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STPはいまさらなのか

マーケティングは顧客を絞り込む
そして顧客がどうとらえているかが肝心

という考えかたを前回は出した。
そして今回はこの理解を進めていきたい。

マーケティングの基本の解説、説明ではよく、
〈環境分析〉→〈STP〉→〈4P〉
といったフローで検討手順を提示するものが多いとおもう。そして、マーケティングにあまりなじみのない人でも、「マーケ?あぁ〜あぁ〜、4Pぐらいなら知ってるよ」のような反応はよく耳にする。

〈STP〉のほうは、あまりピンとこない人もいるかもしれない。
   S: セグメンテーション
   T:ターゲティング
   P:ポジショニング
の略なのだが、冒頭の顧客を絞り込むということでいうと、この3つのうちはじめの2つ、SとTがあてはまる。セグメンテーション〈S〉は顧客を分割、分類すること、ターゲティング〈T〉はこの分けた顧客のなかから自社(or ブランド)が取り込み関係を築きたい相手を絞り、特定することを指す。

(これに対して、ポジショニング〈P〉は自社の独自性を浮かび上がらせるための切り口を固める作業で、上の2つとは位相がことなるため、とても重要なのだが機会を変えてじっくり扱いたい)

このSTPはマーケティング(戦略)の基本、根本となる。と、わたしは考えるのだが、ここをないがしろにする、というか かなり「雑」にすませて平気でいる という現象をなんども見聞きしてきた。

それから、最近のDXとかデータドリブンとかの風潮にのって、「STPなんてもう古い」といった考えかたがあるのも事実。それはそれで、いわんとすることはわかるのだけれども(それがなにか、なにが違うかはあとで触れるとして)、顧客を絞り込んで特定し、深く理解し、働きかけの焦点をそこにあわせる一連の作業だという点で、顧客を軸にしてモノを考えようとするマーケティングの基本姿勢が具体化するこのステップが重要なことは不変だ。

雑なS

話はもどるが、STPを「雑」にすませるというのは、

── この商品は20代女性をターゲットに開発しました
── 次の新商品はファミリー層がこれまでは当たり前だと思って諦めてきた不便・不満をこれまでなかった新しいアプローチで解消する、画期的な商品です!

というような顧客設定、ターゲティングが、なんだかんだフツーに行われているということを指しています。
「ペルソナを明確にする」「カスタマージャーニーを描き、パーソナライズされた施策を展開」「個客(誤字ではない)対応を実現」といったことが、考え方としてはかなり一般化しているのも確かだが、そんな中でもこうした雑ターゲティングにもおどろくほどふつうに出くわす。

なぜそういう雑ターゲティングがいけないのか。
それでは自社商品/ブランドが選ばれない恐れがつよいからだ。もしくは、かりに選んでもらえることがあっても、それが〈たまたま〉選ばれただけになってしまうから。

前回にも触れたとおり、基本的にいまの生活にはみんなあまり不満がない。(目下コロナで世界が困っている事態はちょっと別次元で度外視させてもらうけれど)
だからなにかの商品を選ぶとき、そこに積極的な選択が加わることが少なくなっており、「なんとなく」「習慣で」買っていることが多い。選んでいるというよりはただの、買うという感じになっている。当人にもそれを買った理由がはっきりしていないことが多い。

そんな中ではっきりした理由やこだわりをもって商品が「選ばれる」のは、それが自分にぴったりのものだと感じてもらったり、顧客自身がそれまでは気づいていなかったことを実現してくれるというような、「はっ」とさせてくれる新しさをもったものであるときだ。
そうしたフィット感の実現は、さきほどあげたような「雑」ターゲティングだとさすがに厳しい。〈年代×性別〉的くくりのなかには、あまりに多様な感覚や期待、必要性が混在しているから。

企業の側だってそのことはだいたいわかっているし、常識だといっていい。なのに実際にはざっくりなターゲティングは現存している。
そして、いまはデジタルな世になって「STPはもう古い」というようなことも言われるわけだけれど、なにもここ数年というほど最近でなくても、もう10年、15年ぐらい前でも、マスマーケティングの限界とか、経験価値とか、ペルソナだとかずっと言われてきたことでもある。
これは、企業側の論理として〈ボリューム〉をとるとか〈パイ〉をねらって収益を出そうとする志向が強いことが(そういうモデルだということ)、雑ターゲティングがなかなか抜けない原因になっている。かりに強いニーズやウォンツを見いだせたとしても、社内で起案したときに「で、この案でどのぐらいの規模が見込めるんだ?」というツッコミに確たる返答がむずかしいために、とんがった企画はまぁるく、絞り込んだターゲティングはざっくりに、なり変わってしまう。

