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広告批評を読む (#6)

今回取り上げるのは月刊広告批評(第129号)です。前回記事はこちら。

特集:佐藤雅彦

第129号で特集されていたのは佐藤雅彦氏。先ずはこのCMをご覧ください。

これらのCMを作ったのがこの方、佐藤雅彦氏です。い、イケメンですね。。東大卒からの電通でこの風貌、さらには才能。よほどモテたんだろうなぁ。実際にCMディレクターの"なかじましんや"氏もこう述懐している。

ぼくは河内さんに連れられ電通の佐藤雅彦さんを訪ねました。佐藤雅彦さんはいわゆるバブリーなクリエイター達とは全く違う、めちゃめちゃインテリジェンスな雰囲気を漂わせている青年でした。

※1"佐藤雅彦の登場は「ディレクターの時代からの転換」を意味した" より引用
月刊広告批評(第129号)より引用

連呼CMを確立

CMを観てお気づきの方も多いと思いますが、先の2本のCMには明確な特徴があります。

例えば、僕が初期に作ったCMは、「のり塩鉄道(湖池屋ポテトチップス)」と「スコーンダンス(湖池屋スコーン)」なんだけど、この二本は”連呼”でできているんですね。なぜ連呼でやったかというと、名前を覚えてもらいたかったから。(途中省略)。それが、連呼は広告っぽさが出すぎるからやめようとか、もっとアートっぽいものをやろうとかいう風になってきて、だんだんすたれてしまった。

月刊広告批評(第129号)より引用、強調は筆者

同記事でご本人が言及しているのですが、”連呼する”という手法は決して目新しいものではなく、広告としては王道の手法(月刊広告批評,129号)。しかしその当時、糸井重里氏や川崎徹氏が作る広告が評価されており、多くのクリエイターはそういった広告を作ろう、あるいはそれを超えるために新しい自由な手法にチャレンジしようとして、佐藤氏曰く「広告がおかしくなってきたんじゃないか」(月刊広告批評,129号)という状況が生まれていたと。佐藤氏の考える広告とは、

広告というのは本来サービス業である。お茶の間へのサービス、スポンサーへのサービスが広告代理店には必要とされているにもかかわらず、いまやそのサービスはどこに行ってしまったのか。広告の作り手が、自分勝手に遊んでいるだけじゃないか。

月刊広告批評(第129号)より引用

という考えを持っていらっしゃったようです。あくまでクライアントの要望を叶えるのが広告。そして佐藤氏は表現を考える際、「方法論」をとても重要視されるとのことでした。

表現も、僕は方法論から入ります。まず、方法論を決定する。僕は、新しい方法論でものを作れば、たとえその人が凡才でも、いいものが作れるはずだって、信じているんです。

月刊広告批評(第129号)より引用、強調は筆者
月刊広告批評(第129号)より引用

佐藤氏の方法論とは

ここで佐藤氏の方法論を一つ引用しましょう。

新しい構造
コマーシャル自体が新しい構造をしているとオンエアしたとき、それだけで目立つんです。例えばトップルの構造は、A+B+A'。ジャガッツは「A+A'+A''+A'''」。こういう構造まずは描いておいて”ビデオテープをリプレイ”させる。みたいな表現を後から考える。

月刊広告批評(第129号)より引用、強調は筆者

とてもロジカルな構造です。ただ、これは実際にCMを見て見ないと分からないので見てみましょう。

数式化して考える

詳しく説明を加えてみると、「A+B+A'」とは。

A:基本となる動画
B:コマーシャルは控えめにのナレーション
A':控えめに表示する画角を小さくして基本動画をもう一回。

筆者作成

ジャガッツの場合のA+A'+A''+A'''とは。

A:基本となる動画
A':「この男です。もう一度見てみましょう。」から基本動画をループ。
A'':「この男か。」で動画ループ。
A''':もう一度だ。
※巻き戻して再生する度に主婦のセリフが繰り返される

筆者作成
月刊広告批評(第129号)より引用

先に引用した”なかじましんや”氏の記事にて、数式を活用した企画の考え方を実践している様子が紹介されています。

しばしあっけに取られてると、「しんやさんも見えるはずです」「え?」「企画が完成する瞬間、そうですね、難しい数式の解が見つかる瞬間とおんなじです。気持ちよくつながった瞬間にとても美しい、キラキラしたガラス細工のような美しいものが見えるんです。しんやさんも見えますよね?」キラキラ……。「あ、はい、見えるような気がします……」

※1"佐藤雅彦の登場は「ディレクターの時代からの転換」を意味した" より引用、強調は筆者

意識的に数式のような構造を考えていらっしゃることが、このやり取りから分かりますよね。"なかじましんや"氏が、CMの世界におけるディレクター万能の時代から、CMプランナーやアートディレクターがディレクターとタッグを組んでいく時代に移っていった(※1)と仰っていますが、一方では仕組みやフレームワークに注目が当たり始めた時代に移っていったとも言えると思います。(その対極にあるのが糸井重里氏で、社会全体に染み込むような思想や世界観を構築していたように思うわけです)

良いか悪いかでいうと広告業界が抱える悪い文化だと思うのですが、広告業界で「このCMはIQが高すぎる」というような会話がなされることがあります。それは、CMの内容が複雑すぎて視聴者に伝わらないという意味で使っているのですが、佐藤雅彦氏が作るCMはとても分かりやすく、つまりは"売れる広告"なのだと思います。

佐藤氏の分かりやすさのイメージは、もはやビジネス用語の定番になりましたが「MECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive、漏れなくダブりなく)」や、「PDCA(Plan Do Check Action)」などのフレームワークを沢山持っているということに近い。

もちろん”分かりやすい広告を作れば売れる”ということには繋がりませんが、そもそも伝わらないことには消費者が購入を検討してくれることも無い訳で、佐藤氏の場合は分かりやすくて、しかも商品名が記憶に残りやすい、そういう方法論をご自分の中に確立したということが強みにあったと思うのです。広告プランナーが注目されるきっかけを作ったのは佐藤雅彦氏だと思うのですが、言語化できていない部分もあったでしょうから、その領域は佐藤氏の独壇場であったに違いありません。そう簡単に他のプランナーが真似できるようなものではなかったでしょう。

月刊広告批評(第129号)より引用



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