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一億光年の宝

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北海道別海町中春別の小幡牧場の日常をモデルとした考察の中から産まれたポエム、エッセイの数々。酪農と宇宙を探偵作家土木警備員の著者がコラボさせるなど、好き放題やっている。創作なので…
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#小説

『男は荒野を進め』

僕だけが一億光年分の価値のある宝物を探しに行く。それは荒野を一人で歩く事と同じ位孤独な行為だ。 誰も僕の背中を押してはくれなかった。 誰もが一億光年分の価値のある宝物の存在を認めてくれなかった。 だから僕は、言葉で言葉で殴り付けてやることにした。 生かすか殺すか。生きるか死ぬか。 殴り付けても、殴り付けても、殴り付けても、誰も宝物の存在を信じてはくれなかった。 もう我慢の限界だ。 いつでも男は、荒野を一人で進む。 ヒタヒタと音を立てる。 足音が、僕の意識を軽

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『戦士の休息』

戦士の束の間の休息。 十代後半に、自由を求めてブラついて、この土地に流れついてから四半世紀以上、雨が降ろうが槍が降ろうが、男は戦う事を止めない。一日でも体を休める事を許さない、許されない。 男はある時、十字路のど真ん中に立たされた。頭の中で何かがスパークした。ガタンと歯車が回る音を、男は聞いた。 それは男が大地にへばりついて、朽ち果てるまで戦い抜く事を決意した音だった。 男は十字路を正面きって突破した。 旅と冒険がもたらす、刑罰と釈放。 臆病風に吹かれて、十字路を

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『冬は明ける』

強烈な嵐に見舞われたけど、私たちのやることは変わらない。男は一億光年分の価値のある宝物を荒野へ探しに行くとか、いつもふざけたことばかり言うけれど、この日は道や扉を明けるため、真っ先に外へ飛び出して行った。でないと私たちの仕事は始まらないし、何より牛たちの餌場や水場が確保出来ないのだから。 除雪が終わって、ようやく作業がスタートする。第一ラウンドの始まり。私たち労働者は、日々戦闘状態に晒されている。相手は「自然」だ。強大な相手だから、私もスコップやつるはしを振り上げて立ち向か

『宝の在りか』

朝5時前に、私たちは目を覚ます。私たちの毎日は変わらない。子供たちを起こさないように家をそっと出て、牛舎に明かりを灯す。パイプラインミルカーやバルククーラーの電源を入れ、搾乳の準備を始める。 私たちのやることは、ほとんど毎日変わらないのかもしれない。けれど季節は変わる。移ろいゆく季節に、そっと、少しだけ、足並みを揃える。何故ならそれが私たちの仕事だから。 私の連れ合いが、搾乳をしている。その間、私は、子牛たちにミルクを与えている。 男は夢ばかり見て、荒野へ一億光年分の価

『僕たちは、怖い』

僕たちは、怖い。外の空気の冷たさが。僕たちを連れ去ろうとする外敵が。産まれてくる必要なんてなかったんじゃないかって思うくらい怖い。見知らぬ景色が怒ったように荒れ狂ったらどうしようって思う。産まれた瞬間から怖くて怖くて打ちのめされた。体が動かない。怖くて動けない。とても立ってなんていられないよ。 頑張るくらいなら、温かい所へ居たままで良かった。元気を出すくらいなら、ずっと兄弟とくっついたままで良かった。 お腹が空いたのかもしれない。お母さんが帰ってくるかも知れないけれど、僕