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銭湯に行くと不思議と起きる会話

忘れもしない、石川県珠洲市にあるあみだ湯で水風呂に初めて入れた時から、サウナにハマり、知らない土地に行って空き時間を見つけると銭湯を探すようになった。

なぜだかわからないけど、都内でもどこでも銭湯に行くと不思議なくらいにおばちゃんたちが私に話しかけてくれる。
それは目だけの時もあるし、ガッツリ会話する時もある。理由はわからないけど、お互い裸で会話する時間がなんだか心を温めてくれる。

ある地域の銭湯に行った時、まず入口がむずかしく迷子になり、番台が奥まったところにあって、明らかに常連ではないドギマギの初心者と思われたのか、
「マナーを守ってね」
と番台のおばちゃんが念押してくれた。

中に入ると「祝新築」と書かれた当時贈呈されたと思われる鏡が、一目で年季が入っているのがわかった。「新しいサウナです」と書かれた看板も古い。言葉と状態とのギャップがもう温かくて心揺さぶられる。

服を脱ぐと先に来ていたおばあちゃんに
「腰痛いの?」と聞かれた。
やっぱり話しかけられたと笑いそうになりつつ
「そうなんです」と笑顔で答えた。
「腰に貼ってあるから」
私はその時、腰が痛くて湿布を貼っていた。
「そうなんです。お母さんはどこも痛くないですか?」
「ぜんっぜん!」
「わぁすごい!何かされてるんですか?運動とか」
「歩いてる。散歩だけどね」
「朝?」
「朝も歩くけど夕方かな。◯◯公園のところ」
「いいですね〜」

湯船に入ると一気には浸かれない温度だけど、慣れてくるとやみつきになって首まで浸かったまま動かず、格段に温まるお湯で体の芯から癒される。

サウナは水風呂と休憩を大体3回くらい繰り返して入る。そして最後にまた湯船。そんなことをしていると先に入っていたあのおばあちゃんが浴室から出る時に
「ゆっくりね〜」
と私に言ってくれて、その優しさでまたさらに体温が上がった気がした。

思う存分満足した私も浴室を出てから
「よくいらっしゃるんですか?」
と今度は私からおばあちゃんに話しかけてみた。
「毎日」
「えー!すごい!」
「番台の〇〇ちゃんとも仲良しだしね」

と言ってから、サウナ用の返却タオルを集めて奥の倉庫に入れるのを慣れた手つきで手伝うおばあちゃん。さすが、毎日来てる方は銭湯の段取りまで知っているらしい。

番台の方がそのおばあちゃんに「北海道限定らしいよ」とお菓子をあげていた。いつも手伝っているお礼なのかなと思っていたら、

「おねぇさんも食べな」
とおばあちゃんが私に差し出してくれた。
「え!ありがとうございます!」
「もう一つ取りな」
「おいしい!ありがとうございます」

私はお腹が空いている人に見えるのか?おいしそうに食べる人に見えるのか?ってくらい、初めて出会う人から食べ物をもらうことが多い。

そして私は躊躇なく食べる。

おばあちゃんは帰る準備が整って
「気をつけて帰りなね〜」
と最後に言ってくれた。
「お母さんもお気をつけて」
「は〜い」
と後ろ姿だけどきっとにこやかだとわかる優しい明るいトーンで言って去っていった。

知らない土地でこういう交流があると、初めて来た場所とも思えないような不思議な記憶として残っていく。だからまた行きたくなる。

人と会うこと話すことが遮断された時があるから、より愛おしさが増して、話しかけてくれることも嬉しくなる。

都内の行きつけの銭湯でもそういう交流が起きて、その度にぬくもった体を心まで優しくさせてくれるから銭湯って好きなんだよなぁ。

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