【ワンマン?ツーマン? それともピザパ?】新進気鋭ラッパーwebnokusoyaro、仙台でイレギュラーなライブを開催<レポ>
ネットを中心に活動をするラッパー・webnokusoyaro(以下、webkuso氏)によるライブ「帰省の足代くれくれライブ」が、2024年1月7日(日)宮城県・仙台monetにて開催された。
コロナ禍を経て数年ぶりの開催となった2023年12月末のライブ「リハビリのような時間」では、予想を上回るチケット倍率を記録。筆者も例のごとく抽選落ちし、落胆したのも記憶に新しい。
それを受けて(かは不明だが)、急きょ1月7日(日)にライブする旨が発表となり、多くのwebnokusoyaroリスナーはX(旧:Twitter)上で狂喜乱舞した。
帰省の足代くれくれライブ、レポ
monetに入場する客をアイドルルネッサンスの楽曲で迎え撃つwebkuso氏。最終的には地元民しかわからない「八木山ベニーランド」のテーマソングをリピートして流し、早くも会場を密やかな混乱渦に巻き込んだ。
「やるんゴ〜」という気の抜けた号令のもと始まったライブだったが、一曲目から最新アルバム『妄言』の『俺だけマルチに誘われない』、『どうせ盗まれるからチャリ買わない』とファン待望のナンバーが披露され、フロアにもエンジンがかかる。
「チャリはパクられるから、歩くんすよね」という自然さを狙った不自然なトークが挟まり『徒歩』がかかると、オーディエンスも心地良く横揺れをしながら「やさっし〜」の合いの手を入れる。声出しも済んだところで、すかさず『tea』でa.k.aの大合唱。のちのTwitterでは「ハラマスコイと何気ないマンボをライブで言うのが夢だった」というポストも見られた通りオーディエンスの心はひとつだった。
『合コンって何だ』では「人の金で食うカレーうまいなぁ」「窃盗罪〜」と独自の世界感で会場を包み込み、すかさず『好きな食べものランキング』でトップギアに入れるwebkuso氏。ポテサラやバームクーヘンなど食べ物の名前で盛りあがる様は一見教育テレビと親和性が高そうだが、フロアで踊り狂う我々は最も教育テレビから縁遠い存在のような気がしてならない。
心地良い繋ぎで『続・体が弱い男』がかかると、多くのオーディエンスは「目の前のラッパーは直前まで体調を崩していたんだよなぁ」と思い出したであろう。数日前までwebkuso氏はYoutube上で体調が優れない中、無言でペルソナ5のプレイ生配信をしており、筆者も「頼むちゃんと休んで治してくり〜」と祈るような気持ちだったが、それも杞憂だったようである。
のちのwebkuso氏本人のブログにも、準備不足は否めなかったがやる気は十分だったという言葉もあり、飛んだ歌詞はフロアが自動的に補うような阿吽のコールアンドレスポンスが成立していた。
「今は”マンボウ”ですからね」と時勢錯誤した続・自然不自然トークが炸裂し、『店閉まんの早い』、『めちゃ美味い酒飲もう』の飲酒トラックがかかりwebkuso氏の禁酒解禁日に対する意思を感じる。世の男性陣の集合意志でもある『可愛い女に彼氏いないで欲しい』でフロアの心を掴み、新アルバムでも異色を放つ『AIが考えたラップ』で「ゴホゴホ〜」の奇天烈コールに即席で生まれた手拍子など、ライブが生ものであることを再確認させた。
その空気感の中で流れてきた『キツネが俺を見てる』に、実家のような安心感を覚える。インターバル練後の整理体操のような、一種のチルを感じ楽曲に身を委ねた。
しかしここからが、非常にトリッキーで愉快だった。唐突に甥っ子が作詞作曲をしたという『成田エクプレス』を流し始めるwebkuso氏。想像以上にクオリティが高く、なおかつ血筋を感じた観客も多かったのではないだろうか。本人も「(オリジナルなら)血のつながりを感じざるを得ない。エクスプレスってちゃんと言わないところが、ポイント高いなって思って」とコメントする通り、良い意味で戦慄が走る一幕であった。ちなみにその後3回リピート再生をし、最終的に会場全体でプチョヘンザして盛り上がった、ぜひ甥っ子クンに動画を見せてあげて欲しいな、と思う。
さて、終盤に差し掛かったライブは、もはや暴走列車のようだ。『Scandalas』でシュプレヒコールを叫ぶ熱狂集団となり、『Achar&Lassi』でワガンダ・フォーエバーをし、『下北沢おもったよりウザくない』でお待ちかねの誤用イエッタイガーを打つ。ここまで来るとオーディエンスの喉も完全に開ききり、自身の声がフロアを構成する一部になっている感覚に陥っていた。
形式上のアンコール儀式を爆速で終え、かけられたトラックは『超宇宙意志』。webkuso氏のライブといえばこの楽曲といえるナンバーのひとつでもあり、安定感と安心感がある。そして昨年ネットをざわつかせた『昨日風呂入ったっけ』。J-ラップ界の巨星・晋平太氏が動画で取り上げたり、俳人の俵万智氏がTwitter上で「息子が聴いていた」とポストしたりするなど、何かと話題が尽きないナンバーだ。ともあれ、Diggy-MO'生憑依を聴けたのでこれ以上求めるものはない。
