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◆読書日記.《ウラジミール・イリイチ・レーニン『帝国主義論』》

※本稿は某SNSに2019年1月5日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。

 ウラジミール・イリイチ・レーニン『帝国主義論』読了。

レーニン『帝国主義論』

 レーニンと言えば世界初の社会主義革命であるロシア革命を成功に導いた指導者としてのイメージが強いせいか、本書も革命論なのだろうと思っていたのだが、そうではなく『資本論』を受け継いで20世紀初頭の資本主義の問題を批判する経済学の論文となっていた。

「帝国主義(金融資本が支配的となった体制)は、資本主義が最高度に発達した段階である」とレーニンは主張する。
 本書の正式名称も『資本主義の最高の段階としての帝国主義―一般向け概説書―』とあるように、本書の趣旨はその「帝国主義」を様々な統計や論文を引用しながら批判するところにある。

 で、ちょっと意外だったのは本書では"政治形態"としての民主主義についてはほとんど言及していなくて、"社会形態"としての資本主義を批判している点だということだ。

 資本が集中すると、自由競争は自由競争ではなくなり、独占体同士の権力抗争へ移行する。この過程を本書では非常に分かり易く説明してくれている。

 雑誌かなにかの経済記事を読んでいるような平明で分かりやすい説明の仕方がスタイリッシュで優れている。しかも様々なデータを複数の場所から引用して説得力も強い。
 これはレーニンを完全に侮っていた。
 レーニンの指摘した資本主義の問題は、驚くほど現在の状況と照らし合わせても通用するアクチュアリティを持っている。

 驚くべきは、20世紀初頭のこの時代には既に、欧米各国で官僚の天下り問題が発生していたということである。
 レーニンは具体的にロシアやドイツなどの例を挙げている。
 レーニンはソ連を立ち上げたさい官僚組織には批判的であったにも関わらず、その組織を潰すことは遂にできなかった。官僚組織も腐敗しやすいのだ。

 資本主義社会の巨大資本は「見境なく拡大していく」という特徴を持っている。
 つまり「ここまで稼いだら、もう利益を追求するのはやめよう」という目標がない。
 どこまでも稼げるところまで永遠に稼ぎ続け、限界なく拡大し続けようとする。
 利益追求を緩めてしまうと、競合する巨大資本にたちまち飲み込まれてしまうからだ。

 当時レーニンは、そういう延々と拡大し続ける体質が、資本主義を「帝国主義」まで押し上げてしまうと捉えていた。

 因みに現代でもMBAでは企業の目的を「ゴーイングコンサーン」と説明している。
 これは「企業と言うのは何らかの目標を達成すれば解散する組織ではない」ということで、企業の目標は「ただ事業を継続させる為に継続する」なのだ。

 こういう帝国主義的な拡大主義は現代に至っても消滅したわけではない。

 帝国主義的な拡大主義は、植民地主義から形態を変化させているだけだという捉え方がある。
 一世紀前のカルテル、トラストの独占企業体は、現代は巨大グローバル企業という形に変形し、新たな<帝国>として依然として世界の資本を集中させている。
 そういう事情についての最近の有名な研究にはネグリ=ハート『<帝国>』に詳しい。

 しかし、レーニンが『帝国主義論』で提示した「巨大資本は、拡大し続けなければ他の競合他社に食われてしまうので拡大し続ける他ない」という問題は現代でも全く解決されていないという事では現代でも未だに読まれる価値がある。

 資本主義の問題としては、マルクスの提示した搾取問題よりもより深刻で根が深い。

 しかし、なぜ共産主義理論家の多くは批判と論争が大好きなのだろう?
 レーニンもやはり批判が好きなようで、特に本書でもドイツ社会民主党の理論家カール・カウツキーをクソ味噌にコケおろしている。
 この口の悪さは、一例を挙げると「屑、卑劣漢、お喋り屋、人でなし、豚、白痴、間抜け」などなどと、ホントに酷い(笑)。


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