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映画『手のひらのパズル』を金沢で

先月、石川県金沢市で映画の撮影があった。
一番最初にその話を聞いたのは昨年の夏。以前に共演したあゆちゃん(黒川鮎美さん)が「久しぶり!ランチしない?」と連絡をくれたが、あまりに急だった。なんだろうとは思ったけど、特に詮索もせずすぐに会う日を決めた。会うのは2年ぶりくらい。近況報告し合いながら、久しぶりの感覚があったまったところで本題に入る。

「LGBTQをテーマにした映画を撮りたい」

という話だった。経緯と想いを聞き、その時は熱くて素敵だというのがシンプルな感想。

それからまた次は秋に会った。彼女の顔つきが変わっていた気がする。そして「その映画に出てほしい」と言ってくれた。しかも当て書きだと言う。「おさちゃんしかいない」というまた夏とは違った熱量を感じた。まだ台本はなかったけど、この人のこの想いで書き上げるものに出会いたい、そしてあえて金沢設定にする理由含めて実現させたいと思った。
毎回会うたび「この人もこのお店も協力してくれて」と石川と東京での繋がりがどんどん増えていく姿も目の前で知ることができた。もうすでに始まり何かが動いている、そんな予感がずっと消えなかった。だんだんと彼女の顔つきは頼もしく変わっていき、出演を決めてよかったなと心から思えた。
11月に石川県に仕事で行くんだよねということを伝えたら

あゆ「え?私もやねん!でも一日だけやけど」

おさ「え!いつ??!」

あゆ「ちょっと待ってよ・・・27日!」

おさ「うそやん!!!私その日多分おるで!」

こんな奇跡ある?!!って関西人の二人して声大きめで感激したと思う。
その日の夜だけ予定が入っていて、それまでは時間があった。その日のお昼頃にLGBTQの方たちや支援する方が集まる月に一回のイベントがあるとのこと。急遽タイミングよく行けることになった。私は前日から金沢に居たため、そのイベント会場であるお店で待ち合わせをした。まさかあゆちゃんと金沢で会える日がこんなすぐに来るなんて。

LGBTQの方が集まる会に私は初めて参加させていただく。友人にも仕事仲間にも当事者の方はいるので元々抵抗や偏見はないと思っているけど、偏見なんて自分のものさしで測っただけのものに過ぎないから、人から見たらどうなのかはわからない。なので何気ない言葉で怒らせたり傷つけたりしたらどうしよう、とか想像しながらドキドキして入った。

そしたらあゆちゃんがにこやかに迎えてくれて、あったかい飲み物を入れてくれた。雪が降ってもおかしくない寒さを歩いてきたため私のドキドキと一緒に温めてくれた。「お菓子もあるから適当に食べて」と言われた矢先に、イベントの主催側らしき女性が「やだ!これ湿気ってる!え、これも!全部湿気ってるんじゃないの?ごめんなさいね〜」と言われ、なんかこの完璧じゃないもてなしがこれからの時間をほぐしてくれるかのようだった。

マスクしながらというのもあるけど、誰がどういう「タイプ」の方たちか全くわからなかった。一人一人自己紹介する時に教えてくれる人もいたけど、言われなかったらほんとにわからない。なんとなく2人とか3人でお話する。何でもない最近の話から、私が今度そのテーマの作品に出演するので来たんですっていう経緯から、全員が初対面だけどこの場所に来ているという共通点だけで何かを気にすることなく思いのままお喋りができた。
「当事者の方ですか?」と私が聞かれたりもした。そう思われてもおかしくないくらい何の境界線もない空間に居た。ある方は7年前にふと気づいたと言う。男女という性別関係なく人を好きになるということを。でもそれはこの場所を見つけるまでカミングアウトできなかったらしい。「今はここで皆さんとお話できるから楽しい」と言う。それまでは隠さなきゃいけないから人と話すことすらしんどかったみたい。地方での「カミングアウト」は都心より難しいのかもしれないとその方の話で思った。

私も精神的なものがあったりするけど、病気とかでもなくて、周りから見ると見た目じゃわからないから全くわからないことはたくさんある。境界もなく、いつそうなってもおかしくないし、日常の中に当たり前のようにそういう人はいる。その3ヶ月後に台本をもらった時、私の役も見た目ではわからないただ日常を過ごしてる女性だった。どれだけの気持ちかは当事者にならないと理解しきれないかもしれない。でも金沢で触れられたあの空間に集まった方たちとの会話は、話し方や過去のこと、その人の佇まい含めて身体の体温で感じることの多い時間になった。

