誰かの声を取り入れることで、必要とされる服を作り続ける
「商品を販売して終わりという関係にはしたくないんです」
そう話すのは、『OSOCU』を立ち上げた谷佳津臣(かづお)氏です。
毎シーズン新作を発表するアパレル企業は多い。ただそれは販売して終わりになる商品が多くなるという可能性もあります。『OSOCU』は、極力廃番をせず、長期的なお付き合いを前提に服づくりを行っているとのこと。「誰かの声=小さな需要」という考えからお客様だけでなく、職人・販売員・さらには自分たち自身も含め関わるすべての人の声を取り入れながら、日々改善を繰り返しています。
2024年4月より始まった『OSOCU』のこれまでの振り返りや実現したい未来、アイテムが出来上がるまでのストーリーなどをライターがインタビューしながら伝える企画「読んで知る『OSOCU』」。
第5話目は、『OSOCU』が誰かの声を取り入れた服づくりを行う理由について、代表の谷氏が語りました。インタビュアーはつむぎ(株)のサトウリョウタです。
目指すは長期的なお付き合い
佐藤:『OSOCU』では、誰かの声を取り入れた服づくりを行っているとお聞きしたのですが、その理由について教えてください。
谷:商品を販売して終わりという関係にはあまりしたくないのが理由ですね。服の使い手(ユーザー)との会話には価値がありますし、小さな規模だからこそできる、直接ユーザーの方の声が届く方法で服を作りたいと考えています。
多様化の時代になってきていることもあり、「誰かの声=小さな需要はある」という認識のため、誰かの声を拾い上げる感覚を大切にしています。
『OSOCU』はデザイナーズブランドではないため、服の形(デザイン)を価値の中心に置いていません。自分自身を含む関わる人の誰かが良いと思える服を作るのが重要だと考えています。そのため、自分自身や内部メンバーがデザイナーである必要性はあまり感じていません。
佐藤:『OSOCU』が大切にしたいことはデザインではないということでしょうか?
谷:『OSOCU』では生地選びや作り手の選定も広い意味ではデザインだと捉えているため、服づくりにおいてそういった広い意味でのデザインは大切にしています。
もちろん、服の形を創り出すデザイナーの力で服が楽しめる側面もあると思います。何かのご縁があって、デザイナーさんと協業できれば楽しそうですね。今の自分たちとは違う価値も出せる気がします。
佐藤:なるほど、”デザイン”の定義を広く考えているのですね。お客様の声を聞くために、催事や店頭販売以外でどのようなアプローチをされているのですか?
谷:現状は、公式LINEでのやりとりを結構重視しています。届いたメッセージは現状100%目を通していますし、そこから声を拾いたいと考えているため、事務的なこと以外はほぼ私が返信しています。その他にも問い合わせメールをいただいた際も、注文に関すること以外は基本的に私の担当です。
佐藤:そうなのですね。代表がほぼ全部返信しているとは思っていないかもしれないですね。
谷:テキストでのコミュニケーションは毎日一定時間を確保すれば対応できそうなので、自分でできる限りは続けたい部分ですね。一方で、対応時間の読めない電話に関しては工房に常駐するメンバーにお任せしています。
販売員さんからいただいた「買いたいけどサイズが合わない」というお客様からの声
佐藤:実際に誰かの声を参考にして作った服を教えてください。
谷:代表例はバンドカラーシャツのLサイズです。小さなブランドで複数のサイズを作ることは、在庫リスクが高くなります。特にアパレルは破綻理由に『過剰在庫』がかなり多いジャンルです。そのため、最初はフリーサイズのみで展開スタートしていました。
佐藤:そういえば、オーバーサイズの着こなしが流行り出してからフリーサイズの服が増えたような気がします。
谷:はい、そういう流れもあって、ジャストサイズで着ないことが一般的になっていたことも影響していますね。とはいえ、小さい場合は物理的に着ることができません。「丈はいいけど肩がきついから購入を断念したお客様がいた」と店頭の販売員さんから声をいただいたのが、サイズ展開を考えた最初のきっかけですね。スポーツ体形や高身長の方にも興味を持っていただき始めたと感じ、Lサイズを作りました。
佐藤:Mサイズ・Lサイズとあるのは一般的な気がしますが、Lサイズの開発は特殊だったのですか?
谷:そうですね。『OSOCU』が使う知多木綿生地は小幅(生地幅40cm程度)が中心なので、単純にLサイズに大きくすると作れないパターンパーツ(服の形に生地を切る型紙)が出てきます。なので、よく見るとパーツの構成がフリーサイズとLサイズと違うんです。マニアックな部分ですが(笑)。
佐藤:なるほど、それは言われないと気づかなさそうです。そのほかにもお客様の声を参考にした服はありますか?
谷:看板商品のバルーンパンツに関しては、実は何度も改善を繰り返しています。最初は「気に入ったし、丈はピッタリだけどウエストがきついから購入を見送った方が何名かいます」と販売員の方から教えていただいて、初期よりも対応できるウエスト周りの範囲を広くしました。資材であるゴムそのものもより伸縮性の良いものに2回ほど変更しています。
バルーンパンツはウエスト部分の生地の量を増やさなければ、ウエスト周りの最大値が増えません。その部分を改良する場合、全体の形を整える必要があります。でも、シルエット自体を変えないようにしなければならないため、全体のバランスを調整しながら改良したんです。直近では、Lサイズをご購入いただいた男性から「ポケットに手が入りにくい」と声をいただきました。今秋ぐらいにLサイズはポケットを大きくした仕様に変更する予定で動いています。
佐藤:お客様からたくさんの声が届くと思うのですが、情報の取捨選択はどのようにされているでしょうか?
