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父の詫び状

子どもの頃、書籍を「聴いていた」ことがある。音楽を聴くように。

正確にいうと、小説やエッセイをナレーターが読んだものを納めたテープを聴いていた。

いわゆる大人の読み聞かせとでもいうのか。私の父が、こうした媒体を作っていたのだ。媒体名を「テープ塾」という。

そんな縁で、「耳にした」小説でとても印象的だった1冊がある。

向田邦子氏の「父の詫び状」。

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向田さんの、父の思い出を淡々と綴った短編集。書籍のタイトルにもなっている「父の詫び状」は、1編目に納められている。

幼い頃に「聴いた」思い出と、改めて読んで受けた衝撃が混ざり合って、なんとも言えない気持ちで読み進めた。

このお父さん、今もしこんな方がいたら、モラハラで訴えられるだろうなあというほどの横暴な人。「小言や拳骨が飛んでくる」というのもちょっと驚き。この時代では、スタンダードなお父さんなんだろうか。

ただものすごく堅物だが、時にやることが真面目すぎて、その姿がおかしいという家族共通(父を除く)のウケポイントもあって、そうした部分にふれた箇所を読むとなんだか心の中に温もりが広がる。クスッと笑える。

数々の父とのエピソードが描かれているが、締めくくりがなんとも絶妙だった。

最後、父の理不尽な仕打ちにモヤモヤとする娘が、受け取った手紙で目にしたもの。「それが父の詫び状であった」。

ゾクゾクっとした…。

この先はぜひ、書籍で読んでいただきたいと思う。

ちなみに、このエッセイを「聴いて」いた頃、一番好きだったのが「子供のどぶちゃん」という箇所。当時はお酒(どぶろく)を家庭で作っていたそうなのだが、失敗して、酸っぱくなったものは子どもたちにジュースとしてあてがわれたんだそう。ヤクルトみたいな乳酸菌飲料的な味だったのだろうか。

幼心にどんな味なのかも気になったし、「どぶちゃん」という響きも好きだった。「どぶちゃん」エピソードが書かれている部分を読んだときも、キュンとしてしまった。

最後に、冒頭でふれた「テープ塾」。Amazonで売られているのを見つけてしまった。年数も合うので、多分これだと思う。

創刊号の表紙は、積み重ねたテープがハンバーガーのバンズに挟まっているというビジュアルだったことをよく覚えているんだけど…。

買ってみようかな・・・。怖い。

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桜もきっと今日の雨で終わり。春ってあっという間。

ありがとうございます。