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あゆちゃんと奇跡の金沢にて

アデル、ブルーは熱い色』という映画を初めて観た時「え、もしかしたら私も女性を好きになることもあり得るんじゃないか」とよぎったことがある。それくらいかけ離れた世界の話ではなかった。今回撮影した映画もそう。台本を読んだ時にあまりに日常で、こうなったらどうするだろ?と普段の延長線上にあることのように考えられた。台本を読みながらふと過去を振り返ったりもした。

私は中高大と10年間女子校のため、あの全校生徒の全員が必ずしも男性だけを好きだったとは限らないんじゃないかと。先生の中にも居たかもしれない。私が知らなかっただけで、誰にも話せず一人で苦しい思いをして通学してた人も居たかもしれない。だからと言って、その時もし私が知ったらその子に何て言葉をかけられるんだろう。小さな狭い世界で自分を守ることに必死だった私があの時代に何ができたんだろう。確実に傷つけたりしたことは今でも消えずに残っているけど、もしかしたら今までにそういう人を無意識で傷つけてたこともあったかもしれない。何も考えずに過ごしてたら起こりうる。「考える」っていうのは自分とは違う立場の方とお話できるキッカケとも言えるのかもしれない。
なんかそんな様々なことを今回の台本のおかげで考えられた。

私の学生時代と今と明らかに違うことの一つは、作品での描かれ方かなと思う。例えば10数年前のドラマでも、同性愛を特質なものとして拒みがちな設定で描かれていた。今でもそういう設定はあるけど、私が今年どハマりした『30までにとうるさくて』というドラマでは、同性愛の生きづらさを描きつつも何より友達や親に最初から受け入れられてる設定のおかげで愛おしくなる瞬間が山ほどあった。当たり前のように観てたけど、ありそうでまだあまりない設定だなと。私がまだまだ知らないというのもあるけど、こういう作品を知るとやっぱりいいなって思う。
というのもこのドラマの中で、

「まだ同性婚はできませんが、こういう場(ウエディングイベント)で同性同士のカップルが可視化させることはものすごく意味があることだと思うんです。世の中にはセクシャリティーを隠して生きざるを得ない人がたくさんいます。このイベントに来る人にもいるかもしれません。そういう人たちにとってこれは勇気にもなるし、生きやすさにも繋がるはずです」

と一人の女性を愛する女性が仕事相手に言い放っていた。ドラマ内のこのイベントに限らず、普段気軽に観ることができるこういう作品で提示することはとても大きな影響があるのかもしれないから、いいなって素直に思った。

そんなことを家で考えながら、撮影に行ったら作品に没頭していた。

私にとっては初めての設定すぎて不安でしかなかった。クランクインの前日はいつだって眠れないけど、やっぱり眠れなかった。でもそんな前夜をかき消してくれるかのように現場に入った瞬間、あれ?みんな知り合いだっけ?ってくらい受け入れてくれて、そしてみんな熱かった。
最初は都内での撮影で、店内の明かりを消した状態での撮影が続き、私の出番まで少し時間があった。その間に、現場に入ってから感じているこの温もりを書き留めておこうと暗闇の中ペンで紙に書いてたら、スタッフさんの一人が小さな照明を当ててくれて。「いやいや大丈夫ですよ」と笑いながら小声で言えたけど、恥ずかしくて「今この状況のことを書いてるんです」なんてとてもじゃないけど言えなかった。

出番の出演者陣の私物が機材により出入りできない場所に置いてあるから、そこにいる私に「鞄の中の携帯取ってもらっていいですか?」「え?この中に手入れていいんですか?」って、やっぱり前から知り合いだっけ?というやり取りが初日に山ほどあった。なんだか翌日からの金沢ロケがより楽しみになった。

自主映画とは思えない整いすぎてる機材はすべてカメラマンの私物だということ、自主映画ではあり得ない豪華なお弁当たちはすべて協賛とのこと。ほんとに恵まれた現場だと思った。それはすべて監督、黒川鮎美の想いが引き寄せたものだ。人の想いは人も場所も食事も繋げていく。集まったスタッフキャスト含めてそんなことを心から実感する現場だった。大雪警報が出るくらい金沢では大雪だったけど、分刻みで変わる金沢の気候のおかげで奇跡のような晴れにも恵まれたし、現場に居た皆様の熱さのおかげで寒さも乗り切れた。

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なんの奇跡か撮影期間だけ降ったらしい雪です

出来上がりは観てからじゃないとわかりません。それでも、(あ、一旦自分の芝居は置いときますが)あれだけみんなが同じ想いで目指したものはきっと映像に残っているんじゃないかと思います。

こんな映画がもうすぐ出来上がります。
6月に21世紀美術館で上映会がございます。
一人でも多くの方に知ってもらいたいです。
タイトルは『手のひらのパズル』と言います。
もしよろしければこちら
あらすじも載ってますので、
興味を持っていただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いします。

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黒川監督と。


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