは想像に難くありません。
 支援のための資源は有限であるとはいえ、こうしてつらい体験をさせてしまうケースがあちらこちらで生じているだろうこと。また、そうした体験から人が孤立感や孤独感をいっそう深め、ひいては自暴自棄な行動に出てしまうかもしれないことに注意が必要でしょう。たくさんの「ありがとう」の声の背後にある大きなスコア変化を、私たちは深刻に受け止め、今後に活かしたいと考えています。

 さて、ここからは、アウトカム評価をもたらした要因について検討を進めます。

DX推進により、業務分散化と配送コスト低減を実現

 2022度、みてね基金様の助成金を活用し、ヤマト運輸様およびNAIST(奈良先端科学技術大学院大学)の若手エンジニアたちとの連携により、2つの独自配送システムが完成しました。1つ目は、全国どこの寺院からでも要支援家庭へ個人情報に配慮しておすそわけを配送することができる「匿名配送システム」。2つ目は、全国の寺院と支援団体を自動マッチングし、おすそわけを配送することができる「物流管理システム」です。

 2つのシステムの稼働により、事務局に一極集中していた諸業務を全国の寺院およびボランティアへ分散することが可能となり、激増したニーズに対応することができたことは、昨年度のインパクトレポートでご紹介したとおりです。
 2022年度はさらに一歩進んで、支援団体あるいは直接支援家庭へのおすそわけのうち、同一配送エリア内(ヤマト運輸の規程による)のお寺様からの発送の割合を示す「循環率」を管理指標として、日々運営を行いました。
 循環率は高ければ高いほど、地産地消のようにおすそわけの移動距離が短くなり、配送費用を低く抑えることができていることを示します。

 例えば、北海道の支援団体の受け取るおすそわけのうち、同一配送エリア内の寺院からの発送が占める割合は95.1%であることを示します。残りの4.9%は北海道以外の配送エリアの寺院から越境しており、おすそわけが海を渡ることになるため、配送費用が高くついてしまいます。ですから、循環率が100.0%となるとき、配送費用が最も抑えられた状態といえます。
 2022年度の寺院と支援団体の配送における同一エリア内での循環率は全国平均で79.3%となりました。とりわけ関西エリアで循環率が向上しているのは、これまで全国各地のお寺様から事務局に寄せられたおすそわけがここに含まれていて(事務局が支援団体の1つとして扱われていた)、それが今年度から各地の支援団体へと振り向けられたために、スコアが上昇して見えるということでした。
 他方で、寺院と直接支援家庭の循環率は43.3%となりました。こちらは先の支援団体における循環率よりも、多くの地域でスコアの向上が見られます。その要因としては、各エリア内で直接支援活動に積極的に関わっていただけるお寺様の数が増えていることが挙げられます。いずれにしても、おすそわけの地産地消が進んでいることがわかります。

 事務局から各地域のお寺様へ、業務が分散されていることは、寄贈物資の重量データからも明らかです。
 2022年度、私たちの事務局へお寄せいただいたご寄贈品は重量にして31.1トン(前年比57.0%)となりました。主に企業様からまとまった分量のご寄贈品をお受けする際、複数箇所に分納していただくことで、私たちが荷さばきする手間が省け、省スペース化が進み、さらに奈良の事務局から全国へ発送する長距離配送の費用もかからないなど、想定以上のメリットが出ています。

 このようにDX推進により、事務局の業務負担の分散化と配送費用の低減を同時に実現することで、私たちの活動はいっそう無理なく活動を続けていける活動体へと着実に移行しつつあるのです。

着実に成長するネットワーク

 2022年度、私たちの寺院ネットワークは1,859カ寺(前年比103.5%)、支援団体ネットワークは687団体(前年比121.2%)、毎月の子ども支援数はのべ24,383人(前年比104.0%)と堅調に推移しています。

 コロナ禍以降、寺院では葬儀・法要規模の縮小により「お供え物が減った」という声が聞かれます。しかしこのようにして、私たちの活動に関わってくださるお寺様が変わらず増加していることは、「子どもの貧困」問題に関心が寄せられていることを示しているといえるでしょう。
 またボランティアの受け入れも回復傾向にあり、2022年度はのべ473名(前年比215.0%)のボランティアのご協力をいただきました。
 最近では学校教育の一環として、中高生や大学生ボランティアの参加が増加傾向にあります。彼ら/彼女らが自分たちの住まう地域社会に目を向け、社会課題に関心を深めていることを頼もしく感じます。

広報機能を強化

 私たちの活動に関心をもっていただくきっかけが少しでも増えるよう、2022年度は広報機能の強化に力を入れました。とくに全国12ヶ所で「おてらおやつクラブ全国巡回展」を開催し、地元メディアに取材していただく機会を創出しました。
 結果、年間を通じて68件(前年比121.4%)のメディア露出の機会が生まれています。なかでも関西テレビ「報道RUNNER」での活動紹介は、放送後大きな反響がありました。

 また、2022年度は28件(前年比133.3%)の講演を行い、活動参加の呼びかけを行いました。環境省主催「第3回パリ協定とSDGsのシナジー強化に関する国際会議サイドイベント」での英語プレゼンテーションや、内閣府主催「こどもの未来応援フォーラム2023」での基調講演など、多くの聴衆を前にした講演機会が増えています。
 ほかにも、私たちの活動にご関心をお寄せくださる方に定期的にメール配信する「おてらおやつクラブ通信」の登録者数は、4,786名(前年比105.9%)となりました。
 広告費用を一切かけず、メディア露出や講演機会を通じて多くの方々に活動を知っていただくことは、私たちらしい活動周知の手段であると考えています。

切迫する財務状況

 支援ニーズが急増する一方、十分にお応えできるだけの活動資源のなかったことは、先にご紹介したとおりです。
 2022年度の受取寄付金は、総額で46,368,517円(前年度比129.9%)となりました。個人からのご寄付や、株式会社フェリシモ様をはじめとする企業様からのご寄付が含まれます。いつも本当にありがとうございます。
 しかし財務状況が支援要請の増大に見合わないことから、私たちは、天理市・田原本町とのふるさと納税の仕組みを活用した「ガバメントクラウドファンディング」、賛同寺院様からの賛助会員費や設置いただいた募金箱、SMBCグループライジング基金をはじめとする助成団体からの助成金など、資金調達に奔走しました。
 それでも2022年度中盤にはキャッシュフローが悪化する事態に陥り、地元奈良の南都銀行様のお力添えにより初の借入(つなぎ融資)を行うなど、財務状況が切迫する事態も経験しました。活動のインパクトを落とさないためにできることを考え続け、多くの方々にお力添えをいただいた1年でした。

おてらおやつクラブからのお願い

 困りごとを抱えるひとり親家庭からの支援要請は引き続き増大しており、おてらおやつクラブの運営は資金面で厳しさを増しています。皆様のご支援がいっそう必要な状況です。どうか、お力添えのほど、よろしくお願いいたします。

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