綺麗なまま終わりにする。
彼氏と別れた。
就職して文章力をあげたいからとnoteを始めた女が、
それから2ヶ月音沙汰なしだったくせに
彼氏と別れたからnoteを書こうだなんて、
なんとも間抜けな話だ。
荷物をまとめて、崩れたメイクを直し
じゃあそろそろ行こうかな、と
私が腰を浮かせたとき
彼が「もうちょっとだけ待ってくれる?」と言い残し
ベランダへ煙草を吸いに行った。
もう来ることはない彼の部屋で、
私はひとり手持ち無沙汰。
いつもそうだった。
ヘアドライヤーを買いに行った秋葉原の駅前で、
ライブを観に行った赤坂ブリッツで、
御殿場アウトレットに行く途中のコンビニで、
彼にとっての一服は私にとってただの無駄な時間だった。
もうこの虚しさともおさらばだね。
戻ってきた彼は、
まだ言い残してることがある。伝えたいこと全部伝えきれてない気がする。と言った。
確かに昨晩から、
私ばかり自分の伝えたいことを話していた気がする。
おかげで今の私はとてもすっきりしているし、
さっき部屋着のワンピースを脱いで
下ろしたての真っ白なズボンに足を通した時点で
次の新しい自分になった気でいた。
おはよう、新しい私。3年半付き合った恋人に振られた新しい私。
自分から振ったくせに浮かない顔をした彼は、
くしゃくしゃの部屋着のまま私の隣に腰を下ろした。
「いや、ありがとうね。ほんとに」
「…」
「出会ってくれて、ありがとう。本当に、頼ってばっかりだった気がするよ」
そんなことないよ、と言いかけてやめた。
私だってたくさん助けてもらったよ、
こんなことも、あんなことも、、と言い出したら、涙が出そうだった。
「おさしみちゃんはさ、他人のために何かできる人だよね」
しんみりした空気に持っていこうとする彼に逆らうように、私は明るく言った。
「まあね!愛だから」
「愛か。そうだね、愛だね」
やめてよ。
こんなところで思い出振り返って、どうするつもり。
結局君はさ、私たちのこの関係を
綺麗なまま終わりにしたかったんでしょ。
私のことを青春の1ページにしたかったんだよね。
そこが、私たちが別れた決定的な理由だった。
私は彼のことを、人生のパートナーだと思っていたけど、
彼は違った。
君の人生をまるごと背負える自信がない、
と彼は言った。
次の日、私はいつも通りに出勤した。
いつも通りに仕事をして、と思ったら会議が長引いて、
初めてまともに残業した。
そのおかげか、会社を出ると
意味わからんくらい綺麗な夕焼けが広がっていた。
私の心中を察したかのように、
iPhoneから[Alexandros]のStarrrrrrrが流れた。
あぁ、ギターを握りしめて歌う、君の横顔が好きだった。
情報で溢れたインターネットの海に
こんな駄文を放り投げて何になるんだって感じだけど、
ここにこうして書き殴ることで
私も、彼のことを
青春の1ページにしてやることにした。
ーーー綺麗だったよ
その横顔も
一緒に立ったステージから見た景色も
客席から見た君の姿も
"傷つきながら その欲望を守り抜いていく"
"大人になり破いた夢 その続きを今生き抜いてゆけ"
私と別れたからにはさ、
幸せになりなよ
折角その夢一緒に叶えてあげるって言ったのにさ、
その夢叶える君を支えるって言ったのに
振り払ったのは君なんだから
その夢諦めんなよ
私だって私の幸せを諦めないよ
次の彼氏は煙草吸わない人にするって決めたんだ
君のすべてを背負うって決めたのに
できなくてごめん
幸せになってねーーー
夕焼けを前に佇む私の横を、
少し冷たい風がびゅーっと吹き抜けていった。
今夜は台風らしい。
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