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大谷レキオ
2021年6月15日 14:16
雨音が続いていた。ときおり、ひやりとしたすき間風が頬を横切る。 カエルも鳴かぬ豪雨か。ボロ屋の戸が軋む音が悲鳴のようだ。 私の前にはおそらく毛玉がいる。おそらくというのは、毛玉が静かで、気配もジンガイだから、なかなかはっきりとその輪郭がつかめないのだ。「おい毛玉、そこにいるか」 毛玉の所在を明らかにするための質問をしたところ、舌打ちのような返事が返ってきた。「殿様気取りか、ジジイ」
2021年5月11日 01:32
琵琶の響き、うさぎの跳躍。あの娘は何処、私は盲目。淡くぬくいこの毛玉が、私の視界を翻訳する。私は琵琶を弾く、語る、唄う。毛玉は、踊る、踊る、踊る。 肌を刺すような冷え込みの卯月、私は毛玉を拾った。 琵琶を弾いた帰路、私の杖の先にぶすりと刺さったそれは、道の真ん中に倒れていたのだろう。私の視界は真っ白だったり、真っ暗だったりして、道の小石にも気がつけない。人の感じとれる類いのものでもなく、お