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白い街とピンクの桜

バスに乗った。
よく、と言うほどではないが、
多少程度に馴染みのある街を進んでいく。

小さなそのバスの最後尾の端っこに私は座り、
膝の上にのせたリュックを抱えて窓の外を眺める。

流れていく景色は
断片的に私の記憶とリンクする。
私は方向音痴な為、
この店も、あの店も、頭の中の別々のところに入っているから、
それらは本来道で繋がっているのに
私の頭の中では個々でしか存在していないからだ。

道路も空も広い街からバスに乗り始め、
段々と道幅は狭く、
しかし人通りがぐっと増える街まで入ってきた。
通りには行ったことのあるスポーツ用品店があり、
角には大きな家具の店がある。
古いマンションの一室に天ぷら屋があり、
大きなスーツケースを引いて服屋から出てきた男性は、
これから旅行に行く客なのか、
それとも出張に行く店員だろうか。

ふと、歩道の真ん中に満開の桜が見えた。
学校であったり、道路の両脇であったり、
そうしたよくありそうな場所ではなく、
道の真ん中に突然、一本だけが立っていた。
桜が花開く季節以外には、
それが桜だと意識されることはきっとないのではないか。
それほどに突然の桜の木だった。

白っぽい歩道に、白っぽい周りの建物。
空は青くて、その真ん中にピンクの桜の花。
春になって、装いも華やかになり、
カラフルな街は観ていてとても楽しげに映る。

私が楽しんでいることなどお構いなしにバスはぐいぐい進み、
運転手さんがアクセルを踏み込んでその街を後にした。

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