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幸せを手に入れる最後の方法 ~2年間のカウンセリング実録~ 12.踏み出せない一歩③

「うん。それでね、私、自傷行為はしたことないの。
自傷行為をする人のこと、頭では何となく理解できる。

でも、そんなことする意味がないし、しちゃいけないって思う。」



「自傷行為をする心理は理解はできるけど、行為そのものは否定してるんだ。
確かに建設的な行動ではないよね。」


「うん。だけどね。この前、気が付いたら、私の足が引っ掻き傷でいっぱいだったの。血も出てた。

でも私、そんなことした覚えが無いの。
これ、自傷行為だよね。私、そんなことするのいけないって思ってることを、自分でやってるの。」


「自分のことを傷つけちゃってた自分が嫌になったんだ…。傷は大丈夫?」



「うん。ただの引っ掻き傷だから大丈夫なんだけど、私も自分のこと傷つけるような人間だったんだと思うのが嫌なの。」


「『私も』って、お母さんとか、おばあさんと一緒って意味?そんな風に聞こえたけど。」


「そうかもしれない。

私、望まれずに生まれてきた自分が嫌いなんだ。
だから傷つけても平気になっちゃったんだ…。」


「そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。
さっき咲笑ちゃんが自分で言ってた様に、ほんとの咲笑ちゃんは自分を傷つけることが嫌いなんだと思うよ。

無意識にそんなことをしちゃった自分を持て余してるのかもしれないけど、その無意識は咲笑ちゃんの本意ではなくて、自分が言われて嫌だった言葉から目を背けて押し込めた先の無意識なんじゃないかな。

無意識には心的外傷体験(トラウマ)なんかを押し込めて蓋をしてるって習ったよね?

向き合って吐き出せば、きっと元の咲笑ちゃんに戻ると思うよ。」


「そうなのかな?そうだといいな。ありがとう。

私、このままじゃ駄目だよね。

幸せにならなきゃいけないと思う。

もっと欲張りになってもいいよね。幸せに対して貪欲になっても。

だって、そうじゃなきゃ割に合わない。」




 咲笑ちゃんが前向きな発言をした後、話はやっと彼のことに移る。
でも咲笑ちゃんは踏み出そうとした一歩をまだ踏み出せていないままだった。

彼がゆっくり会ってくれない。話ができない。話が聴けない。


 踏み出すと決めた一歩が踏み出せない一歩となって、咲笑ちゃんを苦しめていた。

そんな咲笑ちゃんに伝える言葉を、僕は多くは持っていなかった。
慰めではなく、悲しみでもない。
僕は咲笑ちゃんが踏み出そうとした一歩をとにかく肯定したかった。


「せっかく覚悟を決めたのに、彼はゆっくり時間をとってくれないんだ。

でも、咲笑ちゃんが決めた覚悟は間違いなく、咲笑ちゃんが踏み出した一歩だし、咲笑ちゃんは自分で前に進めたと思うよ。

それに向き合えないのは彼の問題だと思う。

ひょっとしたら咲笑ちゃんの覚悟が何かしら伝わって、敢えて時間を取らないのかも。

残念だけど、彼は幸せになる勇気を手にすることが出来なかったのかもしれないね。」


「そうかもしれない。なんか、会うことを避けてるように感じる。」


「そう思うと、伝えたいことを伝えられるっているのも幸せなことなのかもね。

伝えたいことは、できるだけその時に伝えるようにしたいね。」



 タイムアップ。久しぶりに顔を合わせて行ったカウンセリングはここで終了した。


 別れてから、メッセージが入ってきた。


「まーくん、今日はありがとう。
会ってた時のこと思い出したらなんかうるうるします。 何かを越えたのかも?って気がします。

あの後、本屋さんをゆっくり見て、コーヒーショップでお勉強してました。生息地拡大計画。

これから英語圏のお友達に会います。駅まで来てくれるって。安心する人にすぐ会えるのは幸せ。」



「こちらこそ。今日は会えて良かった。
また会いましょう。」



「お疲れさまでした!ありがとう。
割に合う幸せを手に入れます、悔しいから。

また会いましょう!」





 翌日。僕のプロコースの同期、花井愛芳(はないよしか)さんが新しい活動を始めた。
SNSでそれを見た僕は咲笑ちゃんのことを思い出し、その言葉を伝えるために、もう一度咲笑ちゃんと連絡を取った。


「咲笑ちゃん、昨日はありがとう。頑張ってる咲笑ちゃんに会えて良かったです。

突然だけどプロコースの同期がいま質問家になる勉強中で、今日から活動を開始したみたいです。
その最初の質問は『今、一番ありがとうを伝えたい人は誰ですか?』。

感謝したい人はたくさんいるんだけど、『今』『一番』ていうと咲笑ちゃんだな、と思いました。
伝えたいことはすぐに伝えるって昨日話したばかりなので、お伝えします。

咲笑ちゃんのお陰で、僕は自分が人の役に立てるかもしれないって思えました。
咲笑ちゃんが頑張ってることを聴いて、自分も頑張ろうと思えます。どうもありがとう。

以上です。またね。」



「こちらこそ、ありがとう。すごくつらいなか、へこたれそうななか、貪欲に欲張りに、幸せにならなきゃ割に合わないってまーくんに言えたのはとっても良かった。ほんとにありがとう。」










幸せを手に入れる最後の方法
~2年間のカウンセリング実録~




最後までお読みくださり、ありがとうございました。


短い時間でも、凝縮された話をしたあと、咲笑ちゃんは久しぶりに前向きな発言をしてくれました。


自分で発言した言葉は、他人から聞いた言葉よりも力があると思います。


次回はまた明日更新します。


自分で幸せになると言葉にした咲笑ちゃんに注目してください。

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