見出し画像

第12回(最終回)「あなたの意見は何ですか」

クリティカルリーダーのかずえもんです。前回のクリティカル・リーディングは「記事に反論してみる」ということを行いました。今回は、記事をもとに意見を述べてみることでこのシリーズの最終回とします。

共感・違和感・事例をあげてみよう

取りあげる題材は、「"男らしさ"がもたらす苦しさ」です。
ジェンダーに関する意見は多くの人が持っていらっしゃるのではないでしょうか。ぜひ読みながら「共感できるところ」「違和感をおぼえるところ」「あたまに浮かんでくる事例」を書き出してみてください。

引用元:西日本新聞(2022/11/27)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1020128/

男らしさの束縛 弱音吐ける寛容な社会に

 日本社会には「男らしさ」を求める意識が根強くある。「一家の大黒柱であるべきだ」「弱みを見せてはいけない」といったものだ。

 そうした固定観念に生きづらさを感じる人たちがいることに、ジェンダー(社会的性差)の問題として目が向けられるようになった。

 収入や社会的立場など男女格差が大きい日本で、不利な状況にある女性たちを支援するのは当然だ。

 一方で、性別を問わずその人らしさを重視するジェンダー平等は国際社会の共通認識である。男性が抱える問題にも向き合うべきだ。

 性別に関する無意識の思い込みは、内閣府が今月公表した調査結果にも表れている。

 「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」など41項目で性別役割を肯定的に捉えた割合は、女性18%に対し男性は24%と高かった。男性の方が「伝統的な役割観に自身がとらわれていることに気付いていない可能性がうかがえる」と分析する。

 職場の男らしさに関する民間の調査では、男性の4割が生きづらさを「頻繁」または「たまに」感じると答えた。「昇進に野心的でなければいけない」などの圧力を、社会の風潮や身近な男性から感じ取っている人が多いという。

 男性の問題で気になるのは自殺者の多さだ。2021年は約1万4千人で、女性の2倍近い。原因は男女とも健康問題が最も多いが、男性は仕事や生計に関わる理由が女性の6倍と目立つ。

 暴力の問題もある。新型コロナ禍でパートナーからの暴力についての相談件数は1・5倍に伸びた。加害者の大半は男性だ。

 家族を介護する中高年男性が増え、慣れない家事や介護によるストレスが懸念されている。虐待に至る例もある。

 これらに共通するのは、一人で問題を抱え込んでいることではないか。

 6月に政府がまとめた「女性版骨太の方針」は、初めて男性の孤独・孤立対策に触れた。さまざまな調査で、愚痴を聞いてくれる人がいない、孤独だと感じる、と答える男性は女性より多い。

 政府は男性の相談窓口を増やしているが、全都道府県に広がっていない。専門の相談員が不足しており、早く体制を整える必要がある。

 相談窓口ができても「弱みを見せたくない」と利用しないかもしれない。つらい時は弱音を吐いていい。周囲の人も声をかけてほしい。

 妻の産休期間に合わせて夫が休む「産後パパ育休」(男性版産休)が先月から始まった。職場の意識が変わらないと取りにくいだろうが、制度が活用されないと、いつまでたっても意識は変わらない。家事や育児に費やす時間も女性に偏ったままだ。

 意識の変革と格差の解消を同時に進め、性別にとらわれることによる弊害をなくし、寛容な社会をつくりたい。

※このシリーズに用いる引用は、著作権法第32条に認められる範囲内で行っております。

共感と違和感、そして事例は浮かびましたか?

意見を言うなら、まず共感から

相手に意見を言う場合のひとつのコツは、「共感できる部分から言う」ことです(とくに反論の場合)。

私がこの社説で共感できる部分を挙げてみます。

  • 日本社会には「男らしさ」を求める意識が根強くある。

  • 固定観念に生きづらさを感じる人たちがいることに、ジェンダー(社会的性差)の問題として目が向けられるようになった。

  • 性別を問わずその人らしさを重視するジェンダー平等は国際社会の共通認識である。男性が抱える問題にも向き合うべきだ。

  • さまざまな調査で、愚痴を聞いてくれる人がいない、孤独だと感じる、と答える男性は女性より多い。

  • 性別にとらわれることによる弊害をなくし、寛容な社会をつくりたい。

事例を加えてみよう

上記の共感にまつわる事例があったら、それを書き出してみます。

私の場合だと次のようなものが思い浮かびます。

  • 中学生の息子に「結婚したら専業主夫になるイメージある?」ときいたら「ない」と答えた。パートナーが家庭にいることはイメージできるが、自分が職業を持たずに家庭にいるイメージはないのだそうだ。

