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第3回「感情に流されない」

クリティカルリーダーのかずえもんです!前回のクリティカルリーディングは、書き手の主張を見極めながら読むことについてお伝えしました。今回のクリティカルリーディングのコツは、「感情に流されないこと」です。

批判は非難じゃない

前回のおさらい

前回は主張の”足りない部分”に注目し、とくに日本語に見られがちな主語の省略を敢えて補うことで、相手の主張を明確にすることを行いました。今回も引き続き、相手の主張に着目します。次の社説の「主張はどこか」に注目しながら読み進めてください。

クリティカルリーディング読

冷静に読んでみよう

引用元:毎日新聞社説(2022/2/18)
https://mainichi.jp/articles/20220218/ddm/005/070/147000c

※このシリーズに用いる引用は、著作権法第32条に認められる範囲内で行っております。

技能実習生と妊娠・出産 人権軽視の制度改める時

外国人労働者の人権を軽視する制度が生んだ悲劇といえる。

 熊本県の農園で働いていた技能実習生のベトナム人女性が、自宅で死産した双子を遺棄した罪に問われ、1、2審で執行猶予付きの有罪判決を受けた。

 福岡高裁は先月、二重の段ボール箱に収め、封をして自宅に置いていたことについて、隠す意図があり遺棄に当たると認定した。

 しかし、女性は遺体をタオルで包み、双子の名前やおわびの言葉を書いた手紙を入れていた。翌日に出産を知られるまで、そばを離れなかった。刑事責任を問う必要があったのか疑問だ。

 根本的な問題は、女性が妊娠を理由に解雇されることを恐れ、誰にも相談できなかったことだ。

 インターネットで、妊娠した実習生が強制的に帰国させられるケースを知ったという。送り出し機関への支払いなどで、来日時に約150万円の借金をを負っていた。家族の生活費も含め、月給の大半を母国に仕送りしていた。

 技能実習生にも労働関係の法律は適用される。妊娠を理由とした解雇は禁止され、雇い主は体調に配慮することが求められる。

 厚生労働省などは、受け入れ団体や雇い主に注意喚起している。しかし、十分に徹底されているとはいえない。今回のケースでも、妊娠しても解雇はされないとの説明はなかったという。

 2020年末までの3年余で、妊娠や出産を理由に637人が技能実習を中断した。再開できたのは11人に過ぎない。

 送り出し機関との契約で、実習期間中に妊娠しないことを約束させられる事例もある。実習生が出産後の死体遺棄容疑などで逮捕される例が相次いでいる。

 そもそも、制度自体に問題がある。実習生は家族を連れてくることが認められておらず、妊娠や出産を想定した支援体制が整っていない。

 収入が少ないため、妊娠・出産をすれば生活は厳しくなり、働く期間が限られていて育休の取得も難しい。生まれた子どもの在留資格を得るのはハードルが高い。

 技能実習を隠れみのに、劣悪な環境での労働を強いる制度は廃止すべきだ。外国人受け入れの仕組みを根幹から改める時である。

なんとも胸が痛くなるような事件ですね。

このように感情に訴える題材の場合、冷静に読むことがとても難しくなります。しかし、この手の文章も吟味できるようになれば、相手の主張に飲み込まれることなく、あなた側の軸で読解することができるようになります。


中心となる主張をみつける

冷静になって読む第一歩として、まずは、今回の主張の中心を探してみましょう。強めに表現されている箇所を見つけてみてください。

見つかりましたか?

とくに強調された箇所は以下の二つです。

根本的な問題は、女性が妊娠を理由に解雇されることを恐れ、誰にも相談できなかったことだ。

そもそも、制度自体に問題がある。

この二か所が、文中でとくに強調されています。それぞれの指し示していることをもう少し詳しく見てみましょう。

「根本的な問題」は、「女性が妊娠を理由に解雇されることを恐れ、誰にも相談できなかったこと」だ。この指摘は、熊本県で起きたベトナム人女性の事件についての「根本的問題」のことを言っていると解釈できます。

一方、「そもそも制度自体に問題がある」についてはどうでしょうか。こちらは、熊本のケースのような複数の悲劇についての指摘で、最後のパラグラフにある「技能実習を隠れみのに、劣悪な環境での労働を強いる制度」のことを示していると読み取れます。

さて、この強調につかわれた「根本的に」「そもそも~自体に」はいずれも連鎖する事柄の発端のことを示します。ということは、この主張の根拠には、その連鎖する原因が示されている必要があります。

クリティカルリーディング疑

「根本的な」に対応する部分はあるか

この事件の説明には以下の事柄が挙げられています。
1.そのベトナム人女性は、インターネットで、妊娠した実習生が強制的に帰国させられるケースを知った
2.来日時に約150万円の借金を負っていた
3.月給の大半を母国に仕送りしていた
4.妊娠しても解雇はされないとの説明を受けなかった

これらはいずれも、女性が妊娠を理由に解雇されることを恐れ、誰にも相談できなかったことの背景説明であって、複数ある別の問題や、連鎖する事象のことを指示したものとは言えません。

「そもそも~自体に」に対応する部分はあるか

次に、「そもそも制度自体に問題がある」に対応する部分ですが、ここは、熊本のケースに留まらない類似の件に対する主張で、社説全体のまとめになっています。

制度の問題についての指摘は次の二つになります。

1.技能実習生にも労働関係の法律は適用され、妊娠を理由とした解雇は禁止されるはずだが、雇い主の説明責任が十分に徹底されているとはいえない。
2.実習生は家族を連れてくることが認められておらず、妊娠や出産を想定した支援体制が整っていない。

雇い主の説明責任の不徹底と、妊娠出産に関する支援体制の不備。たしかに充分、制度に問題はありそうです。しかしながら、「そもそも~自体に」という場合には、こうした不備ある制度以外の問題の提示をしたうえで、制度こそが問題の土台である、という説明が必要になるでしょう。

また、この主張に続く最終パラグラフの「技能実習を隠れみのに、劣悪な環境での労働を強いる制度」という部分ですが、核心であるところの「技能実習を隠れみのに」に対応する説明が、残念ながらこの社説にはありません。

クリティカルリーディング解

相手の主張に引きずられない

ショッキングな事件の記述にはじまるこの社説は、注意深く読まないと、感情に流されて思考がピタリと停止してしまいます。

社説では、そもそも「技能実習を隠れみのに、劣悪な環境での労働を強いる制度」に問題があるとしていますが、ここでいうところの制度とは何なのかについて書かれておらず、指し示している範囲が不明確です。また、制度以外にも重要な問題はないのかを考えるという、「書かれていないこと」への注意を向けることも必要です。例えば、こうした技能実習生に起きる悲劇の背景には、第一次産業の構造、日本と実習生の文化の違い、人口動態、内外の経済格差など多くの問題がありそうです。

私自身、このベトナム人女性の置かれた悲惨な境遇は、同じ一人の母親として、なんともやりきれない気持ちにさせられます。そんなときほど、思考を止めるのではなく、異なる角度からも問題を捉えてみる姿勢が大切だと思います。

感情を揺さぶられる記事こそクリティカルに

いま、世界中にフェイクニュースが出回っていますが、その多くが感情を揺さぶられるような(例えば子供が犠牲になるような)話題とセットになっています。こうしたニュースは、私たちが思わず反応し、拡散する心理を狙った巧妙な仕掛けがなされています。

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クリティカルリーディングは、メディアリテラシーにとても役立ちます。思わず「ひどい!」という感情があらわれる記事こそ冷静に、相手の主張にひきずられることなく、あなた自身の軸で読み解いていってください。

ではまた次回!

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