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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 11.成長②

 この数日後、珍しく彼女から電話で話したいと依頼を受ける。


「まーくん、幸せになる勇気って何?
良かったら電話で教えてください。いま必要なの。」



 幸せになるためにも勇気が必要だって、確かに伝えた記憶がある。
でもその言葉を咲笑ちゃんが覚えてるとは思わなかった。

そして咲笑ちゃんは、また一歩前に進もうとしていた。その勇気を積極的に持とうとしていた。



「彼を救いたいの。」



 咲笑ちゃんの第一声は僕を驚かせた。

つい数日前、何も成長してないと言っていた咲笑ちゃんが、彼を救う側に回りたいと言う。



「彼も心の中に闇を抱えてるの。
自分で抜け出したいと思ってるのに抜け出せずにいる。

私は彼が好きだから、彼と一緒に歩ける自分になりたい。
まーくんが私にしてくれたように、まーくんが私の話を聴いてくれたように、私も彼を支えて進んでいきたいの。」


「咲笑ちゃん、ちょっと驚いたけど、彼と一緒に進んでいくための方法を見つけたいんだね。

彼を理解して、彼を救うために自分ができる方法を知りたいってことなんだね。」



「うん。彼はね、今の状態は望んでないの。

元カノのことは、聴いたことがある。
都合のいいときだけ呼び出されて、都合のいいように扱われて、彼の自由はないって言ってた。

彼はその関係から抜け出したいの。でも抜け出せない。

彼にも傷があるの。彼も実は愛情に飢えてる。

きっと彼のお母さんだと思う。
彼のお母さんから愛情を感じられなくて、冷たいお母さんに似ている元カノから言われることを拒絶できないでいるの。」



「そうか。彼が咲笑ちゃんに伝えていたSOSに気付いたから、大好きな彼のために自分が出来ることを見つけたいんだね。」


「うん。だから教えて欲しいの。
まーくん、前に幸せになる勇気って言ってたよね。

幸せになるのに勇気がいるの?
勇気がないと幸せになれないの?」


「プロコースに行ったらきちんと学ぶと思うんだけど、咲笑ちゃんにとっては今必要なことなんだよね。
だから、先生が基礎コースのなかで言ってたことを選んで話すね。それでいい?」


「ありがとう。お願いします。」


 僕はプロコースのテキストと自分がまとめた基礎コースのノートを広げ、プロコースの内容には踏み込まないように注意しながら、できるだけ正確に伝わるように基礎コースの話を振り返っていった。



「覚えてるかな?『傷つくのではなく、気づく』っていうメンタルの考え方のこと。

心理テストをするテストセラピーの講座でも言ってたと思う。
テストをすると自分の心の中に隠れてた影の部分や、目を背けてた嫌なものが見えてくることがあるよね。

でもそこでマイナスな評価をするのではなく、傷ついて落ち込むのでもなく、その出来事を受け止めて本当の自分に気づくことが大事なんだよね。

『傷つく』と『気づく』、言葉はよく似ていても、そのふたつは全く違う。
そして一人では傷つくしかなかった出来事も、二人なら気づいて前に進めるかもしれない。
咲笑ちゃんが二人にとっての、そんな環境になることが必要になってくると思う。

でもね、前に恒常性の話をしたけど、人は今までと違う環境に身を置いたり、今までと違う選択をしたり、今までと違う自分になろうとしたりするのは、すごく大きなストレスになると思うんだよね。

たとえ不幸でも今まで通りの方が、慣れてる分だけストレスが小さい。
ストレスの大きな方を選ぶのはつらいから、結局元通りになっちゃうことがある。

新しい道を歩いて行くこと、幸せになるための選択をし続けていくことには、苦しさが伴う。

だから幸せになるためには覚悟が必要で、努力しないといけない。

変わらない方が実は楽かもしれない。
だから、幸せになるためには勇気を持つ必要があるってことなんだ。」



「ありがとう。そうだね。
今までと同じ道を歩く方が楽だもんね。でも頑張るよ。」



「うん。応援してる。
今日は咲笑ちゃんが前に向かって進んでるのが分かって嬉しかった。

メンタルのプログラムは基礎の前編に多くの部分が集約されてるから、いろんな経験を経てリピートすると気づくことが多いかもしれないね。
ほんとは彼も受講できるといいんだけど。

あと、咲笑ちゃんがやりたいことをやっても大丈夫だと思うけど、無理せず焦らずゆっくり進めてね。

繰り返しになるけど、人には恒常性があるから、例え良い方向にであっても身体が変化を拒絶することがあるから、急激な変化には耐えられないかもしれない。

でも咲笑ちゃんは、その勇気を選択したんだよね。咲笑ちゃんの勇気、応援してるね。」



 その日の夜、咲笑ちゃんからあらためてメッセージがあった。



「今日はありがとう。
いま、ノートに気づきをまとめています。

彼は『ただいま』って、今日の晩ご飯の写真を送ってくれたけど、それからはメッセージが続かなくて私はまた不安になっています。

私は、幸せになる選択をしたい。
今は、彼を幸せにして、私も幸せになりたい。
体を張ります。あの子、気づいてくれるかな。

今日話せて良かった。覚悟がもっと強いものになった。

挑戦したい。選択するのは彼だけど、私の知識全てを使って、周りの助けも借りて、彼が心から笑えるようになって欲しい。

私がそうしたい。

お話してくれてほんとにありがとう。」










幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~





傷つくのは簡単。
人は簡単に傷つく。


そしてそれを傷つけた相手に対する恨みや憎しみに変えるのも簡単なこと。


でも自分が傷ついた言葉は、自分を傷つける目的で発せられることは少ない。


だからこそ、何故その言葉で自分が傷ついたのか、そこに目を向け、自分の心が持っている癖を見つけたり、過去の自分の気持ちに向き合う、気づきの機会とする。

それが自分の成長に繋がっていく。


そんな教えを生かせれば、人間関係はずいぶん変わったものになると思います。


知識は活かすためのもの。

心理学は自分の心に向き合い、自分を変えるためのもの。


恩師である衛藤先生に伝えられたような、そんな成長ができればいいと、いつも思っています。




最後までお読みくださり、ありがとうございました。

次回はまた明日更新します。

よろしければ是非おつきあいください。

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