もえろよ、もえろ。

 落ち葉の集め方が下手だったのか、それともマッチ棒を長く持っているのが怖くて適当に放り投げてしまったせいか、葉くず枝くずの中に点きかけた種火はやがて光を失って冷たい炭になってしまった。僕はその始終をじっと見ていた。炎は徐々に消えていく。夕陽と同じで名残がある。

 火が消えていくことと、感情が消えていくことは似ていると思った。
 最近、自分のうちに湧き上がる感情を、自分自身が否定してかき消してしまう傾向があるらしいと薄々感じていた。
 例えば寂しさを覚えても、例えばつらさを覚えても、それが身を焼き尽くすまで広がることなく、むしろ心の先端に一点のあかりだけを灯してすぐに燃え尽きてしまう。けれど、名残だけは、確実に残る。最近僕の心の中に去来するは熱と光を持った感情でなく、その名残ばかりであった。
 例えば、「個人的な悲しみなど誰に理解されようものか」「楽しく生きようとしている人たちの邪魔をしようというのか」という強い自分嫌悪に押し潰されて、悲しみとして燃え上がることの出来ずに消えてしまった悲しみの名残。例えば、「自分が誰かに好かれるはずがない」「自分は誰かと共感を分かち合うことは出来ない」などという強い自己否定に抑圧されて、寂しさとして表現されることなく消えてしまった寂しさの残骸。

 燃し場は夕暮れ時で静かだった。種火の消えた後はいっそう静かに感じた。静か過ぎて耐えられなかった。自分の心のうちも。

 「もえろよ、もえろ。」

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