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生きた証を残すには - なるべく言葉を書き残そうと思った話

デジタル墓参り

ツイッターは、6カ月以上更新されていない休眠アカウントを削除する計画を「一時中断」すると発表した。ユーザーから、亡くなった人のアカウントが削除されることへの苦情など、批判が相次いだため。

休眠アカウントが削除されてしまうことについて、故人のアカウントも消されてしまうのか、という声をリアルタイムで見ていたので、ツイッターの対応の早さに少し驚いた。

そんな中で、故人のアカウントを消されないために遺族が定期的にログインする「デジタル墓参り」という言葉がいくつか見られた。現代ならではの言葉で、言い得て妙だと感心した。

投資会社スケールワークスのコミュニケーション・オフィサーを務めるドリュー・オラノフ氏はテッククランチへの寄稿で、数年前に亡くなった父親のアカウントを今でもチェックしていると話し、ツイッターの計画を知ったときには「心が沈んだ」と語った。

「変なことかどうかは別にして、私はそうやって父を思い出し、父の魂を生きながらえさせていた。父のツイートは、父が世界と共有した瞬間が刻まれたものだ

故人が残したツイートを、残された人々がたまに見にいって、故人の生きていた手触りを感じることができるというのは、日々の日常を綴ることができるSNSが広まったならではの話だと思った。

ツイッターは、故人アカウントを「追悼する」機能をつけるまでアカウントの削除を行わない方針らしい。

その人の生きていた証が、情報として残る、ということが可能になった。

ツイッターの過去の投稿だけで故人の全てがわかるわけではないが、関わった人々がそのつぶやきを見ることをとおして、故人を思い出すことができるのだと思う。

定家本(青表紙本)

少し話は変わるが、先日、「源氏物語」の最古の写本とされる藤原定家(1162-1241)筆の「若紫」の巻が見つかった。
定家本(青表紙本)と呼ばれる本は、今まで4帖のみが確認されておりいずれも国の重要文化財である。この4帖以外はもうないだろうと思われていた中で新しく見つかったのは幻の帖だった。

源氏物語には原本がなく、復元を目指した定家が別の写本に自分の研究を加えて家来に写させた写本54帖を完成させた。

また定家は、当時既にたくさんあった古典作品をなるべく正確に注釈とともに書き写してその多くを流布させていた。そのおかげで消え去ることなく生き延びた古典作品は少なくない。

1000年経った今でもなお、1000年前の言葉を読み取り、作品を楽しむことができる。

本に記された言葉という情報を介して、ずっと前に生きた人々の言葉を読み、その生き様を想像することができる。
それってとても素敵なことではないだろうか。

Information

「情報」は、英語では「information」だ。
Informationという言葉は、inform=知らせるという語に由来するらしい。

informtaionは14世紀には使われていたようで、この時の用法は、Oxford English Dictionary(OED)で「知らせるということ」あるいは、教育や訓練において「心に何かを形作ること」という意味に分類されている。

informationの語根となる動詞、informもほぼ同様で、「心に形を与える、訓練する、教える」と言った意味である。

現代的な意味でのinformationは、英語のinform由来と、ラテン語のinformatio由来の両方が考えられるらしいが、ここでは深く触れないことにする。

私がよいなあと思ったのは、informの由来であるラテン語には、
知識を与えることにより人を育てるという意味での「形を与える」、
知識を与えることによる成果という意味で「…の特徴を与える、魂を吹き込む」
などの意味もあるということ。

「知識」というには少し違うかもしれないが、テキストとして自分の言葉を残すという点で、

自分の日常であったり、見たり感じたりしたことをつぶやいたもの
自分の書き上げた物語や綴った言葉

などが残されるというのは、それを読んだ後の人々に、何かしらの形を与えることができるものなのかもしれない。

自分の言葉がずっと残っていくのは、自分の生きた証を残すということに近いのかもしれないなとぼんやり思った。

そして、自分の言葉を書き残すことが、定家が生涯をかけたように行かずともSNSによって気軽にできるようになったことに、少しのありがたみを感じた。

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