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【洋書多読】Far from the Tree(204冊目)

2018年以来日課にしている洋書の英語多読。昨日『Far from the Tree』というYAの小説を読み終えました。

本作品は2018年に「全米図書賞受賞」という文芸賞を受賞しているそうです。

タイトルである「far from the tree」は、英語のことわざの「The apple doesn't fall far from the tree=りんごは木から遠いところには落ちない=子は親に似る」という意味で、このことからもわかるように、家族の物語を描いた青春小説です。

本書には、先月大阪に帰った時に知人のクミさんと仰る多読愛好家の方から教えていただいて興味を持ちました。ただ、基本的にあまり幸福とは言い難い家庭環境で後半生を過ごしている僕にとって、タイトルからはむしろある種の嫌な感じを受けたのも事実です。

でも、敬愛するクミさんのオススメだからきっと洋書であるに違いない!そう信じて購入してみました。

押し付けがましい「家族の理想像」は嫌いだけれど

家族像に限らず、僕は「理想の〇〇像」というのが嫌いです。

「普通であること」というのはその言明自体がある種の暴力性をはらんでいるので、「理想の〇〇」を無邪気に振りかざすのは、知らないうちに誰かを傷つけてしまう可能性があるからやめておいたほうがいいと思うんです。

何が言いたいかというと、この『Far from the Tree』というタイトルを見たときに僕がとっさに想像したのが、これは「家族はこうあるべき」論が物語のベースとして無意識に横たわっている、おためごかし小説なのではないだろうか?ということでした。

現に読みはじめてしばらくは、ずっとそういう雰囲気が漂っていました。

望まない妊娠をした女の子、裕福な家庭に育った母親がアルコール依存症である女の子。そして問題行動が原因で養子先を頻繁に変える「foster care(フォスターケア、公的機関が養育費を出す里親)」を受ける男の子。
主人公のこの3人に共通しているのが「養子に出された」つまり幼い頃に実母に捨てられている、ということです。

親と一緒に住んでない=不幸みたいな。

特に「アルコール依存症者の家族とそのあるべき家族像」なんて「機能不全家族」という名前で精神科界隈でよくこれまで耳にしてきた述語です。薬物依存のソーシャルワーカーとして長く稼働した経験から言うのですが、

機能不全家族という述語自体がもうすでに相当の暴力性をはらんでいる

と思っています。

家族のカタチなんてみんなバラバラです。100の家族があれば100通りの家族のカタチがあるはずです。だから極端に言えば「理想の家族」なるものを定義した瞬間に「全世界の家族数−1」の家族はみんな「機能不全家族」であることになっていまいます。

そして僕の臨床ソーシャルワークの経験に照らして言えば、問題を抱えていない家族なんて、そんなの世界中探してもありません

どの家族も多かれ少なかれ何らかの問題を抱えて生活しています。だから「機能不全家族」みたいなジャルゴンで「ちゃんとした〇〇」とか「理想的な〇〇」を押し付けられるのは嫌なんですね。

そういう匂いを、読む前にタイトルを見た瞬間に幻覚してしまった。これが『Far from the Tree』との出会いでした(クミさんごめんなさい)。

でも『Far from the Tree』はそんなに押し付けがましくはなかった

しかしながら、この『Far from the Tree』は、読み進めていくうちにそんな無自覚な暴力や「おためごかし」に満ちた小説ではなくて、ある意味で非常に健康的なYAの小説だ、と思うようになっていきました。

ようは「押し付けがましくなかった」ということです。変に養子縁組を美化しすぎているわけでもないし、かといって物語が単調すぎるわけでもない。様々な葛藤を抱えた境遇や家庭環境で育った3人のadressentたちが自分のルーツを探しに出る様を力強く、シンプルかつ清々しく描いていて非常に好感が持てました。

そうなるとこの手の物語は得てして展開がありきたりの、とても凡庸なお話になりがちです。事実『Far from the Tree』のストーリー展開はとてもストレート・アヘッドで、どろどろした、錯綜したプロットを期待する人にとっては、ある種の脱力感を禁じえない小説かもしれません。

でも、だからこそ安心して読めるところがあるかもしれないと思いました。妙にひねりすぎてもいないし、哲学的だったり教条的だったりするわけでもありません(だったら僕の英語力では歯が立ちません)。物語そのもののシンプルさがある意味で力強さになって、本書全体のヴィヴィッドな印象を形作っている、そんなふうに思われました。

青少年にも安心しておすすめできる一冊かと。

英語は読みやすいです。

物語の印象は英文の素直さにも表れています。変にファンシーな単語も出てこないし、小難しいレトリックを使っているわけでもありません.文法もシンプルで、高校英語レベルの文法知識があれば読めそうな英文は、本書の84000語というボリュームをあまり感じさせません。

つまり「多読にもってこい」の一冊だということ。

本書は洋書多読用の図書に多い「自分探しモノ」に分類されるのかもしれません。

「自分探しの物語」という意味で言えば、多読用洋書の王道であるSarah Weeksの『So B. it』やJacqueline Wilsonの『Dustbin Baby』を思い出します。

『Dustbin Baby』の方は若干好き嫌いが分かれる可能性がありますが、どちらもとても感動的なお話です。その系統に属する物語ですといえば、おわかりいただける方にはおわかりいただけるかなぁ、と思います。

英語がある程度読めるようになったらぜひ一度手にとってみて頂きたい一冊です。


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