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映画 月の満ち欠け

タイトル:月の満ち欠け
監督:廣木隆一
脚本:橋本裕志
主演:大泉洋
公開:2022年
原作:岩波書店『月の満ち欠け』

※ネタバレ注意

小さい頃から馴染みのある高田馬場が舞台ということで、気になっていた映画だ。
他の映画を観た際の広告で、出演者でもストーリーでもなく、昔の高田馬場の映像に目が釘付けになった。
正直言うと、舞台が高田馬場でなければ観に行かなかった映画であり、私は高田馬場の映像が見たいが為だけに映画館に足を運んだ。

2回転生を繰り返し、かつての恋人に会いに行くという話。
時代があちこち飛ぶ割には、きちんとついていけたし、人間関係も把握できたし、設定も理解できた。
ただどうしても腑に落ちないのは、誰も彼もなぜにそこまで執着するのか?なぜに狭い世界で生きているのか?ということだ。
全員がストーカー気質で結構ホラーだなと感じることが多かった。

大泉洋
一番まともで、現実主義者で、ストーリーの主軸にいるのに、結局は蚊帳の外な可哀想な人。
家族思いで昭和後半から平成にかけてのエリートサラリーマンだったようだが、家族を理由に上司からのお酒のお誘いをきちんと断れる男。
「きみは家族思いだな」と許す上司も、あの時代の中でかなりの先駆者だ。
奥さんと娘さんを深く愛し、そして同時に亡くたことで悲しみに溺れているのだが、可愛い我が娘が前世しか見ていないことを受け入れられない。
まぁ当然だと思う。

柴咲コウ
優しく寛容で逞しいとてもいい女で、そして実は執念深い女。
一途とも言えるけど。
自分の娘の人格が変わったと気付ける勘のよさがあるものの、気味悪がることもなく、そのまま娘を育てられたのはなぜなのか。
成長した娘とのやり取りは仲のいい親子そのもので、娘の幼少期に感じ取った違和感はどこへいってしまったのだろう。
また柴咲コウが転生した理由がわからなかった。
無念の死や、夫への愛情はわかるけど、決して叶わなかった恋なわけでもないのになぜ。
知人の子どもに転生して夫の側にいるよりも、互いに来世でまた夫婦になりたいねの方が私はいいな。

目黒蓮
目黒蓮が有村架純に恋に落ちるのはよくわかる。
気持ちを引きずるのも、抑えられないのも、溺れるのも。
きれいなお姉さんが雨宿りしているところに偶然出会って一目惚れ。
あると思う。

有村架純
逆に有村架純がどうして目黒蓮に恋したのかがさっぱりわからなかった。
雨の日に傘を貸してもらって「優しいんですね」と言っていたけど、2回生まれ変わってまで会いに行こうと思うには弱いと思った。
生い立ちが不幸だったとあるのと、夫との関係がうまくいっていなくとも、傘を貸してもらっただけでそこまで入れ込むだろうか。
子どもは親を選んで生まれてくるというから、転生先を柴咲コウの娘に選んだ辺り、執念深さという似通ったものを感じ取ったのかもしれない。
しかし有村架純時代の瑠璃が柴咲コウと何か関係があったと読んでいただけに、なにもない所にがっかりしてしまった。
柴咲コウを選んだのは「地方出身だけど都内在住だしこいつでいいやー」的な決め方だったんだろうか。
2回目の転生先を親友の子どもに選ぶところが、確実に目黒蓮に会えそうな人を計算していて恐ろしくてならない。
親友も育てにくいだろうな。

田中圭
わかりやすくやばい人。
本気でストーカーで、モラハラ夫。
何事も思い通りにできると思っていて、できないとキレる奴。
どうして有村架純にそこまで執着するのかわからなかった。
働く有村架純を見染め手に入れたまではいいが、その先思い通りにいかないことや、有村架純の心が離れていくのを力ずくでどうにかしようとするも、やっぱりうまくいかない。
それどころか転生先の大泉洋の娘に近づき、転生の事実を嗅ぎつけてまた追いかけ回す辺り、ものすごい執念だと思った。
娘の瑠璃は「私はあなたの妻の生まれ変わり」なんて一言も言っていないのに、むしろ否定しているのに、連れ去ろうとするとか、女子高生相手に大の大人が何をやっているのか、変質者でしかなかった。
それにしても、結果として『瑠璃』が2回も死ぬことになったきっかけを与えたのがどちらも田中圭なのだけど、いい加減物理的に人を追いかけるのはやめた方がいいと思う。
追いかけていたら自分の目の前で毎度死人が出るって、自分だってトラウマだろうに。
役柄はやばかったけど、田中圭という役者さんはやはり好きだなと思った。

結婚指輪
目黒蓮と初めて関係を持つ時に有村架純の結婚指輪が目に入り、既婚者だったことを初めて知る。
目黒蓮の部屋から帰る時にもはめてあったから、外さないままだったようだ。
目黒蓮は何を思ったのだろう。
田中圭と不妊に関するやり取りの際に有村架純は膝の上に結婚指輪を置いていたが、さっと立ち上がってその場を離れたときに膝から落ちたかなと思ったけど、でもそのあとの場面ではきちんと指にはめてあった。
つけたり外したりは、有村架純の迷いなのだろうか。
田中圭の前では外してみせるけど、目黒蓮の前では決して外さない。
結局有村架純は田中圭に捕らわれているということか。

転生先が子ども
つらいでしょう。苦しいでしょう。
転生して会えても、相手は大人で自分は子ども、それで出会ってどうするのと思ってしまう。
ラストの抱き合うシーンは美しかったけど、7歳の子どもが40過ぎのおじさんに抱きついてるのかもと色々考えてしまった。
「会う」ことが目的になっている転生だけど、その後どうするのか考えて苦しくてたまらなかった。
ハッピーエンドな終わり方だったけど、目的が達成できただけで決してハッピーではないと思う。

高田馬場
懐かしいのひとこと。
私の知っている時代はもう少しあとだけど、見覚えのある店の看板が多いこと。
「揚子江」「ムトウ」などなど。
駅にある「甘栗太郎」で一番心躍った。
馬場以外のシーンでも、あぁあそこだなとわかる場所がいくつかあって、でもそういうところは今(2020年代)の映像で、まだ建っていないはずのビルが映っていたりして、そういうのを見つけるのも面白かった。

全体を通して
時代があちこち飛んでも、本当にわかりやすかった。
頭の中で時代を計算する余裕もある。
みんな素敵な俳優さんばかりで見ていて嬉しかった。
娘役の子が一番よかったなぁ。
すごく笑顔が素敵で、愛情たっぷりに育ちましたというのが体現されていて、きれいだった。
泣かせるのは、柴咲コウと娘が死んで大泉洋が泣き崩れる場面と、大泉洋が『瑠璃』の転生を受け入れて娘の親友の子どもと抱き合う場面。
子どもが絡むところでうるっときてしまった。
要するに、私は大泉洋の演技に泣かされたのだ。
なんでどうしてと思うところはたくさんあったが、それは私に理解できない感情が多かったから。
作品としてはよかったと思う。
こうして映画を引きずり考え続けてしまうほどに。

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