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世の中は夏休みなので読書感想文

癒してくれるのは、ガクテンソクさんの漫才だけじゃない。小説もだ。
ということで、最近読んだ小説で面白かったものを。ちなみに、あらすじとかは書きません。気になったかたは、Amazonなどでお調べくださいませ。

『悪逆』黒川博行 朝日新聞出版
579ページ。なかなかの分厚さ。でも、それを全く感じさせない、職人芸のような警察小説。犯人視点の章は、事件ノンフィクションを読んでいるようなリアルさ。そして、刑事視点の章での、主人公二人の軽妙なやりとり。黒川印を味わいたくて並んだ店に、ちゃんと黒川印があって、安心満足。

エレベーターが来た。乗る。

電話が鳴った。取る。

時々、こういう書き方に出くわします、黒川作品は。これがすごく好きなんです。
そういうことがあったからそう書いたんや、文章をごちゃごちゃこねくり回さんでええんや、という潔さといいますか、なんかロックっぽくてカッコいいなと。

『危険な斜面』松本清張 文春文庫
清張作品は、長編よりも短編の方を多く読んでいます。「なんか、ミステリーで面白い短編集読みたいなあ。凝った設定で、新喜劇に応用できそうなのがあると、なおいいなあ」みたいな時に、清張の短編集をチョイスすることが多い。
で、本書。どの作品も切れ味抜群。捨て曲なし。「二階」「失敗」の二作が特に好みでした。あれをああして、ここをこうしたら新喜劇でも使えるな、みたいなネタも拾えました。

『コイモドリ 時をかける文学恋愛譚』浜口倫太郎 幻冬舎文庫
黒川作品、清張作品と、ちょいノワールテイストの作品を続けて読んだので、ここらでポップで爽やかな作品を挟みたいぜ、ということで本書。「タイムリープ×恋愛物」という安心して乗っかれる仕掛けに、「日本文学」という要素も掛け合わされているところが新感覚。

昔、『タイガー&ドラゴン』ってドラマありましたよね、宮藤官九郎さん脚本の。読みながら、ふとあれを思い出しました。あのドラマは古典落語の噺を本歌取りするパターンでしたけど、本書はそれの日本文学版といったところでしょうか。映像化してもウケそうで、キャスティングするなら、この人かなー、なんてことも想像しながら読んでました。

『方舟を燃やす』角田光代 新潮社
「ミステリを読みたい」とか「時代小説を読みたい」とか、そういうジャンルを意識した選び方ではなくて、「角田光代さんの文章を大量に読みたい!」と思って、角田光代さんの小説を手に取ります、僕は。

なにかのインタビューで、角田さん、「文章の中に自分の匂いが出ないようにしている」みたいなことを仰っておられました。(記憶違いでしたら、すみません)

たしかに、「○○節」と名付けたくなるようなクセは、角田さんの文章からは感じません。けれど、なんていうんでしょう、日常のことどもを淡々と描写してるだけなのに、なにか不穏なものがひたひたと忍び寄ってきている感じ、とでもいいましょうか。二、三行じゃなく、もっと長い塊で読んだときに感じる雰囲気に凄みがあるんですよね。そこがとても好きです。

記事冒頭でも断りましたが、あらすじは書きません。ネタバレを避けるためというより、塩梅よくまとめる能力がありません。いろんなことが起きる小説です。コロナ禍にも触れています。スカッと爽快エンタメではありません。重たいパンチが飛んでくる小説です。でも、こっちはそれを浴びに行ってますからね。最高でした。

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