マガジンのカバー画像

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ

14
運営しているクリエイター

#現代ファンタジー

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ2

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ2

 雨音が続いていた。ときおり、ひやりとしたすき間風が頬を横切る。
 カエルも鳴かぬ豪雨か。ボロ屋の戸が軋む音が悲鳴のようだ。
 私の前にはおそらく毛玉がいる。おそらくというのは、毛玉が静かで、気配もジンガイだから、なかなかはっきりとその輪郭がつかめないのだ。
「おい毛玉、そこにいるか」
 毛玉の所在を明らかにするための質問をしたところ、舌打ちのような返事が返ってきた。
「殿様気取りか、ジジイ」
 

もっとみる
【小説】肥後の琵琶師とうさぎ1

【小説】肥後の琵琶師とうさぎ1

 琵琶の響き、うさぎの跳躍。あの娘は何処、私は盲目。淡くぬくいこの毛玉が、私の視界を翻訳する。私は琵琶を弾く、語る、唄う。毛玉は、踊る、踊る、踊る。

 肌を刺すような冷え込みの卯月、私は毛玉を拾った。
 琵琶を弾いた帰路、私の杖の先にぶすりと刺さったそれは、道の真ん中に倒れていたのだろう。私の視界は真っ白だったり、真っ暗だったりして、道の小石にも気がつけない。人の感じとれる類いのものでもなく、お

もっとみる