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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 7. 『かわいい』の意味③

 話を聴きながら、僕は彼女の姿勢が後ろ向きに変わっていくような心証を受けた。

僕は咲笑ちゃんのカウンセラーのつもりではいたけれど、咲笑ちゃん自身が学ぶ姿勢を貫いて欲しいとずっと思っていた。
だからどうしてもこの先を聞きたかった。ところが、この質問が、彼女の失意を顕わにしてしまった。


「話は変わるけど、咲笑ちゃん、プロコース行くよね?学び続ける気持ちが萎えかけてるみたいに感じるけど…。

多分わかってると思うけど、咲笑ちゃんの気持ちは自分で変えないといけないと思うんだ。
僕は咲笑ちゃんのカウンセラーだから話はいくらでも聴くし、咲笑ちゃんが助けを求めてるのも分かってる。
でも僕は、咲笑ちゃんに必要な気づきがプロコースにあると思ってるんだけど…。

あ、無理に行く必要はないし、今である必要もないのかもしれない。
そのための気持ちの準備が必要ならそれもいいと思う。

重たい宿題だからね。
ゆっくり、じっくり取り組んでいく必要があるかもしれないよね。
きっと、幸せになるためにも勇気が必要なんだよね。

僕を頼ってくれたのも嬉しい。ゆっくり話を聴きたいと思う。
でも、咲笑ちゃん自身は解決を急いでるみたいに感じるな…。」



「今日ミゼラブルな感じで泣いた直接の原因は彼のことだけど、先週、母に資金援助を打ち切ると言われて。それも堪えてる。

お金をせびりに行ったことはないけど、稼げなくても好きなことをしたらいいって、私の仕事をいつも肯定してくれてたからびっくりした。
後で撤回されたんだけど、ショックが大きくて。

パーティーもプロコースも、リピートももう行かない。

さすがに学ぶ意欲は薄れてしまった。
生きていたくないの。死にたい、というより、生きていたくない。
自殺は大袈裟だし保険金下りないから、病気になるのを待ってるっていう表現が一番近いかな。

『死にたくない!』って思わないの。希望がない。彼と一緒にいる時間だけが、すごく癒しになってる。

より良くなりたいって、いつも思ってた。
でももういいか、って。
日々死なずに明日に繋げるだけで疲れる。危ないよね。」


「咲笑ちゃん…つらかったね。
でも僕は、咲笑ちゃんに生きていて欲しいと思うよ。

なんだって。
そのうえで出会えて、こうして話してるって本当に奇跡。

だからね。生きたいと思って欲しいな。
ごめん、生きるのはつらいことなんだろうけど、ね。」


「咲笑の他にも良い子がいるよ。
まーくんが助けられる、感動を与え合える子はいる。

咲笑は、誰かの一番になりたかった。

生まれたくなかったと、母に言ってしまうのを必死で堪えてる。」


「そっか、咲笑ちゃんは誰かの一番でいた記憶がないんだね…。つらかったね。

でも僕は咲笑ちゃんが良い子だから相手をしてる訳じゃないよ。

と思ってる。
僕にできることは少ないけどね。

咲笑ちゃんは、お母さんの前でも『良い子』でいないといけないんだね。つらいね。」


「父の一番にはなれなかったし、母の一番になれるように心が擦り切れるまで頑張ったの。

彼にも尽くしてる。

友達にも気に入られるように、喜ばせられるようにって。

つらいから、優しそうな人を見つけるたびに暗い話をして、助けを求める自分にも嫌気がさしてるの。

私を見つけてくれてありがとう。

理不尽な怒られ方たくさんした。ただの八つ当たりなことも多々あった。

不良にならなかったし、からだも売らなかった。クスリも万引きもしなかった。頑張ったのよ。」


「そうか、つらくても、どんなにつらくても真っ当に生きてきたんだね。頑張ったね。

でもそれを分かって欲しい人には伝わらなくて、それが生きること自体を否定したい気持ちにするんだね…。」


「うん。その通り。

数年前、母に『咲笑は良い子だったでしょ?』って聞いたら、『そうでもなかった。』って言われた。

もう駄目だと思った。それでも数年間生き延びたのよ。

24時間テレビを見て泣くうちの家族が嫌いだった。よその子じゃなくて私を見て欲しかった。

いっそ難病や障害を抱えたら認めてもらえるのかなって、無理して無理して生きてきたの。
もう許して欲しい。疲れたよ。私、もう31よ。それなのに、ひとりで恋もできない。」


いい事ってなんにもなかったのかな?」


「英語が話せる。
死にたくなった日のために、逃亡するために、身につけたの。
でも、逃亡するにも気力がいるもん。

私にとって、『かわいいよ』は『生きてていいよ』なの。

彼も初めの頃はたくさん言ってくれてた。」



「英語は逃げるための手段でもあったんだ…。
うん、何かこれまでと違うことをするためにはパワーがいるよね。

咲笑ちゃんは、『生きてていいよ=かわいいよ』を求めてたんだ…。

それを彼があまり言ってくれなくなったから、生きる気力も減ってきたんだね…。」


「そのままなら、生きてる価値ないって思ってた。

小さい頃から、どうしようもないことも責められてきたの。」


「生きてる価値…責められた記憶しかないと、見いだしにくいかもしれないね。」



「うん。彼は日本人なのに、はちゃめちゃな咲笑をかわいいって、好きだよって言ったの。

口説き文句なだけだったのかもしれないけど、心の底から嬉しかった。」


「僕の言葉に意味があるのかどうかわからないけど…咲笑ちゃんは生きてていいんだよ。
生きていてね。」


「意味あるよ。ありがとう。」









幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~




最後までお読みくださり、ありがとうございました。


自分はなぜ生まれてきたのか、生まれてきた意味は何なのか、誰もが一度は考えたことがあるのではないでしょうか。

明確な答えが見つからなくても、誰かの言葉がその意味を見いだしてくれることもあると思います。


自分にとって大切な言葉って、人によって違いますよね。

あなたにとっての『大切な言葉』はどんな言葉ですか?




次回はまた明日更新します。
よろしければ是非おつきあいください。

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