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◆コラム.《バンクシーは「単なる落書き野郎」なのか?》

※本稿は某SNSに2019年8月30日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。

(再掲時注:このコラムは当時、小池百合子都知事が東京で見つかったバンクシーらしき絵と共に写った写真を挙げてTwitterに「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです。」と、何だか的外れなツイートをしたり、バンクシーの作品がオークションで落札された直後にシュレッダーされたり、とバンクシーの一般的な認知度が上がっていた時期に書かれたものです。ネットニュースでもしばしばバンクシーの事が取り上げられていたのですが、その度に古い美術の価値観でバンクシーの絵画を馬鹿にする発言をする人が目に付いたので書いたという経緯があります。って事で呆れ半分怒り半分といった感じで書いてます(^^;) )

 Twitterや各種SNSのニュースのコメントでよく「バンクシーなんて、あんなの単なる落書野郎じゃねえか」とか「あんな犯罪者をアーティスト扱いするのは如何なものか」的な批判している人を見かけるが、この手の人たちは、バンクシーがやってるグラフティには元々「落書き」の意味があって、ゲリラ的に権力者なんかを批判する落書きを行う「反社会的行為」だというのを知らないのだろうか?

バンクシーの絵

 こういう、内容も知らずに表面的な情報だけで「勉強なんかしなくても、オレはものごとの本質を上手く捉えた事が言えるんだ。どうだ?」とでも言いたげな発言を見ると、自分としてはどうにも共感性羞恥を抱いていたたまれない心地になってしまう。

 例えれば「ピカソって絵描き知ってるか?俺は初めて見たんだが、あんな下手くそな絵はオレだって書けるよ(笑)」と「今」自信満々に呟いて何か言った気になっている人を見て「恥ずかしい」と思ってしまうようなものだ。

 バンクシーのやっている"壁の落書き行為"は「グラフティ」と言って、70~80年代アメリカでもてはやされ始めた「犯罪行為」で、これによってキース・ヘリングやジャン=ミシェル・バスキアなんかがスターダムにのし上がって決定的に「芸術認定」された。

 だがそもそもグラフティというのは違法な活動として町に突如現れるという「場と瞬時性」が重要な要素だった。

「瞬時性」というのは、グラフティが「単なる落書きでしかない」からこそ家の主によって消されて、保管されることがないということだ。

 実際バンクシーの落書きもバンバン消されている。
「バンクシーが落書きしてくれた。嬉しいなぁ」なんて言うバカっぽい家主が現れるなんてのはそもそも想定してないのだ。

 グラフティ・アーティストはそもそも黒人など不当に抑圧され差別された人たちが始めたもので、権力者たちの横暴をゲリラ的に批判するのも戦略的な理由がある。
 迷惑行為によって強制的に注目を集め、自分の作品が「犯罪指定」を受けることによって衆目を集めるというのも彼らの戦略のうちのひとつなのだ。

 だから、バスキアみたいに画廊や美術館に囲われちゃったグラフティ・アーティストが描いてる作品は、正式にはもうグラフティ・アートではなくて「変わったタイプの芸術作品」でしかない。

 グラフティ・アーティストは芸術家となって美術館に囲われた時点で息の根を止められる。

 それに対して、バンクシーは未だに顔を隠してゲリラ的な活動を続けている。

 彼の主張は基本的には権力者批判だし横暴な政権批判といった政治的なものが多い。
 だからこそバンクシーが日本に現れはじめたと言う事は逆に言うと「日本の権力者が批判されるに値するほど酷いとバンクシーに認識された」ということではなかろうか?

 だから小池知事がバンクシーの落書きを見て喜ぶのはお門違い。

東京都小池百合子都知事

 彼が日本の権力者や政治家たちを批判しはじめようとしている予兆なのかもしれない。「批判されて大喜びしている人たち」というマヌケっぷりが良くわかると言うもの。

 ただ、バンクシーの戦略は普通のグラフティ・アーティストなんかよりも割と変則的で、美術業界に取り上げられることをわざと逆利用しようとしているかのように思える。

 普通は消されて消滅してしまう自分の落書きを、バンクシーの"公式的な"利用者が写真に撮って作品化したりグッズ化して彼の活動資金を生み出している。

 バンクシーの絵がオークションにかけられたというニュースを聞いた時は「グラフティ・アーティストがアート市場に流れるようなちゃんとした自筆絵を描いてるの?」と疑問に思ったものだが、落札された瞬間シュレッダーされるシステムだったと聞いて、落書きとして消される運命にあるグラフティらしい作品だと納得した。これもバンクシーらしい戦略だ。

 ……といったような「基本的な知識」さえも持たずに「バンクシーなんて単なる落書野郎じゃねえか」みたいな「どうですか?見事に本質を捉えたコメントをしているでしょう?」と言っているかのようなドヤ顔の人たちが、いかに間の抜けたことを言っているのか、お分かりになっただろうか。

 意外と現代日本でこそグラフティ・アーティストの戦略は効果を発揮するかもしれない。

 例えば安倍首相なんかをおちょくったグラフティなんかを描いたアーティストを公式に犯罪者認定すれば、再度そのグラフティが現れたら人々が集まってきてスマホで写真に撮り、ネットに拡散していくかもしれない。

 権力者批判をしたグラフティ・アーティストをネトウヨなんかが批判すれば批判するほど、注目が集まってしまう。
 再度権力者を批判するグラフティが街中に現れたら、更に人々が集まってその絵を拡散していくだろう。

 犯罪という、身を切るリスクをとってまで不正をただそうと言うほどの気骨のあるアーティストが、日本にいればの話だが。


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