あれは、怒ってよかったのか
熱が下がらず、うつらうつらしながら、
わたしは昔の記憶を取り戻していた。
「どうしようかね…」
しんどい、しんどいとえぐえぐ泣き続ける1歳9ヶ月の息子。
息子を自分の左脇に押し付け、
右脇には、泣く気力もなくぐったりした娘。当時生後3ヶ月。
すわったばかりの首も不安だが、
呼吸が浅いのもこわい。
「ピピピ」
38.6℃
そこに、わたしの発熱ときた。
運転できる気力もなければ、
わたしから剥がすと泣く子供たちを連れて
どうやって病院に行ったらいいんだろうか?
幸いまだ16:30
病院は午後診療が始まったばかりだ。
夫に電話をかけた。
管理職だし、幸い、車で20分の距離で働いている。1時間くらい抜けてきてくれて、病院にさえ連れてってくれたら、帰りはどうにかできるはず。タクシーを拾うなり、薬局で待って、もう一度迎えにきてもらうなり、どうにでもなる。
とはいえ、
38.0をこえたあたりから、わたしの頭も働かなくなってきている。
コールが途方もなく長く感じる。
「はい」
「あー、仕事中ごめん。病院連れてってほしい」
「えっ?仕事中だから無理」
「いや、わたしも熱が出てきて、子どもたちがはなれなくて…」
「仕事中だから無理」
プツン、と切られた。
えっ?
なんで?
乾いた笑いしか出てこないけど、
俺を頼るなって言われたことはわかった。
じゃぁ、誰を頼るの?
ねぇ、教えてよ。
そのあと、
市役所に電話をして公的サービスがないか聞いた。
でも、公的サービスはなくて、
落ち込んでたら
親身になって話を聞いてくれて、やっと病院に行く気持ちになったのを覚えてる。
病院に着くと
看護師さんに「なんでこんなになるまで連れてこなかったの!」と大層怒られ、
息子は点滴。入院するかもしれないとまで言われ気が気ではなく、
わたしも点滴となった。
寝ているわたしの上に、3ヶ月の娘を乗せたままである。
「若いお母さんだから」
「育児する気あるの?」
「こんなになるまで放置するなんて」
看護師さんたちは
聞こえてるなんて思ってないだろうが、
いっぱいいっぱいのわたしの心に
ずっしりと重りのようにのしかかって、
熱のせいなのか涙が溢れて止まらなかった。
とはいえ、
わたしも子どもたちも具合が悪い中
いつも通り仕事をして
いつも通り帰ってきて
「家、汚っ。ごはんは?」
と
いつも通り言われたときに
わたしは全て諦めたのだ。
わたしは、
子どもがお腹に宿ってから、
生まれて今まで一瞬たりとも、
子供がいないことを前提に物事を考えたことはない。
育児と両立させることを前提とした上で、
仕事もすきま時間も何もかも、人生の全てを考えていて
今の仕事を選んだ理由もそれなのだ。
あの人は、
自分があって、周りがあるのだろう。
わたしと子どもたちがいる前提で生きていないのだ。
それは自分勝手と呼んでいいと思う。
あのときのわたしに、
「怒ってよかったんだよ!
お前には心がないのか! と叫んでよかったんだよ。
なんなら即離婚でよい話だよ!」
と、
今更だけど伝えてあげたい。
まじて、育児放棄だからね!
今回、娘がインフルエンザだったし
わたしも同じ症状だから、
インフルエンザだろうって思ってる。
というのも、検査に行けてないから。
運転できる体調じゃなかったから、
病院すら行けてない。
それを昨日、息子が指摘されたらしい。
「ママ聞いて〜✨」
「おぅ、どうした」(まだ37.8度から下がらず若干朦朧としたわたし)
「ママは病院行かないのかってパパが聞いてた」
「運転できるなら行ってるけど、そんな元気もなかったしねぇ」
「だよねぇ、知ってる!
だからね、僕ね、そう言ったの!
運転できたら行ってるでしょって。そしたらさー」
「んー?」
「聞きたい?」
「…ぅん?」
「歩いてでもタクシーでもあるだろって。
歩いていける体力あったら、病人じゃないし、
パパは、いっつもお金ないっていうのにタクシー代くれるわけ?って思ったの。
そう言ったら、むすっと黙ってどっか行っちゃった!」
生活費は全部パパが持ってて、わたしにくれる分は食費と子ども代だけだからね。わたしにお小遣いって思ってくれてるお金だって日配品に消えてるわ。
と、
思うことはあれど、
息子には言わずに、笑って誤魔化す。
「パパが連れて行けばいいじゃんね。運転できるんだから」
わたしが過去に言いたかったことを
息子が代わりに言ってくれたらしい。
本当よくできた子たちだよ。
ちなみに、
わたしの体調が悪化してから、
一回もわたしの部屋には来ることもなく
気遣うLINEも1通もなく
声をかけることもなく、あの人は生きている。
そういうとこ、
子どもたちが似なくてよかった、と本当に思う。
娘は
「早くよくなってね」
と
毎日のように言いにきて、
帰宅後も「ただいま」と声をかけてくれて
寝る前に「おやすみ」と言いにきて
学校の楽しかったことを話してくれてた。
息子は
何も言ってこないくせに、
「ごめん、ポカリスエットほしい」
と言ったら
遊んでる途中なのに
わざわざスーパーに行き先に届けてくれ、また遊びに行った。
帰ってきてから、
「いやぁ、今日、僕さ、
スーパーと公園と家とずっとぐるぐる走ったわ」とあっけらかんと笑ってた。
「この部屋に長居してるとうつるから、あとでうがいしてから寝てね」と言ったら
「僕はうつらん!」とニヤリと笑っていたっけ。
やっと文章が書けるまで回復してきたけど、
まだ病み上がりで咳は止まらないので、
あと数日、引きこもりとなりそうだわ。
休み休み書いていこうかと思います!