谷:シンプルに商品の肝を崩さない変更であれば、取り入れるようにしています。例えばシルエットの変更や生地の変更はカスタマイズ受注としてお受けしていますが、定番化はしません。
『OSOCU』は毎シーズン新型を作らず、良いと思うものを磨きながら長く作ることを企画の原則としています。基本的に日常生活や仕事着として着用して、染め替えや修繕をしてほしいんです。そのため、服を買い替えるときには数年経っていることが普通だと考えています。その時にも同じものを作り続けていたいというスタンスです。その過程で少しづつ使い手の声を反映した改善をできるのが理想ですね。全商品を対応できるわけではないと思いますが、目指したい方向ではあります。
誰かの声がないなら自分たちで拾い集めればいい
佐藤:アパレル業界は基本的に毎シーズン新型を出す会社が多い印象です。社内から作ろうといった声は出ないのでしょうか?
谷:もともと従来型のアパレル商売の逆を行こうとしているので、そうした雰囲気はないですね。まだまだ人数が少ないこともあるかもしれませんが。
超大手を除き、アパレル業界は既存顧客商売がメインです。顧客が一定数決まっているので、新しい服を作り続けなければ、買ってもらいにくいのも事実です。地域で営む小売店を考えれば分かりやすいですね。加えてアパレル業界で働く人も服が好きな人が多いので、新しいものを作りたくなります。近年はファストファッションへのアンチテーゼを目にするようになったので、定番を続けることも世の中に増えてきた感覚があります。それでも新型を出すアパレルが依然多いとは思います。
佐藤:なるほど、確かにそうですね。
谷:一方で、生活の衣服という視点で見ると、ずっと長く作られている型もあります。
九州のうなぎの寝床さんのもんぺや東北の縁日さんのサッパカマはまさに長く生活の知恵として使われてきた型を活かしたアイテムです。毎年毎年形を変えるようになったのはせいぜいこの5〜60年の話ではないかと思うんです。小さな規模であれば、同じ型を作り続けて数年単位で買ってもらうという方法でも持続可能なのではないかと考えています。
佐藤:視点が違うのですね。お客様の声を元に改善しつつ継続生産できる理由はほかにもありますか?
谷:生地や染色を手がける企業さんが基本的に同じものを作り続けてくれているためです。『OSOCU』の「長く着る」というコンセプトにフィットしているので、お客様の声に対応できています。バルーンパンツを開発してもうすぐ6年になりますが、少しずつ服の仕様を変えられるのは『OSOCU』の強みの一つになりつつあります。
佐藤:現在、誰かの声がきっかけで始まっている企画はありますか?
谷:現在進めている企画はありませんが、いくつか頭の中にアイデアはあります。その中の一つが「旅するバルーンパンツ」という企画です。
『OSOCU』が取り扱っているバルーンパンツは40cm程度の小幅生地で作れるので、全国にある小幅産地の生地でバルーンパンツを作ってみたいと考えています。
その際、テキスタイル(生地)が好きな人と契約して、現地取材をしながら、その人の視点で良いと思った生地を仕入れてもらったら面白いんじゃないかなと。もちろん取材費や交通費などかかった費用はこちらがすべてお支払いする想定です。
佐藤:生地が好きな人にとっては絶好の機会になりそうですね。なぜそのアイデアを思いついたのでしょうか?
谷:『誰かの声=お客さんの声』が基本的には多いんですけど、もっと別の方法はないかなと考えていて。それなら誰かの声が入るようにしちゃえばいいと思ったのがきっかけです。自分たちから誰かを巻き込んでいく流れができれば面白そうですし、そんなエコシステムが出来上がるのが理想ですね。
佐藤:自社ではなく、外部の方に依頼しようと考えた理由を教えてください。
谷:「読んで知る『OSOCU』」の企画もそうですが、『OSOCU』は縫製や撮影など多くの外部メンバーの協力があって初めて成り立っています。兼業や副業の活用にもかなり積極的な方だと思います。そういう意味で、自社と外部という区分け自体があまりなくなっているからかなと。
佐藤:外部企業にアウトソーシングはあっても、契約を結んだ外部メンバーの多いブランドもめずらしいのかもしれませんね。ご自身で全国各地を回る案もありますか?
谷:私自身旅好きなので、自分で現地に足を運んで、見て回ることにも正直かなり惹かれます。ただ『OSOCU』以外の事業や人生ステージを考えると今は行くタイミングではありません。また、自分で新しい企画を考えると、地元かつ使い慣れた知多木綿の企画に引っ張られる傾向にあります。新しい風といった意味でも生地が好きな方のアイデアに出会えたらなと考えました。
まだ具体的な企画立案には至っていないので、これから内容を煮詰めて、完成次第興味のある方を募集する予定です。
「読んで知る『OSOCU』」の第5話目は「『OSOCU』が誰かの声を取り入れた服づくりを行う理由についてお届けしました。
『OSOCU』では、誰かの声を取り入れた服を販売しています。公式オンラインストアにある「『OSOCU』について」には、どのようなビジョンを『OSOCU』が持っているのかも記載されているので、気になった方はぜひご一読ください。
◆オンラインストア
今後も「読んで知る『OSOCU』」を月1ペースで随時公開予定ですので、お楽しみに。
◆「読んで知る『OSOCU』」マガジン
取材・文:サトウリョウタ(つむぎ株式会社)
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