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溶ける公教育 デジタル化の行方 第2部(3)学習履歴が格差固定に

                       2022年7月21日【2面】
 デジタル庁が中心となって1月にまとめた「教育データ利活用ロードマップ」は、教育行政に与える文部科学省の影響力低下を改めて印象づけました。教育のデジタル化は文科省の所管ですが、実証事業は経済産業省と総務省もそれぞれ予算を持ち独自に進めてきました。この3省1庁の共同文書として発表されたロードマップが明らかに経産省色で染まっているのです。
 経産省が18年と19年にまとめた「未来の教室」の提言を要約すると教育のデジタル化の目的は「誰でも、いつでも、どこでも、何歳でも」となります。「どこでも」には「離島や山間部」の意味もありますが、核心は「自宅でも学校でも学習塾でも」という言葉にあります。学校は学びの場の一つの選択肢でしかありません。
 一方、文科相の諮問機関である中央教育審議会が昨年まとめた答申は、デジタル技術を「学校教育を支える基盤的なツール」と位置づけました。経産省の議論を横目で見ながら、あくまで教育活動の中心は学校にあるとしたのです。

記録収集

 しかし、1月のロードマップの標語は「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく」。デジタル化で「めざす姿」には「学校は児童生徒が学校で集うことでしかできない学びを行う。それ以外の学びは、学校でもそれ以外の場所でも、本人に最適な場所で学ぶ」との文言まで入りました。
 「中教審の議論より先鋭的に見えるかもしれませんが、文科省の人たちだって本当はそう思っているということです」。色濃い経産省色について同省の浅野大介教育産業室長に尋ねると、こともなげにそう答えました。
 ロードマップは、新型コロナ危機で進んだ小中学校での1人1台パソコンも使って学びの記録を収集し、最終的には「生涯にわたり自らのデータを蓄積・活用できるようにする」といいます。蓄積される情報は、学齢期に限らず幼児期から生涯教育に及び、学校の履修記録や成績、塾など民間教育機関での学習履歴、学校の出席状況、健康や体力の情報、保護者との関係まで多岐にわたります。
 不登校の子どもがいる保護者からは「子どもの不利益になる記録がいつまでも残ることにならないか」と懸念の声が届きます。デジタル庁は学習履歴を利用するのはあくまで本人であり、学校のデータは民間には渡らない仕組みにするといいます。しかし、ロードマップには小さな字で「本人の同意があれば」「匿名加工情報であれば」学校のデータも提供可能だと書いてあります。
 そのうえ、政府の政策に大きな影響力を持つ経団連は、20年に出した「新成長戦略」で、将来的には「採用、処遇、評価」に学習履歴を活用すると明記しています。

家庭で差

 3~18歳の子どもを持つ母親を対象としたベネッセの調査では、スポーツや芸術を含む学校外教育活動費用は年収400万円未満の世帯では月8千円なのに対し、800万円以上では2万5千円と3倍以上の開きがあります。また、都市部ほど支出額が大きくなる傾向にあります。
 いまでも格差が明らかなもとで学校が教育活動の中心から外れれば、蓄積される学習履歴の内容はいっそう家庭の経済力に依存するようになります。「企業には自分が見せたい学習履歴だけ見せればいい」(浅野氏)といっても、生まれた家庭の経済力や地域で厳然たる差が出てくることは避けられません。それが就職やその後の処遇にまで影響するようになれば学習履歴は格差固定の仕組みになりかねません。
 (つづく)

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