2023焦点・論点 イスラエルのガザ攻撃どうみる明治学院大学教授(国際法) 阿部浩己さん〜すべてがNになる〜

2023年11月21日【3面】

自衛権行使は根拠にできない 幾重も国際法違反の戦争犯罪

 イスラエル軍の病院突入や乳幼児の死亡などイスラエルによる攻撃による惨禍がつづくパレスチナ自治区のガザ地区。国際法の観点から攻撃の問題点とそれを批判できない岸田政権について聞きました。(若林明)

 ―イスラエルはガザ攻撃を「自衛」だと主張し、主要7カ国(G7)の声明ではイスラエルの「自衛権」を持ち出しています。

 イスラエルが武力攻撃を開始する法的根拠はあったのかという点と、一つ一つの攻撃が国際人道法にかなっているのかという2点から考える必要があります。

 まず、イスラエルが国際法上の自衛権を根拠にすることはできないと考えます。ガザ地区はイスラエルの占領下にあるからです。

 イスラエルは、2005年にガザ地区から軍隊を撤退させました。しかし、国際法上は、ガザ地区は依然としてイスラエルの軍事占領下にあると、国際連合や赤十字国際委員会は考えています。イスラエルは撤退後もガザ地区全体を支配しており、イスラエルの占領下にあることに変わりありません。自衛権は、他国から受けた攻撃を排除するために、必要な限りで許される武力行使です。イスラエルは自国の支配下にあるガザ地区から攻撃を受けているのであり、外部の国から攻撃を受けたわけではありません。国際司法裁判所も、2004年に「パレスチナの壁事件」への勧告的意見で、占領下にあるところに対して、自衛権を行使することはできないと明言しています。

 ―国際人道法との関係は。

 国際人道法は、武力紛争下において、犠牲者を保護するためのルールを定めています。自衛権のような法的根拠なく始まったとしても、事実上武力が行使されている場合に、個々の攻撃を制御する役割を果たすのが国際人道法です。

 国際人道法には三つの原則があります。一つは、軍事目標しか狙ってはいけないという「区別の原則」です。二つ目は、「均衡性の原則」です。攻撃によって実現しようとしている軍事的利益と、攻撃によって生じる被害の「バランス」が取れていること―被害を過度に大きくしないということです。そして、三つ目が「予防の原則」です。被害を事前に防ぐ。極力一般市民に危害を与えないために、事前の警告などあらゆる手だてをとることです。三つの原則に照らして、イスラエルの個々の攻撃は、明らかに国際人道法に違反しています。

 イスラエルは教会やモスク、病院、学校、さらに国連パレスチナ難民救済事業機関などの国連機関を狙って攻撃し、被害を出しています。軍事目標とそれ以外の区別が全くされていません。

 そして、「均衡性の原則」という点では、パレスチナ市民の死者が1万人を超すなどイスラエルの攻撃による被害の規模があまりにも大きすぎます。一般の市民の被害、軍事目標でない民用物、一般の建物の被害など、あまりにも大きく、とても均衡性が保たれているとは思えません。そして、「予防の原則」についても、例えば、イスラエルはガザ地区の北部に住んでいる人に、攻撃をするから南側に移動しろと言います。実際には、不可能に近い、非常に無理なことを要求している。必要な予防措置をとっているとはとても言えません。

 国際人道法との関係では、ハマスにも問題があります。ハマスによる攻撃はイスラエルの一般の市民を無差別に攻撃するもので、さらに多くの一般市民を人質にとりました。これらはあからさまな戦争犯罪です。きちんと処罰されるべきものに違いありません。

 ―イスラエルは病院を攻撃するときに、必ず地下にハマスの基地があるなどと攻撃を正当化しています。

 「区別の原則」と「均衡性の原則」の問題です。どんなに控えめに言っても「均衡性の原則」に反しています。仮に、地下トンネルだけを狙ったと言ったところで、それによって病院や一般の市民に甚大な被害が生じており、「均衡性の原則」を逸脱しています。何より、「区別の原則」は、軍事目標のみを対象にできないところは狙ってはいけないのです。

 イスラエルは、パレスチナ・ガザ地区から人々を「除去」しようとしています。それからパレスチナ・ガザ地区の人たちは人間じゃない、「動物」だと言っています。ガザ地区で起こっていることは、集団を「抹殺」するジェノサイドに等しいような状況です。戦争犯罪、人道に対する犯罪、ジェノサイド―こういう犯罪がイスラエルによって積み重ねられている状態だと思います。

 ―岸田政権の対応は。

 日本政府や欧米諸国の対応は、あまりにも露骨な二重基準です。

 ジェノサイド防止義務などは怠ってはなりません。二重基準の対応は、国際的に、日本政府の発言の説得力を失わせ、その行動への信頼を損ないます。日本はイスラエルと友好関係を持つとともに、中東諸国、パレスチナとも友好関係を持っていました。両方に影響力を持ちうる非常にいいポジションにあり、本当は外交的に力を発揮できるはずですが、それを台なしにしかねない。日本政府はあまりにも米国寄りになって、米国を通してしか世界を見ない。せっかく日本の先人たちが蓄積してきた外交上の「資産」を食いつぶしていると思います。

 あべ・こうき 1958年東京都生まれ。明治学院大学教授(国際法・国際人権法)。国際人権法学会理事長、日本平和学会会長などを歴任。『国際人権から考える「日の丸・君が代」の強制』『国際法の人権化』、『国際法の暴力を超えて』など著作多数。

“だが、これまでのところ、司令部とみられる大規模な地下施設は見つかっていない。”

https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20231122-OYT1T50019/



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