初めての寄席は表現の真髄へのいざないだった
映画『遠くを見てみた』のPRで撮影以来に再び石川県津幡町に行くことが叶った。前からSNSで気になっていた「つばた寄席」がその二日後にある。日帰り予定だったけど、なんか観た方が良い気がして延泊することにした。この選択が人生変わるほどの時間に繋がった。
その寄席は津幡町民落語会の皆さんがメインでされて、最後に月亭方正さん(津幡町の観光大使)の出番がある。オープニングが始まると、津幡町で落語を習う町民の皆さんの発表会的香りが漂っていたのに、いざ落語が始まると本当の香りまで届いてきそうなくらい皆さんの「話」が見事だった。
落語に入る前にお話される皆さんオリジナルの導入話。「これがまくらか〜」と感心する間もないくらい皆さんの話に聴き入っていた。これがまたその後の落語にいい塩梅で影響していて、落語が始まっても全く置いてけぼりにならない。
何より感動したのは、耳で聴いたその話は私の脳内でかなり具体的に想像され、何かの映像を観たのと同じくらい記憶に残っている。そこまで残させるほどの話術に感激した。噛むとか滑舌とかそんなことじゃなくて、いやもちろん大事だけど、それを関係なくさせるくらい話が入ってくる。
そこには話し手の方の人間性も大きく関わってくることも初めて実感した。少し人を上から見てたり、出しゃばる人の話が耳に入ってこないように、人間性でこちらの聴き方も変わることを知った。
自分が芝居に関わるからより感じたことかもしれないけど、表情・言葉・動き・五感、そんな芝居の基本的なことが座布団一枚の上で、しかもたった一人で繰り広げられることが超人的凄さだと思った。演じてるのが人間だから「超人」にはならないのだけど、それくらいすごいことをしていたと伝えたい。
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落語を始めて2年の方にも感動させられたので、もはや勝手に期待値も上がる方正さんの落語。まず導入の導入でかなり笑わされた。ここまでもずっと「喋り」を注目して観てきたため、方正さんのさすがの「喋り」のうまさみたいなものに圧倒させされた。間や緩急の工夫はもちろんだけど、身近に起きた日常話の愉快さのおかげで最近起きた話かのように古典落語も聴くことができた。
それがとんでもない乗り物に乗せられていたことを時間が経つにつれて実感する。目の前で聴いている話に心鷲掴みにされ、気づいたら涙していた。登場人物の親戚にでもなったかのように泣いた。話の世界の中にとても長い間居たような気がする。「話」でそこに自分も居ると思えるほど想像させられ、感情揺さぶられるのか。方正さん一人で約40分。座布団一枚の空間から永遠に漂いたくなる世界に連れてってもらった。
こんなに芝居に生かせる勉強になるとは思ってもみなかった。ちょっと遅いかもしれないけど、衝撃的な落語との出会いだった。一緒に行った嬉野監督と冗談で「〇〇亭〇〇にしますか」とか笑いながら話してたけど、いつか名乗る時が来るかもしれない。あれだけ人を引き込み惹きつけられる「表現」を身につけたいと思った。津幡町に住んでいたら、迷うことなく町民落語会に入会しているだろう。
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