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いっぱい噛んで食べる

……でね、この薬はね、セロトニンってやつの分泌を促してくれて、効き始めるのは……

目の前の白衣を着たおじいちゃんが猫背上目遣いをしながら説明してくれている時、
セロトニンってアンメットで言ってた幸せホルモンのやつだ〜
なんてことが、ぽわっとした頭に浮かんでいた。

幸せホルモンが、こんな小さい薬を飲めば増える(出やすくなる?)というのがどうにも信じられない。絶対にグミをいっぱい噛んだ方が出るだろうに。

処方箋を受け取って向かった薬局は、狭いのに色褪せた栄養ドリンクのポスターがいっぱい貼ってあって、床面積以上に狭く見える。
暑いから水が飲みたいのに、青汁のジェネリックみたいなドリンクの試供品しか飲み物がなかったから、喉が渇いたままそそくさと外に出た。

少しだけ回り道をして、気になってたパン屋に初めて入ってみた。
広くない店内に広がる、小麦とバターと少しだけチーズの香り。
パン屋さんでしか得られない幸せがある。コンビニのパンとパン屋さんのパンは、同じ種類の食べ物ではない。

ピザが焼きたてだって言われたから、和風ピザのパンと、しょっぱいのの次は甘いのも食べたいから、小さめのレーズンフレンチトーストをトレイに乗せた。
本当はもっと食べたかったけど、最近はあまり食欲がないから、2つにしておいた。

暑い外を10分くらい歩いて、冷房をつけっぱなしにしていた家に帰ってきた。
手を洗って、アイスコーヒーをグラスに注いで、早速買ってきたパンをテーブルに並べる。まずは、焼きたてのピザを食べよう。
まだ温かくて、ビニールの袋から出すと、えのきが醸す森の香りが鼻腔から脳に届く。チーズが伸びるうちに食べないとね、なんて独り言を言いながら、よく噛んで食べる。
いっぱい噛んで、今きっとセロトニンが出ているぞ、なんて脳を騙しながら、ちびちび食べていく。
いっぱい噛んだから、その分お腹いっぱいになってしまって、レーズンフレンチトーストはまた夕方にでも食べることにした。

洗濯した枕カバーが乾いて太陽の香りがしていたので、昼寝をしてまたセロトニンを増やしてみた。

休みの日は、休むのに忙しい。

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