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◆読書日記.《マルクス=エンゲルス『資本論』全三巻》

※本稿は某SNSに2018年12月2日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。


 マルクス=エンゲルス『資本論』全三巻(岩波文庫版・全9冊)、やっと読み終わりました!

マルクス=エンゲルス『資本論』

『資本論』は、ぼくの中で今年の課題図書としていた本だったのですが、流石に歴史的な大著、時間がかかっちゃいましたあ……。

『資本論』はどんな本だったか一言で言えば「資本主義社会の抱えている矛盾や問題点を明らかにして、それを批判するための本」だったと思いました。
 そのためにマルクスは資本主義社会の経済の謎を詳細に分析しなければならなかった訳です。

 マルクスはもともと経済学は専門でなく、大学でも法学と哲学が専攻だったため『資本論』を書くにあたって大英博物館の図書室に入り浸って随分と勉強したそうです。
 それもこれも全ては資本主義社会の抱えている矛盾や問題点を、誰でもわかるように理路整然と示した上で批判するためであったわけです。
 マルクスは根っから批判が好きな人だった(笑)。

『資本論』を読んだ、という人はけっこう一巻までしか読んでなかったり、2~3巻で挫折したりする人が多いようですが、それは少々勿体ないとも思いました。
 一巻までしか読んでいない人の特徴は「搾取(=剰余価値)」という言葉が『資本論』の最大のポイントとして出てくるところだと思いますが、ぼくが思うに搾取構造というのは、さほど決定的な批判とはなりえないのではないだろうかと思っています。
 というのも、そこら辺は柄谷行人さんが『マルクスその可能性の中心』でも詳しく書いているとおり、「どういう性格の労働を何時間したら幾らの賃金がもらえるのか」という労働賃金の価値というのは非常に相対的なもので、柄谷さんが剰余価値の正体は不払労働(=賃金の搾取)ではなく「労働の生産性の上昇による潜在的価値体系の創出にある」と主張するのも一理あるのではないかと思います。

 ただ、マルクスが批判する「資本主義の問題点」というのは『資本論』の2~3巻でも更に詳細に展開していくので、その部分を見逃してしまうと言うのが、勿体ないと思う点なのです。

『資本論』の全巻を通して重要だと思った点は、資本主義社会のメカニズムというのは、昔から資本家や地主らのようなお金持ち(=ブルジョワジー)が有利に稼ぐことができるシステムであり、そのためにお金持ちはずっとお金持ちの地位に固定され、労働者はずっと労働者の地位に固定されてしまうというところでした。

 昔キリスト教では高利貸しが禁止されていましたが、それは「汗水たらして働いてもいないのに、貧者の弱みに付け込んで利子でお金を稼ぐ」というのが道徳的に良くないという考え方だったからだそうです。キリスト教徒ではないユダヤ教徒はその高利貸しをやっていたからキリスト教徒から嫌われていたとも言われているくらいです。
 それと同じように資本主義社会の資本家や地主も同じく「汗水たらして働いていない」のに自動的にお金を稼いでいるわけです。

 古典派経済学では「資本が利子を生む」や「土地が地代を生む」といった言い方があるので、いつのまにか「資本は自動的に価値を増やす」かのように思えてしまいますが、マルクスは「そう思えてしまうのは資本主義の魔術である」と批判したうえで、そうではなくて結局は労働者が働かなければ価値は生まれないと言っています。

 資本や土地は「存在するだけ」では決して価値を生まず、価値を生むのは労働者が働くことで初めて価値というのが発生する。
 マルクスから言わせれば、資本家や地主は労働者が生んだ価値を自分たちにも配分しているだけで、直接生産過程には関与していない。
 なのに資本や土地そのものが価値を生んでいるかのように見えてしまう。
 マルクスから言わせると、資本家や地主は、労働者が汗水流して働いて生み出した価値を、かすめ取っていると考えた訳です。

 ここで重要なのは、資本や土地が本当に価値を生むかどうかという議論よりも、そういう「投資の配当」や「高利貸しの利子」や「土地を貸して地代を得るやり方」などの、資本主義に特有の稼ぎ方というのは、貧しい人たちであり「持たざる人々」は参加できない稼ぎ方だという点にあると思います。

 資本主義にはそういう、お金持ちだからこそ稼げるやり方が多くある。

 そういう「お金持ちしか参加できない稼ぎ方」があることこそが、お金持ち(=ブルジョワジー)の地位を安定的なものにしていて、労働者が労働者の地位に固定されてなかなか抜け出せないという「階級」をハッキリと分ける事につながる。
 そういったお金持ちと労働者との条件の差が、「階級間闘争」の土台を作っている……という、そういう資本主義システムの不公平な点を批判するのが、マルクスの意図の一つと言ってよいかと思います。

 資本主義のシステムだけでは、この社会でお金持ちに対して労働者は圧倒的に不利な立場になってしまう。
 だからこそ民主主義が労働者の意見を吸い取って、最低賃金法や労働基準法や累進課税など、労働者を保護する法律を作ってバランスを取って来た。
 だから、もし政府がお金持ちの味方になってしまったら、本来の資本主義のシステムがむき出しになって、弱い立場の労働者はたいへん苦しくなってしまうことになるのです。

『資本論』は1巻目の重要なキーワードである「搾取構造」だけではなく、そういう資本主義社会の様々な問題点を扱っているという点で、2巻と3巻ももっと読まれて良い内容を持っていると思います。
 そして、百年以上も前からこういう資本主義への問題点を警告していたという点でも、マルクスの『資本論』は現代でも十分に再読される価値のある本ではないかと思いました。


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