【女子高生エッセイ】『花火と共に弾けてく🌻⚡️』
夜空に綺麗に花が咲いた。
この一瞬のために職人たちはどれだけ時間を費やしてきたのか。
感動して涙がこぼれた。
隣に座る友人は動画を回していた。
「ハートの花火、超かわいくない?」
花火の儚い破裂音とは程遠いきゃぴきゃぴした声が右耳を通過した。
私にとって彼女の声はノイズでしかなかった。
「ね~聞いてる?」
「え、あぁ、うん」
「やっぱ花火映えるぅ!」
私は彼女の言葉を無視して頬に伝った涙のあたたかさを感じていた。
フィナーレになった頃、彼女はまた私の右耳にノイズを入れた。
それもかなり強烈な。
「完全に終わったら電車混むしそろそろ帰らない?」
ちょっと待て。
今、職人たちの最高の見せ場なんだぞ…?
あとさっきから後ろの人の焼きそばをすする音が気になる。
視界の中にちらつく右斜め前のカップルはキスしてるし。
何組かの家族が帰りだしているのも見えた。
私のイライラは頂点に達した。
出てきた言葉はシンプルで痛いものだった。
「あ、ごめん、先帰ってていいよ」
振り返るとすごく感じの悪いやつだった。
彼女の顔を見ることもなく告げた。
私は一瞬も花火から目をそらしてはいけないと思ったから。
彼女は地面から浮かしていた腰を静かに床につけた。
あの時、彼女はどんな顔をしていたのだろう。
何も言わずにフィナーレまで大人しくしていた。
真っ暗な空に花は咲かなくなって火薬のにおいが鼻を刺し出した頃、私は余韻から抜け出し我に返った。
「えっと、ごめん」
彼女の顔をゆっくり覗く。
「大丈夫だよ、気にしないで」
彼女はスマートフォンを触りながらそう言った。
行きは楽しく会話をした道を人酔いしながら並んで歩く。
帰るまでが遠足です!という言葉が頭にぐるぐる纏わりついたから会話に挑戦した。
「花火、綺麗だったよね」
「私より花火が大切ってことは分かったよ」
会話のキャッチボール終了のお知らせ。
相手がボールを床に叩きつけたのが悪い。
私は小学生の女の子が投げるゆるゆるのボールにしたのに。
相手の肩が強すぎて完敗した。
無言のまま三十分ほど混雑した道を歩いて駅に到着する。
窮屈すぎる電車に乗って押しつぶされながら最寄り駅まで進んだ。
彼女は変わらずスマホを触っていた。
私はドア横の手すりにつかまって花火の余韻に浸った。
心が熱くなってまた涙が零れそうになった。
”ただの夜”が”特別な夜”に変わって真夏のクリスマスみたいな気分になった。
頭の中で南半球に住んでるんかよという突っ込みを一つ入れておいた。
それにしても”儚くて綺麗なもの”を前にして目を逸らすことができる人々に違和感を持った。
目の前にあるこの瞬間しか見ることのできない最高傑作をどうして見逃せるのだろう。
そこにはどんな理由があるんだろう。
色々考えているうちに自分だけ最寄りの駅に到着した。
一応、彼女に手を振ったがこちらを見る気配はなかった。
『ばいばい』と連絡したが既読だけがついて返信はなかった。
それから彼女とは話していない。
もともと学校が違うかったこともあったが静かに縁は切れた。
彼女のInstagramには綺麗な花火の動画が投稿されていた。
次の写真へスクロールする。
私のポニーテールを結んだ後ろ姿に『綺麗だったね~』という文字が投稿されていた。
彼女の気持ちが分からなかった。
うん、見ていないことにしよう。
アプリを閉じてスマホを充電器に寝かせた。
寝る前に花火はもう人と行かないでおこうと誓いを立てた。
それから数年後、花火に誘われてしまった。
しかも断れない相手だった。
「あー、花火もいいよね~」
軽い共感のつもりで出した言葉はOKの意味に解釈された。
この言葉を恨みながら当日を迎えた。
彼女のことを思い出して心の準備をした。
これから会う彼を私は花火より大切だと思えるだろうか。
息を大きく吸って吐いて。
待ち合わせ場所に早く着きすぎた私は『花火デートの攻略法』というふざけたウェブサイトを見て時間を過ごした。
「わっ!」
彼は私の背後から驚かしてきた。
「もう、やめてよ~」
心臓がバクバクと音を立てた。
彼は私のスマホをちらっと見た後に照れながら笑った。
「それじゃ行こっか」
1時間ほどかかる道のりは一瞬に感じた。
彼とはいくら話しても話題が尽きなかった。
話題が花火の話になった時、今だと思って打ち明けた。
「私、花火見ると集中しちゃうんだよね」
「あーわかるかも!」
「え、ほんと?」
「でも今日は集中できるかわかんないなぁ」
そう言っていたずらっぽく笑った。
胸がトクンと音を立てた。
人が多いところを避けて公園のベンチから花火を見ることに決めた。
開始時間までの不安に溢れていた心は花火の美しさに魅せられてはじけて消えた。
彼と見る花火は最高に綺麗だった。
開始から10分した頃、私の左手に何かが触れた。
思わず花火から目をそらすと彼は言った。
「手、繋いでいい?」
私が小さく頷くと彼の手は私の手に静かに触れた。
それからすぐに彼の指が私の指の隙間を埋めた。
「恋人つなぎ、初めてだね」
微笑む彼の顔を花火が明るく照らした。
花火の破裂音が私の心臓と共鳴してこの時間がずっと続けばいいのにと願った。
彼は私にとってノイズなんかじゃなかった。
「あぁ、好きだなぁ」
溢れ出た言葉はフィナーレの花火の音にかき消されて彼の耳には届くことはなかった。
それでよかった。
彼から送られてきた花火の動画を帰宅してからゆっくり見返した。
動画でもこんなに花火って綺麗なんだと感心した。
そのまま幸せな気持ちに浸った。
私が大衆に成り下がったことなど、どうでもいいことだった。
花火にかき消された言葉をもう彼に伝えることはできない。
その事実が心に白い煙を残してずっと消えてくれない。
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