実家の庭への追悼文

実家の庭をなくします

母からLINEが入った。わたしの実家は田舎なので、結構広い庭(家よりも広い)があるのだけれど、その庭を無くして更地にするらしい。

実家は母方の両親の住んでいた家を、亡くなった後に母が譲り受けたもので、高校生の頃に引っ越した家だ。

実際にそこに住んでいたのは7年ほどなのだけれど、わたしにとっては、幼い頃に行った祖父母の家でもあった。

祖父は少し変わった人で、どこからか桜の木をそのまま引っこ抜いてきて軽トラックで運んだり、高山植物を持ってきて移植したりして、庭には雑多な植物がたくさん植えられていた。

庭に祖父が作った滑り台(いとこが首に飛びなわを引っ掛けたまま遊び、窒息死しかけたため、すぐに撤去された)のことや、妹と必死に集めた栃の実(虫が湧いて、母が悲鳴をあげた)のことを思い出すと、少しセンチメンタルな気持ちになった。

家族のグループLINEでは、妹が、母に抗議していた。

わたしは、桜の木(枯れかけの老木だったからか、右の枝と、左の枝が1年ごとに交代で咲く怠け者の木だった)を残して欲しいと思ったけれど、草木は全て無くしてしまうらしい。

わたしの実家は寒い地域なので、もう間もなく花が咲くはずだった。


母にとっては、もっと思い出のある庭だったのだと思う。母にとっても高校生の頃から、両親と暮らした家なのだから。

業者が来て、重機で庭を崩す様子を見て、母はどんな気持ちだったのだろう。


翌日、切り取った一本の枝の写真が送られてきた。

「少し咲くのが遅かったみたい」と一言添えて。

桜の枝にについていた蕾が、今日咲いたらしい。



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