これからのデザイナーとは何者なのか?〜2020年以降の予想
デザイナーの定義とは?
定義というものは非常に難しいものです。
世の中における「定義」というものは発信力のある提唱者と、それを支持するフォロワーシップによって成り立つものだと感じています。
ゆえに定義を探るためにも、現在提唱されている定義の原案を探るところから初めてみることにします。
まずはじめにデザイン経営宣言を発信し業界を騒がせた、
経産省の高度デザイン人材育成研究会での議論、「高度デザイン人材像」の項目から見てみることにしましょう。
高度なデザイナーを構成する3つのスキルセット
「高度デザイン人材像」の定義においては、デザイン人材はこのように仮説づけられていました。
高度デザイン人材とは、「多様なデザイン専門性能力」に加えて、
「ビジネススキル」と「リーダーシップ」を備えた人材である
高度デザイン人材像についての事務局検討資料
目指すべき高度なデザイン人材=未来のデザイナー像として
1.多様なデザイン専門性能力
2.ビジネススキル
3.リーダーシップ
の三つの能力が挙げられています。
多様なデザイン専門性能力の時点で非常に広い感じがしますが、ここにあえて、ビジネスキルとリーダーシップが分けて明記されている点がミソだと感じます。
それぞれを噛み砕いて説明すると以下のようなイメージです。
1.多様なデザイン専門性能力
ここは従来のデザイナーが行ってきた思考してアウトプットする能力について言及されています。
デザイナーとしての思考力を身につけて、それを正しく形にできる力が問われているものと考えます。
・解決策の柔軟な発想力、さらには批判的な視点を含めた「アート」
・技術を理解し、実際に造形する力「テクノロジー スキル」
・人間中心設計的な思考を持ち、プロトタイピングを用いた仮説形成ができる「アプローチ /哲学」
非常に広い概念ですが、この中で特定の分野を重要視する必要はなくいずれかの分野の専門性を持つことが大事だとされています。
このデザイナーの「思考と表現力」というスキルは、おそらくデザイナーの入り口となるスキルになってくると感じています。
このいずれかの分野で一連のプロセスを回せる能力がある場合は、まず最低限の専門性をもったデザイナーと言えるのではないでしょうか?
2.ビジネススキル
ここでいうビジネスとは、「社会的な活動、公共サービス、教育の分野」を含むとされています。
つまり所属する事業の、事業目的達成のために前に進めることができる能力のことをさしています。
資料にはこうあります。
ビジネスの理解とビジネス側を含めたデザイン以外のステイクホルダーとの円滑なコミュニケーションの能力
ビジネススキルというと、起業家のような専門性を求められているように感じますが、この項では以下の二点をビジネスで成果を出すデザイン能力と捉えているようです。
①ビジネスの理解
②デザイン以外との円滑なコミュニケーション
つまりビジネスを作り出す側ではなく、「理解し」「伝える」力が必要ということです。
理解とは言葉を知り基礎知識を持つだけではなく、経営層が直接言語化できていなかったインサイトさえも理解する必要があるでしょう。
また、それらを理解し他者に伝え「事業」を前に進めるためには、コミュニケーション能力が必須です。
この二つは裏表です、理解することがコミュニケーションにつながりますし、コミュニケーションによって理解が深まります。
つまりデザイナーは、ビジネスのインサイトを知り、成果に向けて関与していくプロセスを回す必要があるのでしょう。
3. リーダーシップ(主体性)
最後がリーダーシップです、資料にはこうあります。
リーダーシップは現在社会全般で求められている能力ではあるが、特に高度デザイン人材においても求められる能力であると考えるのが妥当ではないか。
現在社会全般で求められている能力であるのに、あえてここで明記する理由とはなんでしょうか?
私の考えですが、これはデザインが購買される「商品」ではなく、「事業の一部」となったことを意味するのではないかと想像しています。
今までの狭義なデザインにおいては、クリエイティブはアドオンであり、後から追加できる付加価値だったところが、
デザイナーが事業=ビジネスのコアとして機能することを期待されているのだと感じています。
実際にデザイナーがビジネスに関与し成果を出すためには、組織の内部に深く入り込む必要があります。
そのためには事業の一員である主体性と、信頼を武器にしたリーダーシップが不可欠なのだろうと感じます。
あらためて高度なデザイナーとは?
高度なデザイナーとしての能力をまとめると
「デザインとしてのいずれかの専門性」をもち、「ビジネスに関与し」、その事業の中で「リーダーシップを発揮できる」人材であると定義されています。
別の視点から定義を見つめる
それではこの定義について他の定義を元に検証してみたいと思います。
デザイナーのスキルという意味では、かの有名なジョン・マエダ氏の「Design in Tech Report 2018」の翻訳版をみてみましょう
(2019年版はこちら、英語が弱いので今回は割愛m(_ _)mどなたか翻訳してくださいませ...)
