あの子が浴衣を着ていた時、俺は七分丈のズボンを履いていた

自分の中に湧く、夏に対する高揚感。
これが、中学生の頃を上回ることは一生ないのだろう。
寂しいが、これは努力でも環境の変化でも恐らく揺るがない事実だ。

齢、28。じきに29。中学生というと、今から15年も前の話である。
当時好きだった子が、今は結婚して子どももいるらしい。
某SNSに投稿される写真。旦那さん、お子さん、旅行。旦那さん、見るからに男前。そして、絶対に金持ち。
何も勝てない。人間、勝ち負けではないなんて綺麗事ではなくて、完全に負けている。無論、勝負すら出来ていないのだが。

まあ、今の勝ち負けなんてどうでもいい。各々がカタチの違う幸せを掴めばいい。
ただ私は嫉妬が原動力の人間なので、どうすればあの子と生涯を添い遂げる道を歩めたか、というifは考えてしまう。
でも、たぶん、どうやっても無理だ。

私と彼女が出会った中学生時分。
彼女は夏祭りで浴衣を着て、髪を可愛らしく結っていて、やけに大人びていて、それでいて無理に背伸びをしている印象も受けなかった。
私は七分丈のズボンを履き、意味の分からないプリントがされたTシャツを着て、坊主で、屋台で買ったヘリウムガスを吸って遊んでいた。
そこに何の疑念も抱かなかった。それが全てだ。

彼女とは、見ている景色が違った。そしてそのズレは、到底埋められるような差ではなかった。
思春期をスタートとし、大人になることをゴールとするのであれば、中学生の時点で100馬身差くらいすでに離されていた。

でも、それを後悔はしていない。変えたかったとも思わない。
だって、ヘリウムガスを吸って声が高くなるだけで笑い転げたり、かき氷のシロップを混ぜすぎて最悪な色になったり、くじ引きで当たった光る剣で友達に斬りつけられたり、それが楽しくて楽しくて仕方なかったのだから。
そんなことをしながら、浴衣を着たあの子とすれ違って一丁前にドキドキして逆に目を逸らすような、そんな日を超える高揚感がもうこの先ないのだから。

まあ、でも。七分丈のズボンは、ダサかったな。
過去に戻ったら、そこだけ注意してあげたい。
あとは、そのまま楽しめよ、自分。

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