違和感と理由を整理してみよう

次に、違和感を覚えた箇所を抜き出し、その理由を記述してみます。この違和感こそが主張の核となります

 男性の問題で気になるのは自殺者の多さだ。2021年は約1万4千人で、女性の2倍近い。原因は男女とも健康問題が最も多いが、男性は仕事や生計に関わる理由が女性の6倍と目立つ。

 暴力の問題もある。新型コロナ禍でパートナーからの暴力についての相談件数は1・5倍に伸びた。加害者の大半は男性だ。

 家族を介護する中高年男性が増え、慣れない家事や介護によるストレスが懸念されている。虐待に至る例もある。

 これらに共通するのは、一人で問題を抱え込んでいることではないか。

太字は筆者による

この引用の中には、①高い自殺率、②パートナーによる暴力加害者の大半が男性、③介護に従事する男性の増加の三つが挙げられています。

このうち、①③については、ジェンダーとの関りのある記述ですが、②については、必ずしも男らしさというプレッシャーによるものと言えるのでしょうか。

この社説は、次のように締めくくられています。

 意識の変革と格差の解消を同時に進め、性別にとらわれることによる弊害をなくし、寛容な社会をつくりたい。

意識の変革を進めるべきだとするこの社説。仮に、パートナーに対する暴力の件と、「男らしさ」についての根拠がなかったとしたなら、認知のバイアスにつながるのではないでしょうか

文章にまとめてみよう

共感する部分、事例、違和感、その理由をひとつながりの「意見」の形にしてまとめてみます。


 時代は、性別を問わずその人らしさを重視する、というジェンダー平等のステージに入っています。その流れで日本でも「男らしさ」「女らしさ」を明言する人は減ってきましたが、言外には男らしさを求める風潮がいまだに残っていると感じます。

 中学二年生になる次男に「結婚したら専業主夫になるイメージある?」ときいてみますと、「ない」と即答しました。パートナーが家庭にいることはイメージできるが、自分が職業を持たずに家庭にいるイメージはないと。2008年生まれの彼ですら、そうした役割を認識していることに、その風潮の根強さを感じます。

 さて、この社説では、①高い自殺率、②パートナーによる暴力加害者の大半が男性、③介護に従事する男性の増加の三つが挙げて男性の生きづらさを説明しています。①③については、ジェンダーとの関りのある記述ですが、②については、必ずしも男らしさからくるプレッシャーと言えるのでしょうか。

 根拠が明示されていないので何とも言えませんが、仮に、パートナーに対する暴力の件と、「男らしさ」についての関連を根拠づけるものがなかったとしたなら、認知のバイアスにつながるのではないでしょうか。

「意識の変革を進めるべきだ」という結論部はとても大切だと思っています。暗黙のプレッシャーから弱音を吐けずに苦しんでいる男性を救うためにも、安易な認知バイアスに繋がる表現は謹んで行く必要があると考えます。



photo by NEW DATA SERVICES on Unsplash

意見と人格の切り離し

日本人が意見を言うにあたって最も難しいのが「意見と人格と切り離すこと」だと言われています。

ついやってしまいがちなことを下に列挙してみましょう。

  • 議論の相手の人格についてとやかく言う

  • 相手の主張がよこしまな動機に基づくものだと否定する

  • 本人の行動と主張の整合がとれていない(言っていることとやっていることが違う)と否定する

  • 本人の過去の発言と今回の主張がズレたと否定する

これらの話を意見に混ぜてしまうと、本来言いたかったことを見失いがち。建設的な展開にならないので注意しましょう。

「クリティカル・リーディング」は、「批判的に読む」ことです。これは非難することではなく、できるだけ客観的に、そしてあなた自身の軸で文章を読むことを指しています。こうした姿勢は議論などにも共通し、建設的に他者と物事をすすめる上での基礎になります。

日本人に苦手とされる「意見をいうこと」。お相手を目の前にして緊張するならば、まずは文字上で客観的に、自分軸で意見をまとめる訓練をしてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただいてありがとうございました。

===== ===
オシンテックでは、情報を多角的に読み取り、議論や交渉に強くなる探究インテリジェンスプログラムを提供しています。

好評の国際動向のことがやわらかくよめるメールマガジンもどうぞ。


皆さんのサポートで、このアカウントの後ろにいるメンバー1人1人がハッピーな気持ちになります(∩´∀`)∩ どんな人がいるの?→https://www.osintech.net/vision-culture