ゆるいトークがライブを優しい終演に誘う。誰もが次がラストナンバーだということが分かっていた。自然と体が揺れる。メロウなムードで、それでも名残惜しさと心地良い虚脱感に身を委ねながら『なんとなく生きてる』を。
私事であるが、先日この楽曲を聴きながら知り合いの小学生と会ったとき、「なんとなく生きてるってどういうこと?」と言われてしまった。少々言葉に詰まったが「まあわかんねえすよね」と答えた。いつからなんとなく生きてるんだろ。考えたことなかったな。
そして終幕。たっぷりの余韻を残しながら、ライブは終了──と思いきや。
異例のツーマン(?)兼唐突のピザパーティー開催
事前にwebkuso氏から宣言があった通りライブ終演後も箱を借りているため、「Daft Punk(ダフト・パンク)のライブ音源『Alibe 2007』をクラブ音響で聴きながら酒が飲みたいという私の願いを叶える時間」があることは分かっていた。
ちなみに筆者の同伴者は前提としてダフト・パンクのリスナーだったため、このプログラムを知りテンションが爆上がりしていたことを記しておこう。それほどファンなら最高の音響設備で聴きたい音源なのだ。
ダフト・パンクとはフランスの電子音楽ユニットで、近年惜しまれつつ解散したのも記憶に新しい。
名前は知らずとも「聴いたことある!」というナンバーも多く、その楽曲をセルフでリミックスしたのがAlive 2007だというから、筆者もライブに参戦する少し前からダフト・パンクを延々と仕事部屋で流していた。
さて、氏が「ダフトパンクピザ」と唱える現象にも言及しておこう。これは物販を終えたあとに突如現れた複数のピザ箱を示しており、要はwebuso氏からオーディエンスに向けたピザのプレゼントなのである。なんて太っ腹! ありがとう、web.kことうぇぶぴっぴことうぇぶくそ!!!!!!
「このピザを食べた人は、ダフトパンクを聴くことになります」という旨の謎の宣言があり、爆音で『Robot rock』がフロア全体に反響する。ここからがまさにパーティーだった。ピザを片手に踊る人、酒を片手に身を委ねる人、そしてピザを配膳しながら踊り、写真撮影に応じるwebkuso氏。ミラーボールも容赦なくクルクル回り、ド派手に盛りあがっている……はずなのに、最初はどことなく控えめに、スロースタートな滑り出しだった。これがダフトパンクピザ黎明期である。
それもそのはず、筆者含め基本的にwebkuso氏のリスナーは、控えめで普段きらびやかな場所にはおらず、自室に籠もりゲームをしたりアニメをみたりしている(そうじゃない人、ごめんなさい)から、正直このような場所での振る舞い方がわからない。
けれど、さすがダフト・パンク。体が勝手に動きはじめ、結局しまいには頭など使わない。腹から快感に直結するような低音を浴びて、ありがたいなぁ〜うめえな〜とピザを食べ、酒を片手に踊る。目の前では先ほどまで一体となって合いの手を入れていたwebkusoリスナーが、思い思いの時間を過ごしている。後生ではこのフェーズをダフトパンクピザ中期〜末期という。
これは実質ツーマンライブでは? と氏が言う通り、全てが終わったあとの「何のライブだったんだっけ」感が凄まじかった。webnokusoyaroのライブへ行ったはずなのに、最終的には「ダフト・パンクすげえや……」とピザで満たされた腹をポンポンしながらライブハウスを後にした。何これ?
予想通りTwitter上も混乱しており、皆多大な満足感を抱きながら「何だったんだろう」と言葉を漏らす。とにかく、至高の時間に居たということがわかった。
おわりに
「ライブが初めてだという人が多かった」と氏が言及している通り、筆者も実のところ彼のライブは初参戦だった。webkuso氏を知ったのはコロナの真っ最中。アイドルオタクの友人から教えてもらい、その後どっぷりとハマり込んだのだった。
公式Youtubeには過去のライブ映像がいくつも上がっている。どのライブも一体感があり、なおかつ心地よさそうで、しょうもないコールアンドレスポンスを飛ばしている。
いつの日か参戦するのが夢だった。なんとなく生きてるけれど、まあそのくらい小さくて、かつ絶対叶えたい小目標があってもいいんじゃないかとやってきたが、仙台の凍てつく夜に私はこれ以上ないほど満たされた。ほろ酔いでmonetの階段を上がり、外に出た瞬間のあの多幸感を忘れない。
店もめげないし客もめげない。リスナーもめげないしアーティストもめげない。世の中いろんなことがあるけれど、時には中指立てたり無言で踊ったりしてどうにかやっていきたい。そしてまた次の現場へ。
<参考>