意味のある顧客決定をめざした努力

「なんでいままでこんなのがなかったんだろ」
「これはまさに自分のためにつくってくれたような商品だ」

そのように顧客のアンテナにひっかかり、すすんで選びとってもらえる商品を創り出したい。そう考えたらまず、めざす顧客を鋭く絞り込み、深く深く理解しなければならない。まったく簡単なことではなく、難易度が高い作業だけれど、挑戦していかなければ成功にたどりつけないのがいまの状況だ。

そして、このことをSTP(という考え方)もじゅうぶん前提としているし、最近の新しいアプローチもこれと相反しているわけでもない。
問題なのは、上にあげたような〈雑な〉使いかたのほうで、やりかたの問題と考えるほうがいい。
「40代 女性」「単身世帯 男性」のような、フォーカスのあてかたがあまりにざっくりしているのはまずいので、もっと戦略上または価値創出のために意味のある絞り込みかた、目のつけかたを見出さなくてはならない。
どうすれば意味のある顧客設定ができるだろうか。

マーケティング戦略の骨格なだけあって、顧客決定(セグメンテーションとターゲティング)の方法には長い工夫の蓄積がある。
マーケット自体が成熟、顧客ニーズも多様化が前提、商品・サービスも高度化かつ多品種化するなかで、マーケティングの考え方としても顧客ニーズを機能的なものから情緒的・体験的なものとしてとらえようとするスタンスにシフトしてきている。機能的な(したがって合理的に考えやすい)ニーズを追いかけるときには、客観的な情報にもとづいて判断しやすく定量的な分析もしやすいといっていい。

情緒的、感情的なニーズをとらえ、顧客の分類や絞り込みをはかる方法論は従来からあるSTP型の分析や戦略立案でもいろいろな創意工夫、進化が積み重ねられてきている。
人々の意識や感情はそもそもあいまいな要素をおおく含んでいるので数値化がむずかしいということは、とくに知識や経験をもたない人にも想像がつくと思う。その無理難題にどうにか肉薄できないものかと、ひと昔前の先人もさまざまに試行錯誤してきた蓄積があり、これはこれでいまでも知っていて損はないはずだ。

たとえば、

・アンケートをとり、直接的に「この商品を買いたいと思うか」などときくのではなく、もっとあいまいな価値観や感情、行動原則、ブランドイメージなどを多面的にたずね、統計的な解析をつかって顧客(回答者)の目にどううつっているかを顧客視点でとらえられないか

・企業側の誘導をできるかぎり排して、顧客の行動や感覚をそのままに把握できないか → アンケートでもインタビューですらなく「観察」で顧客を調べ新しい発見をめざす

というような方法が実務的にも数多く取り組まれてきている。

いずれにしても、デモグラフィック(年齢とか性別とか、居住地域や所得といった顧客分類)な属性よりももっと個人的な要素での違いのほうが大きくなっているので、前述の雑ターゲティング(ひいてはセグメンテーション)があまり有効ではなくなってしまったというのが現状だ。
たとえば50代のある女性が、同じ50代の別の女性よりも、ライフスタイルの路線が近い20代の女性とのほうが似た価値観をもち、似た選択をするというようなことが、まったくふつうに起こるという意味だ。

くわえて、前回や冒頭でも触れたように、実態(商品特性や機能などの客観的要素)よりも顧客にどうみえているか、どうとらえているかという認識のほうがマーケティングではより大事になる。結局行動をとるのが顧客になるため、企業からはどう伝わるかということが大問題だからだ。

次はもう少し実務的に

ということで、人(顧客)の意識や感覚、とらえかたをどうやって把握するかというマーケティングの関心にたいして、実務的にどのような方法で取り組むのかについても、次回は紹介してみたい。

また、これはさらにその次になると思うが、顧客のことを客観的・分析的なかたちで理解しようとするか(顧客のかたまりを「市場」「マーケット」のように俯瞰的にみる)、または、より共感的・描写的にとらえようとするか(ペルソナやカスタマージャーニーなどのように「個」の人にフォーカスをあててみようとするか)、といったアプローチの違いも吟味する価値があると思うので、これについてもおいおい扱っていきたい。



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