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【洋書多読】The Midnight Library(212冊目)

『The Midnight Library』 By Matt Heig
 総語数: 83,210 words (Word Counters)
 開始日:2023年2月17日
 読了日:2023年2月24日
 多読総語数:7,807,847 words(※)

(※語数のカウント法の見直しや未計上の洋書を追加する等で変更の可能性があります)

少し古い本(2020年8月出版)になりますが、『The Midnight Library』というフィクションを読了しました。

2020年に出版されたMatt Haigのベストセラー小説。邦訳版も出版されているので、すでに手に取られた方も多いかも知れません。ちなみに僕は日本語版も未読でした。

結論からいうと、読んで本当に良かった。これにつきます。しかも、話題になった当時ではなくまさに「今」読めたことが本当に幸運だったと心から思っています。

久しぶりに魂が震えるような素晴らしい一冊に出会うことができました。以下の画像は件の邦訳版「ミッドナイトライブラリー」のAmazonページから拝借していますが、ここに掲載されている全てのコメントに対して、僕は100%同意します。

Amazon.co.jp「ミッドナイトライブラリー」サイトより

「起こり得たかも知れない未来」を生きる女性の物語

主人公のNoraは30代半ばの独身女性。末はオリンピック水泳選手か?と将来を嘱望された少女時代、そしてロックバンドのメンバーとしてメジャーデビュー目前までいった才能の持ち主です。

しかしながらそれらの機会を活かすことないまま彼女は大学に進学し、哲学を専攻します。卒業後は明晰な頭脳でもって大学で得た知識・知見を現実生活に活かす術を見いだすことができず、周囲の期待に反して無為の日々を送ります。

誰からも見向きもされない、ぱっとしない生活。家族とは疎遠で勤めていた楽器店からは解雇され、そこに追い打ちをかけるように愛猫の不慮の死という不幸が重なったその夜、彼女は自らの命を絶つことを決意します。

失意のどん底で実際に「行為に及んだ」彼女がたどり着いたのが「真夜中の図書館=ミッドナイトライブラリー」でした。そこに配架されている無数の本には「彼女のありえたかも知れない未来」が記されていて、司書であるMrs.Elmのもと、実際にそれらの本に書かれた人生を、彼女はこの生と死の間にある図書館で、経験することができるのでした。

*****

さて、こうやって「あらすじ」を自分なりに書いてみると、僕の筆力の稚拙さを考慮に入れたとしてもなお、随分陳腐でありきたりなプロットであることだなぁと思わずにはいられません。

あり得たかも知れない人生を生きるフィクションなんて、なんのひねりもないじゃないか。
僕がまさにこの本を開くまで抱いていた先入感にほかなりません。

が、そうは問屋が…いや、NY Times57週連続ベストセラーリスト入り/The Sunday Times 67週連続ベストセラーリスト入りの実績が…卸しません。ひとたびこの本の頁をめくれば、この「あり得たかも知れないけれど、ありえなかった人生」が提示する世界の深遠さ、絶望感、そして豊穣さの波に圧倒されて、ページを捲る手が止まらなくなること請け合い、です。

この小説には、生きることの喜び、苦しみ、豊かさそして「愛」が詰まっていると思う

私事ですが、コロナ禍でフィリピンからの帰国を余儀なくされた2020年以降の僕は、まさに本書のNoraがたどった心理状態をなぞるように生活していました。暗すぎるので詳述するのは避けますが「あの時ああしていれば」「あの時こうしていなければ」という、寄せては返す後悔の波が、僕にとってのこの3年間でした。

というか、誰にだって多かれ少なかれ「あの時あぁしていれば…」という瞬間ってあるはずです。この記事を読んでくださっているあなたにも、です。

僕に関しては今、このタイミングで、後悔だらけの人生をバネに前向きに生きていこうとする主人公の物語に出会って手に取ることができたことに、ご縁以上のものを感じています。

こういう本にはそうそうお目にはかかれません。それにMatt Haigの原作が発売された2020年当時の僕の英語力では、本書の英語には到底刃が立たなかったと思います(『Holes』あたりの児童書をどうにか読みおおせて悦に入っていた時代です)。

ネタバレになるのであまり詳しくは書かないですが、この本を読んだことで、今のこの環境に感謝しながら日々を大切に、丁寧に生きていこうと改めて思えるようになりました。これはおそらく、この本を手に取った大多数の方が読後に抱く実感なんじゃないでしょうか。

『The Midnight Library』には生きることの喜び、悲しみ、苦しさ、豊かさ、儚さ、そして「愛」が詰まっています。これを読み始めて途中でやめる事できる人のことを、僕はうまく想像することができません。

英語力は「中の上」 決して読めないレベルではないけど…

さて、気になる本書の英語レベル感ですが、まず文法的には高校英文法のベーシックなところが抑えられていれば十分です。難関大受験レベルの高度な知識は必要ないでしょう。

少し前に出版されて話題になった倉林秀男先生の『英文解釈のテオリア』を読んで理解できるか、僕が英語コーチングでクライエントさんにオススメしている『高校英文法をひとつひとつわかりやすく』を一通りやり込んで理解することができれば、文法的には十分読めるレベルです。

しかしながら、使われている単語は大学受験レベルを超えていると思います。SVLで10000語レベルはほしいところ。TOEIC900点以上・英検一級合格に最低限押さえておきたいクラスです。ちなみに英検準一級合格に必要なボキャブラリーが7,000〜8,000語と言われているので、ちょっとタフな印象を受けるのは致し方ありません。

ただ、Kindleで読むのなら単語の難しさというハードルはグッと下げることができます。なんせワンタップで単語の意味を表示できる辞書機能が付いてるんだから。もちろん「意味を推測しながら読む」という多読的読み方で読み進めてもOKです。物語が面白いので、どんどん飛ばして読み進めていけるでしょう。

まとめると「英検準一級をもっている」、あるいは「合格が視野に入っている」人なら十分に読めるレベル感だと思います。っていうか、本書を読めるようになるために、上に挙げた参考書をやり込んでいただきたいくらいです。それくらいの値打ちはあります。

生きていく上で大切なものは「いま・ここ」にある

僕は今、和歌山県の熊野古道という世界遺産の道で、ゲストハウスの清掃員のお仕事をさせていただきながら、細々と英語コーチングを続けています。

そのお仕事の合間に貪るように読んだ『The Midnight Library』。

英検一級合格の実績を引き下げて3年前にフィリピンのセブ島から帰国したときは、自分がまさか時給900円の清掃の仕事をしていることになるとは思いもしませんでした。

でも、同時にこの仕事に対する面白さ、神聖な空気のこの地域、ひっきりなしに押し寄せてくる外国人と英語が使える環境、最寄りのコンビニが車で40分という辺境の土地での生活…を楽しめるようになりつつあら今の僕は、self pityの波に溺れて身動きが取れなくなっているNoraを心から応援しながら本書を読み進めました。

前を向いていれば必ずなんとかなる!幸せは、自分の足元にあるんだ!と。

そしてまさにそんなハッピーエンドを手にした彼女には、心底共感することができました。

人生はいつからでもやり直すことができる。そして大切なものは「いま・ここ」にある。今を大切に生きることの尊さとかけがえのなさを改めて僕に教えてくれた本書には、心から感謝しています。

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