こちらのレポートにはより詳細なスキルセットの例が示されています。
前述の「高度デザイン人材像」の抽象度が高いこともありますが、大きく外れていない印象があります。
サービスデザインから、ライティング、データサイエンスなどの専門性を踏まえて、
ビジネスに相当する、企業戦略やマネジメントスキルなども含み、
またファシリテーションや製品ロードマップ戦略などのリーダーシップに相当する能力も含んでいるように見えます。
こちらの方が現状では個別の具体性が高いので、自分の強み弱みとなる能力を分類するのに参照すると良いかもしれません。
分類されるデザイナー
上記の二点のレポートを比較した時に、大きな違いがあるとしたら分類の切り口にあるでしょう。
まず、Design in Tech Report 2018ではデザインをまず三種類に分類しています。
クラシカルデザインとはより旧来的なデザインをさし、コンピテーショナルデザインはより「高度デザイン人材像」に近いものです。
そしてこのレポートではクラシカルデザイナーを古いものとして切り捨てるのではなく、別の生態として進化しているという定義をしています。
これは前述の
1.多様なデザイン専門性能力
2.ビジネススキル
3.リーダーシップ
のうち「1.多様なデザイン専門性能力」を中心に能力を磨き上げたキャリアと言えるかもしれません。
ビジネススキルやリーダーシップはこれからインハウスの事業デザイナーとしては重要になってくるスキルではあります。
ただ、クラシカルデザイナーのような職人型キャリアの有用性も、ARや3Dプリンタなどの新しい高度な技術の台頭によって再び注目を浴びる可能性が高いと考えています。
逆にいうと、ガラケーやFlashように廃れていく技術のプロフェッショナルのままでは技術の衰退とともに消えてしまう可能性も孕んでいるといえます。
ゆえにクラシカルデザイナーとしての進化していくためには、分化していく技術からより優れた技術を選択し、己の専門性を転換させていくことが必須であると言えるでしょう。
コンピテーショナルデザインの分類
正確に一致しているわけではありませんが、
「高度デザイン人材5種類」の定義はコンピテーショナルなデザイナーをさらに分類したものと言えるかもしれません。
この項目では高度デザイン人材を以下の5種類に分類しています。
・サービスデザイン
・ビジネスデザイン
・デザインマネジメント
・デザイン戦略
・ビジョンデザイン
この数年で起きた大きな現象として、UIデザイナーとUXデザイナーの分離がひとつあったと感じています。
そしてまた、これからのデザイナーの形はさらに多様なものになっていく様相です。
学ばなければいけない領域が増加しているこの業界において、これからデザイナーを志す皆様は、
さらにこれらの分類のどれを目指すのか?というのを明確にしておかないとフォーカスが弱まってしまう可能性があると感じています。
これからも変わらない基本スキルは「共感」
ここからは私の持論ではありますが、多様化していくデザイナーの分野にとってコアスキルを一つだけあげるとすると、「共感」の力であると考えます。
もし、最も重要なデザイン原則があるとしたら、おそらくそれは、生活者と一緒に始めるということだろう。—Bill Moggridge
よく知らない他人へより、長年連れ添った家族へのプレゼント選びの方がより幸せを届けられる精度が高いように、
人間に価値を届けることを目的にしている以上、相手を知ることは揺るぎないスキルであると考えています。
方法としての相手を知る方法は変わり続けていくでしょうが、
心の基本姿勢としての、相手を知ろうとする「共感」のマインドセットは必ず必要になってくるものと思います。
これから伸びる領域は「チームを創る力」
上記の「高度デザイン人材」が不足している現状において、もっともこれからもてはやされていく能力は「チームを創る力」になっていくと感じでいます。
これは組織をデザインする力とも言えます。
事業のサービスづくりにおけるUX(ユーザー体験)は分類すると以下に分けることができます。
・フロントステージにおける体験(Customer Experience)
・バックステージにおける体験(Employee Experience)
レストランに例えると、お客様(Customer)に美味しい料理を提供するためには従業員(Employee)が十分に能力を発揮できる状態が必要であることは明白でしょう。
そしてEmployee Experienceを作り出すことと、Customer Experienceを作り出すことは、
同じ人間に対しての体験設計であるため、これは表裏一体であり同じUXデザインの専門性を十分に活かせる分野と言えるでしょう。
先ほどのレストランのように、優秀なデザイナーや開発者が優れた成果を出すためには、優れた従業員体験が必要です。
しかしながら優れた開発チームやデザインチームを有しているにも関わらず組織のデザインが十分でないが故にそれらの能力を十分に発揮できていない場面が、特に日本の企業で多く起こっているように感じます。
このような課題に対して、もっとも優れた人間中心な改善を行う専門性を持つのは、人事労務ではなくUXデザイナーかもしれません。
これからのデザイナーが考えるべきこと
いままさにデザイナーの定義が作られていく時代の真っ只中にいます。
そして、これからはビジネスやリーダーシップを持って、自身の専門性を組織に還元できるデザイナーがより市場で必要とされていくのは明白なように感じます。
一方で、技術は変化しますが従来のクラシカルな専門性が消えてしまうということもないように感じます。
しかしその場合は、新しく移り変わる技術におけるデザインの専門性を発揮する必要があるでしょう。
ただ、これらが「サービスデザイン〜クラシカルデザイン」のように、明確な言葉として詳細に分類されていくのかどうかはまだわからないという印象です。
結論として言えるのは、まだ定義の定まらない「デザイナー」という仕事を目指したり、キャリアアップしていくためには、
デザインという広い概念の中から「自分のやりたいことな何なのか?」ということを言語化し、具体性をあげていく必要があるということです。
いまなら何者にもなれるこのデザイナーという仕事を、精一杯楽しもうと思います。