見出し画像

[ダーウィンクラブ]もし陰謀論が本当だったら?


トランプ元大統領以降語られるようになったQAnon。傍目にはおかしな陰謀論としか思えないような思想を持って政治活動をする人たちのことである。日本では某芸人さんが「信じるか信じないかはあなた次第です」と、半分脅迫じみた言葉で私たちに迫り、「信じないあなたは後で損をするよ、ねぇみんな」と信じるように煽り立てる。何だかよく分からないまま、その流れに乗ってしまう人も少なくないのではないか。

そんな現代を席巻してしまくっている陰謀論が、もし本当に実在してしまっていたら?を描くのがこの「ダーウィンクラブ」だ。前回記事を投稿した時は、まだ単行本の1巻が出たばかりだったので、今回はその後の展開を含めた内容について語ってみたい。

世界中でCEOと従業員の経済格差が千倍以上の巨大企業へのテロ行為が始まる。主人公の元警察官・石井平良は幼少時に父親を殺されてしまう。その男は・佐藤田中と不思議な名称で呼ばれる。ある事件で平良が後輩の宮本とともに独自に捜査し、何とか佐藤を見つけ出すが、彼の映像が警察内部の何者かによって消されてしまう。さらに宮本には命の危険が迫る。佐藤田中が所属している組織の目的は?その組織には進化論のダーウィンが関係しているらしい。事件の背後にいるのは「ダーウィンクラブ」という組織。クラブが求めるのは「良い行い」「良い人」。宮本のことで警察官を辞めた平良はダーウィンクラブと関係があるトロイという企業へ潜入することを選ぶ。クラブに近づいた平良を待ち受けるのは恐るべき計画だった。

この漫画で描かれる”Relent”というグローバル企業はまるでAmazonをモチーフにしたかのような通販会社だ。そのCEOとして登場するロークがあのような大企業を作りあげ、大きな富を作ることができたのは、”我々の投資と協力があったから”と謎の男はいう。そして、この世界で成功した人間はダーウィンクラブとある規約を結んでいる。そしてその規約を破ったものにはカードが渡されるらしい。そこに記載された”068”という数字の意味は?

あの企業が(人が)大成功した裏にはあの組織がいた。もしかしたら、どの国にもそう語られるような秘密結社のような組織があるかもしれない。日本にも、「日本会議」という裏で政治や経済を操っていると言われるような組織がある。本当かどうかは分からない。

陰謀論というのは非常に便利な考え方だ。特に、現代のような問題が複雑に絡み合っている世の中においては"物事を単純化して分かりやすく"してくれる効能があるため、まさに自分で考えることを拒否して分かりやすいものに飛びつきたい人にとっては直ぐ効くサプリメントなのだ。そんな陰謀論を信じてしまう人間が世の中に1人や2人ではないというのを証明してしまったのが米国連邦議会議事堂が襲撃された事件だったろう。その時は約800人もの人が集ったという。その群衆、いや暴徒たちは根拠の薄い話を信じて議事堂を破壊しようとしたのだ。

ダーウィンクラブ本作の中にも、自動車メーカーの"ピアフ"の事故が世界中で同時多発的にニュースとなり、ピアフ幹部の社内で行われた会話のリークがあり炎上。それらを裏で仕掛て世間を煽ったのは佐藤田中だが、単に世の中に火種を放っただけで、その炎を大きくしたのは紛れもない何も知らない群衆だったりする。

作中では世の中を騒がせる大きな事件の裏側には「ダーウィンクラブ」がいる。一般大衆は煽られ、流されてしまう存在として描かれる。しかし彼らについては積極的に語られることはなく、ある意味でフラットな存在として描かれているのが大衆のように思う。"Soku-B"という衣料品会社の社員が登場するが、彼らは自社の社長の身に危険が及んでいると分かっていても、以下のような会話をしている。どこか他人事だ。

「アングリービーグルの攻撃始まるのかね」
「うちの株下がるよな」
「俺、自社株追加で購入しちゃったよ」
「ますます会議荒れそ」
「全体の目標額から逆算して売り上げ求めてくるのやめて欲しいんだけど」

警察内部にダーウィンクラブの内通者がいて、そいつに宮本が殺されたり、主人公の平良も事件が原因で警察を退職している。主要人物たちがギリギリのところでのやり取りをしている中での上記のような平和過ぎるやり取り。知らぬが仏か。作者・朱戸アオさんの世の中への皮肉を感じるのは私だけだろうか。

ダーウィンクラブの今後の展開で個人的に楽しみにしているのは、この大衆が主人公たちの闘いにどう関わってくるのかだ。主人公たちがダーウィンクラブと人知れず戦い、勝利(あるいは敗北)をするだけなのか。それとも、大衆がどちらかの陣営を推すことによって勝利を手繰り寄せることになるのか。第3巻までの展開では、大衆は格差を助長する大企業を攻撃するアングリービーグルを応援している。「実行犯になりたい人たちはたくさんいる」佐藤田中がそう言うのは、大衆は不平不満を刺激するような事実を見せてあげれば容易に操ることができる、そう思っているからではないか。大衆は賢いのか、愚かなのか、どっちだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?