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爛漫2の3 織末彬義【創作BL小説・18禁】

※まだ加筆修正中です。それもお楽しみ戴けるとうれしいです。

第十八章
 
 クリスマス翌日、まだ帰省時期ではないが、師走とも言われる年末の繁茂期だ。地方に向かい渋滞に巻き込まれても困る。
 近場と考え、スカイツリーに水族館が併設されているから、そちらへ向かうことにする。
 動画で見せたようなショーはなかったが、蓮司は気にする風もなく、晃と一緒という初めての経験にご機嫌だった。
 晃のそばに双子がいる。
 それは宝来には考えられない不思議な風景だ。
 事故前の晃は問いただせば、否定をするが。
 態度は怜悧な氷のようで双子を決して受け入れようとしない。
 言葉で反論してくれれば、話し合いのしようも、元からこんな選択もしなかったかもしれないが…。
 双子が誕生して、彼らが晃に心底怯えてしまう心身の疵を負わせてしまって祖父母に預けるしかなかった。
 宝来に晃と離れるという気持ちが微塵もない。
 宝来の母が嫁ぐ前の故郷に戻りたい気持ちがあったのも手伝い、祖父母と双子は九州へと移り住んだ。

 一棟八軒。宝来家の1棟の目の前にある家で数か月差で同学年の晃は産まれた。
 母同士が同じ年の子がいる者として、初めてのお産に向けて、一緒の行動をしており、宝来の記憶には、いつも晃が居る。
 宝来にとっては晃が一番であり、揺るぎない。
 晃を中心にしてしか思考が巡らない。
 双子が生まれ、親としての責任もあり、晃の行動態度に思うところがあっても、晃を強引に自身の者にしたことも現実であり、宝来は乖離して行く心を理性で捻じ伏せてもいた。
 あのまま時が過ぎてゆくのは考えたくない。
 目の前で懐く我が子に微笑む晃に息苦しくなる愛が燃え盛る。
「晃、ここでティータイムにするか、フルーツタルトの店があるんだが」
 店の画像を見せると、瞳が釘付けになる。
 子供達はソフトクリームも食べたそうにしているから、ケーキ屋に行くからと1つを半分づつにさせる。
 覇彦と蓮司は慣れていた。
 覇彦が持っていて、横からぺろりと蓮司が舐める。
「ママにもあーん」
 蓮司が最初のてっぺんをスプーンですくい晃に差し出した。
 スプーンを欲しがった蓮司がしたいことがそれだとは思ってなかった晃は驚いた表情を浮かべる。
 蓮司の好意に晃の唇が笑む。
 唇を開く。
 綺麗な歯列と花色の唇に宝来は目を奪われる。
 晃と蓮司は無邪気にソフトクリームのあげっこをしていた。
「ん、美味しい」
 晃は自然な動作で二人の髪を撫でた。
「うまかあぁぁ」
 二口、晃に食べて貰った後で蓮司が舐める。
「美味しい」
 その後で覇彦がソフトクリームを口にする。
 後は二人で交互に楽しそうに食べている。
 
 水族館を出て、フルーツタルト店でタルトを食べ、まだ時間があるから、後楽園へ移動する。
 
 ジェットコースターなどの絶叫系が苦手な晃は難色を示すが、まだ時間があり、宝来に子供向けの乗り物もあるからと説明され渋々ついてきた。
 トロッコ列車を筆頭に、派手な絶叫系ほど話題にならないが、ふんわり、ほんわかとした乗り物も一杯あり家族で楽しめた。
 冬なのに水系のアトラクションもあり、果敢に立ち向かう双子は思ったよりもびしょ濡れになった。
「こんなに濡れて、売店にバスタオルあるかな」
 晃が子連れ必須アイテムのタオルで蓮司の頭を拭く。
「こうなったらあちらへ行こう」
 宝来が道路を挟んだ向こうを指さした。
「あ」
 宝来の指さす先にある看板を目にし、晃は大きく頷いた。
 隣に温泉施設があるのは好都合だ。
 売店で売っていたハーフケットを頭からかぶせた双子を連れて、温泉施設へ急いで向かう。
 宝来は双子を連れ、スパゾーンへ直行する。
 予定外の温泉施設に晃は手前にあるゆったりしたソファ席へ向かう。
 双子は晃に手を振り、父親の後を追う。
 父親よりも、晃ママが体力がないのをこれまでで体感していた。
 自然とわかれて、温まりに行く。
 動いているから、冷え切ってはいないが、それでも寒風が身に染みる濡れ方をしていた。
 
