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ノケモノの地下城 14【長編小説】

つかつかと何者かが近づいてくる音がした。
「誰だ」
罪人が訊ねると、男が現れ、檻の前で立ち止まった。蔵谷博人であった。
「はあ、珍客だな」
「篠崎努を探してる。知らないか」
博人はぶっきらぼうに訊ねた。
「挨拶抜きかい。まあ、いいが。あれは二、三日前にここに来たな」
二、三日前だと。博人は、奥歯を噛みしめ過ぎてギチギチと音が鳴る。
「どこに行ったか分かるか?」
それに答えず、罪人は聞く。
「篠崎の爺どもには話してあるのか?」
「その爺どもから言われて来たんだよ。地下のことで訪ねたら、努が行方不明で、やつの持ち出したもののせいで水脈の統治がままならんと騒ぎになっていた。場所を知ってるなら教えてくれ」
「訪ねて行ってから知ったのか? すぐさま蔵谷に連絡が入ってないとはおかしな話だな。ははっ」
罪人は乾いた声で笑う。
「とにかく、一刻も早く努を見つけたい。何か知らないか」
罪人は、さてな、と答えただけだった。
「努を匿ってないだろうな。変な隠し事なら……」
罪人がため息をつき、遮った。
「匿ってなどいない。まともに連携も取れずにいて、ここに来るくらいだ。変な隠し事をしているのは、お前たちだろう。何を隠している? そこの陰にいるお嬢さんと関係あるのか」
博人の目が揺れる。真夏なのに冷気を帯びた風が通り抜け、身震いした。
湧水が流れるトンネル内に造られたこの獄舎は、一年を通して気温が二十度前後しかない。
ちょろちょろと水の流れる音がする。
「あんた、何で……」
「昔から鼻が良すぎてな。回りくどいことをするな」
博人が舌打ちすると、陰からするりと長身の女が現れた。
ほっそりと長い手足、切れ長の目、朱《あか》い髪が美しい娘。茶臼山《ちゃうすやま》の城を守るキツネの末裔。
「清藤のお嬢さんだったか」
「すみません、挨拶もせず」
清藤亜紀《きよふじあき》は頭を下げた。
「なに、お嬢さんが謝ることはない。どうせ博人が止めたんだろう」
しかし、この娘が一緒にいるということは……。
「地下の抜け穴に関することだな? 努が行方をくらましたのに、お前たちにすぐさま連絡をよこさなかったのは、やましいことがあるからだ。それで、努は何を持ち出したって?」
博人は黙っている。彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。代わりに、亜紀が答えた。
「龍の地図です」
罪人の目が見開かれた。
そうか。あの子だぬきは、いまだ戦場にてか……。

(続く)


この作品は小説投稿サイトエブリスタに載せていたものです。


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