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プロダクトと人間の境界にあるExperienceの「輪郭」
いま、私はとある0-1のスタートアップのCXOをやっています。
CXOというのはChiefExperienceOfficerの略で、"体験と統括する者"という大層な役割を頂いています。
では私が統括しなければならないExperienceとは何なのか?よい機会なのであらためて言語化してみようと思います。
Experienceの語源は外部との接点
Experienceとは。"対象となる人間"が、"外部"と触れ合い何かを"経験"すること、その瞬間やそれに付帯する行動や内省、またその繰り返しの経験などが語源ということでした。
そこから"対象となる人間"が触れる箇所、
つまり僕らが作ろうとしているプロダクトと"外部"を分かつ「輪郭」がどこにあるか?にExperienceとやらは何なのか?の答えがあるような気がしたので思考を深掘りしていきます。
僕たちが作っているプロダクトの輪郭とはなんだろうか?
僕らデザイナーは人々に何を触れさせようとしているのだろうか?
あなたのプロダクトの輪郭はどこにある?
私達はデザイナーとして、プロダクトのどの体験の輪郭を設計しているのでしょうか?
・ブラウザ上に表示される、UIパーツの輪郭だろうか?
・サービス全体のモデルの輪郭だろうか?
・他サービスと自サービスの輪郭だろうか?
・利用者が生活内でどうプロダクトを活用するかの輪郭だろうか?
いかがでしょう?
どの体験の輪郭の設計(デザイン)も非常に大事な仕事ではありますが、いま私が行いたいプロダクトの輪郭設計は「社会において、そのプロダクトがどう利活用されているか?」という一番外の輪郭であるように思えています。
なぜなら私はすでに価値のあるプロダクトのExperienceを良くしたいわけではなく、
「全く新しいプロダクトの価値」を社会に提案したくてスタートアップのCXOをしているのだから!です。
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プロダクトと社会の間の輪郭を設計する社会実装
社会とプロダクトの輪郭を設計するとはどういうことでしょうか?
そこに世の中を変えるかも知れない技術やアイデアの種が落ちていたとします。
しかし革命的なアイデアや技術は、"それそのもの"だけでは社会に影響を与えません。
実社会において浸透・活用させることによってはじめてその価値を発揮します。
これを近年は「社会実装」と言ったりします。技術やアイデアが実社会で価値を発揮するように、社会に"実装"していくプロセスが必要という考え方です。
これはスタートアップで言うところのPMF(プロダクト・マーケット・フィット)とも近い考え方です。
如何に優れた起業アイデアがあり、プロダクトが実際に動く状態だったとしても、プロダクトがマーケット(市場)にフィットする、つまり社会に浸透・活用されていなければその事業は成り立たないし社会に価値を届けることはありません。
この様に優れた「アイデアや技術」と「社会・市場」との間にある輪郭をいかになめらかに紡いでいくか?という設計が、社会とプロダクトの輪郭設計だと考えます。
優れた社会実装の実例
実際に社会実装されたプロダクトの成功例として最も身近で分かりやすいのは、交通系ICカードのSuicaではないでしょうか?
Suicaはカード自体のデザインであったり、それを読み取る改札の体験であったり、決済全体を統括するシステム設計であったり、大小様々な輪郭において非常に優れたプロダクトです。
では社会との輪郭に対してどのような影響を与えたかと考えると以下のようなものであったと考えます。
Suicaの登場により通勤ラッシュ時におきていた券売機及び改札で混雑のが解消され、電車交通のスループットは飛躍的向上を見せました。
同時に切符が不要になることで企業内部のオペレーションも相当に効率化されたことでしょう。(これこそ流行り言葉でいうDXというものです。)
さらにはSuicaは切符としての役割を越え、買い物全般における現金不要な決済手段という未来も提示してくれました。
これから生み出される新しいプロダクトの開発においても
そのプロダクトのローンチ後の社会の絵姿を仮説立案し、
1)どのようにプロダクトは社会に受け入れられていくのか?
2)そのときプロダクトはどの様に社会を変えていくのか?
の青写真を描き、社会に価値を問うていくのが、社会実装を目指すCXOの仕事だと考えています。
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社会実装の死の谷
Suicaのような優れた例を紹介させていただきましたが、実際に社会に浸透・活用させていくということは非常に難しいことです。
この難易度の高さは社会実装の死の谷とも呼ばれています。
例えばSuicaやクレジットカード・QR決済のようなキャシュレス決済は都市部では普及していますが、地方においてはまだまだ社会実装が十分であるとは言えません。
実はATMや銀行窓口の運営、現金輸送などのインフラ維持費を考えると、インフラにコストをかけられない=人口の少ない地方自治体のほうが"社会で見たとき"にキャッシュレスの恩恵が大きかったりもします。
しかしながら地方のシニア世代にはまだまだキャッシュレスの利用方法習得のハードルが高かったり。地方の小売事業者には決済端末や手数料のコストを負担できるだけの体力がない…など、1段2段内側の輪郭が機能していないことで社会実装が進んでいないとも言えます。
このように一番大枠の社会実装の輪郭が機能するためには、
より内側にある何層もの輪郭をきちんと機能させていく必要があるのです。
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死の谷を超えるためにデザイナーができること
社会実装などと大仰なことを申し上げましたが、より内側の輪郭が機能しないと、外側の社会との輪郭が機能しない以上、プロダクトづくりは地道に積み上げていくしかありません。
きっと明日明後日にやる仕事は、これまでと変わらずとても愚直なものになるでしょう。
使いやすいUIを構築し、伝わる訴求を考え、新しい機能をローンチし、プロダクト全体を少しつづ積み上げていくことです。
ただし一番外側にある、社会実装の輪郭を意識した瞬間その積み上げ方は明確に変わってきます。
限られたリソースの中最短で社会実装を目指すのであれば、それぞれの輪郭に対して成功の仮説を持ち、最も効率の良い積み上げ方を試行錯誤することができます。
やらないことを決め、社会実装にむけコアを研ぎ澄ましていくのです。
Suicaのカードがもっとラグジュアリーで質感の良いものだったとしたらそれは普及に影響を与えたでしょうか?きっとそうではないはずです。
しかし、改札のタッチの感度が非常に悪かったとしたらここまでの普及には至らなかったかも知れません。
スタートアップのようにリソースが限られるほどに、一つひとつの輪郭をクリアしていくため、何が核心になるかをシビアに意思決定していく必要があります。
プロダクトが社会に影響を与える大きな未来を意識しながらも、いまこの瞬間手元での局面を変えるデザインとは何か?を自身や組織に問うていく、それこそがCXOである私の職務であると考えました。
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まとめ
プロダクトとユーザー間には輪郭には幾重にも体験の層がある
このプロダクトはどの様に社会に影響を与えるか?の"社会実装"の輪郭を仮説設計しなければならない
0-1スタートアップのCXOに必要なのはこの輪郭をどう最短で実現していくかの日々の意思決定だ
いまの十数人のスモールな組織で、0-1の新しい価値を提案しようと思っているフェーズにおいては大切なことは何か?ということを考えて言語化していました。
1-2年したらフェーズも変わり朝令暮改しているかも知れません(笑)
その頃になって記事を読み返して反省文を書かせていただきます。
ご清覧ありがとうございました。
CEOの優れたアイデアを、
— かねこつよし (@tsuyoshi_osiire) November 15, 2023
CTOが技術で実現するなら、
CXOはそれを社会や人々の生活と接続したいのだ!ということ書きました。 https://t.co/rb3tDoMFEW