 晃はホットティーを注文して、着信がある弟からの連絡を確認する。
 クリスマスから正月まで、双子を迎えている間は、椿達と過ごす予定だ。
 晃にとっては何もかもが初めてのイベントだ。
 足を伸ばせるソファは居心地がいい。
 全身を預けてリラックスする。
 
 昼前からずっと子供達と遊び回って晃は思ったよりも疲れていた。
 うとうとと微睡(まどろ)む。
 
 覇彦と蓮司はロッカールームで急いで濡れた服を脱いだ。
「寒っ」
 足踏みして、急いで大浴場へ向かう。
 祖母と温泉に行っている二人は見回して、身体を流す場所に率先して向かう。
 宝来はゆったりと二人の後を追う。
 身体を流すと、大きな湯船につかった。
 温まってから露天風呂に向かう。
「わぁ、夕焼け綺麗と パパ ママ見てると?」
 蓮司が小首を傾げて問う。
 宝来の目からすると蓮司は逞の子供の頃に似ている。
 それでも晃と逞は兄弟で共通している面もあり、面差しは似ていた。
 宝来は蓮司の年頃の晃を思い出して心が自然と和む。甘い気分になる。
「どうかな、かなり歩いてるからな」
 迷わずソファへ向かった晃を思い宝来は優しく応える。
「休めてるといいな」
 覇彦がぽつりと言う。
 ちょっとした瞬間に晃が座っているのに覇彦は気づいていた。
「休めてるだろう」
 覇彦は父親を見上げて頷く。
「わぁヘリコプター」
 蓮司は近くを飛ぶ飛行物体に目を奪われた。
「パパ あれは」
「それは星だな」
 蓮司が指さす光に宝来は答える。
 宝来は夜空で教えられる星と星座の名前を教える。
 双子は素直に聴くが、覇彦の方が僅かだが、視力が悪いようだ。
 宝来はそれに気づいて、あれこれ質問し、メガネが必要なほどではないと判断する。
 全身を温まって、蓮司が行きたがったのでサウナを試して、洗ってから、再度、お湯につかってからあがる。
 タオルケットと一緒に購入していた服に着替えて、ラウンジへ戻る。
 晃は彼らと別れたところで待っていてくれた。
 見つけると嬉しくなり双子は走り出す。
「晃ママ寝とうと」
 小さい声だったが、蓮司の声に反応する。
 ゆっくりと晃は瞳を開く。
「お帰り」
「た ただいま ママ」
 蓮司が嬉しさに身をよじる。
 去年の今頃はこんなことになると夢にも思わなかった。
「お風呂すっご良かったと 今度 一緒ね」
 蓮司は晃の隣に座る。
 ふんわりと湯上りの良い香りがする。
「いい匂いだ」
「うん」
 蓮司は大きく頷く。
「覇彦も良い湯だった?」
「だった」
 晃に尋ねられて覇彦も湯上りの紅潮した頬で首をたてにする。
「伯彦(たかひこ)ありがとう お陰で休めた」
「まだ休むか?」
 宝来は晃の髪を優しく梳いた。
「ん、湯上りの飲み物を頼もう」
 晃は頷く。
 目覚めたばかりで、もう少しゆっくりしたい。
 宝来と覇彦もソファに座る。
 晃は椿達からの提案を宝来に話す。
 宝来にも異論はない。
 飲み物を飲みながら、しばしのんびりと過ごす。


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