見出し画像

3回目へのお守り/【文章のきほんコース受講生作品 Vol.7】

この文章は、大阪編集教室の「文章のきほんコース」受講生作品です。
課題原稿に添削が入って書き直したものを、一部編集した文章になります。
詳しい授業の内容はこちらからご確認ください。

今回の課題のテーマは「自分の好きなコト・モノ」でした。

3回目へのお守り

想定していた中で最も悪い答えが返ってきた。
「切れてますね」
「またですか……」

社会人3年目の秋、右膝前十字靭帯断裂。バドミントンの試合中、右足を強く踏み込んだ時に、ブチっという音と同時にその場に倒れ込んだ。

ちょうど1年前に左膝も、同じ先生から同じ診断がくだされた。散々、親と会社に迷惑をかけて1か月で社会復帰、8か月をかけてやっと競技復帰したのに。

バドミントンは、友達がいるからという単純な理由で小学4年生から始めた。練習すればするほど、シャトルは遠くに飛ぶ。少しずつ試合でも勝てるようになった。中学生になると、部活だけでなくジュニアチームにも入って練習。府の代表になることもできた。高校の部活は弱小だったが、必死になってライバル達になんとか張り合った。

進学した私大のバドミントン部は、インターハイ出場は当たり前。スポーツ推薦の選手がゴロゴロいた。僕は悩んだ末に部活には入らなかった。トップレベルで頑張る自信がなかったのだ。国公立の大学に進んだかつてのライバル達は、当たり前のように部活に入り、活躍。僕は社会人チームに所属していたものの、差がついていくのを感じるのが嫌で、見栄ばかり張っていた。留学にいくから。彼女がいるから。自分には他にも大切なものがあるから。いつしかバドミントンに本気で打ち込むことができなくなっていた。

でも、社会人になると仕事おわりには時間がある。他にやることもないので練習にいく。バドミントンをする回数がまた自然と増えていった。練習をするほど、自分に言い訳ができなくなり、必死になっていった。忘れていた。

僕はバドミントンが好きだ。

ごくまれに試合中、不思議な感覚になることがある。極限まで集中すると、身体はシャトルに向かって勝手に動く。なんでもできるような、宙を飛んでいるような気分。とにかくこの時間が長く続けばいいと思う。僕はこれ以上に気持ちのいい感覚を知らない。これを味わう為にバドミントンをしているのだ。誰より上手くて誰より下手なんてどうでもいい。


まだ6月だというのに早歩きすると、じんわり汗がにじむ。僕は仕事を無理やり終わらせ、体育館に向かっている。さすがに「またバドミントンをしている」と上司には言えていない。

社会人4年目、大切にするべきことはたくさんある。けれど、ただの趣味でも、下手でも、両膝を手術していても、僕はまだ打ち続ける。3回目があったとしても、僕はまた宙を飛べる。

【大阪編集教室では、受講生を募集しています!】
これから文章を学び始めたい人・みっちりと学びたい人・発想力を鍛えて面白いネタ探しがしたい人……。いろいろなニーズに応えるコースがありますので、下記HPより詳細をご確認ください!



この記事が参加している募集

#部活の思い出

5,454件