ラテの手つきがあまりにベテランで
チェーン店のカフェというのはいくつもあって、何度か行くと大体頼む飲み物も決まってきがちになる。友達と行ったり、季節限定のものがあると、ちょっと揺らぐなぁってことがあるくらい。
一人であるお店に行くと大体頼むメープルラテをいつもと同じように頼んだ。
いつもと違うのは作っている方の空気だった。
作る人を普段あまり見ないようにしてるけど、この時はじっと見たくなるくらいなんだか風格がベテランだった。
何気なく入ったいつものチェーン店で、ベテランのような方が真剣な顔でミルクを注ぐ。
手つきと視線が明らかに違う。
作る人にプレッシャーを感じさせるのはいやだなと思っていつもは見ないようにしてるのに、あまりのベテランな手つきに惹かれてまじまじと見てしまった。
数回に分けて丁寧に注がれるミルク。
出来上がったのはかわいいお花だった。
何度か来たことあるそのお店でお花が出てきたのは初めてだった。今までお花が出ないことに疑問を感じたことは一度もないから、予想外のサプライズだった。
そしてその方は少し満足気に注いだものをカウンターに置いてくれたが、私が頼んだのはメープルラテだった。
このお花の上にメープルをかけてしまうのは明らかにもったいない。
こんなにベテラン手つきさんがいらっしゃるならカフェラテにすればよかった。そしたらこのかわいいお花のまま受け取ることができたのに。
自分が注文したものにごめんなさいと思った。
それでもベテラン手つきさんは何の躊躇もなく、私のごめんなさいと思ってしまった頭の上に思いっきりかけてくれるかのように手際良くメープルをたくさんかけてくれた。
出来上がったのは、まるで窓越しの隙間にお花が見えるようになったようなメープルラテ。
いつもはかき混ぜるけど、この日は混ぜずに飲みたい丁寧なかわいい一杯だった。
何気なく入ったチェーン店のカフェで、こんなに満足感を得られるなんて思いもしなかった。
もしも待ってる時に携帯を見ていたら、ベテランの風格に気づかなかったかもしれない。
そのまま出来上がったものも見ずにかき混ぜてたら、あのお花も窓越しにすらなかったものになってしまう。
ベテラン手つきさんの風格にもお花にも気づけて、ホットのメープルラテのあったかさよりも心あったまったから良かったなぁと思った。
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「忙しい」という漢字は「心を亡くす」と書くって知ってから、忙しい時ほど自分の心に目を向けようと意識するようになった。
それでも追いつけない時もあるし、なんなら「忙しい」必要があるのかなとすら疑問に感じたこともある。
でもやっぱり生きていると不思議なくらいに「忙しい」時間がやってくる。その繰り返しが人生と思わされるくらいに。
忙しくても心亡くさないように気をつけられるのは自分だし、日常生活にある些細な幸せにも感じられる状態でありたいなって思う。
なんだかいつもと違うものを飲んだ気がするくらいの幸福感をよく行くお店で感じられて、このベテラン手つきさんに自分の心を豊かにさせてもらった。
色々気をつけるのは自分でも、そもそも豊かにさせてくれるのは周りの人だったりする。
だからこの日のメープルラテのおかげで、改めて周りの人を大切にしようって思わせてくれた。
今日は寒いし雨だし腰重いし、いやなことってすぐ目につくけど、だからこそ豊かにさせてもらったことは色濃く残るから、ハプニングの多かった今日にも感謝してぐっすり眠ろう。
読んでいただき、ありがとうございます! 子どもの頃の「発見の冒険」みたいなのを 文章の中だけは自由に大切にしたくて、 名前をひらがな表記にしました。 サポートしていただけると とっても励みになります。