『ますをらぶり?』第七回──女子高生、実朝を読む。

前回分は上のリンクからお読み頂けます。

「ユズコはだう思ふ、さつきの話は?」カップを置いてユイは聞いた。
「うーん。わたしはこの『日出処の天子』を読んでないし、さつきも言つたけど引用の部分も飛ばしちやつたから、あんまり云へないんだけど、ユイちやんとアオイちやんの言つたことは何となく分ると云ふか、いまパラパラ捲つたら。ほらこことかメツチヤ怖い顔して人間ぢやないみたいでせう?」
「あー厩戸王子が初めてちやんと登場する所ね。それとね……一寸貸して。」
 ユイはユズコの開いてゐたマンガをそのまま受け取つて頁を「えーとどこだつけ」と言ひながら繰つた。
「あ、ここなんか凄い魑魅魍魎が出て来るの。こことか深夜に厩戸王子が毛人(えみし)の所に一人で現るの。毛人が火桶を取りに行つて戻つて来ると消えてるんだけど、かう云ふ所が、かうなんて云ふか……さつきのユズコが言つたみたいに人間ぢやないみたいと云ふか。」
 ユイはユズコの方を向て掌をフルフル回しながら何と云はうか考へてゐる。その顔を笑顔で見ながら今度はユズコが話を引き取る。
「魔女つぽいつて云ふのか魔的と云ふのかな? とにかくさういふ存在としてウマヤドノオウジ? をこのマンガは描いてると思ふの。で、実朝なんだけど、この本の一五二頁に

そのやうな折にはお顔の色も蒼ざめ、おからだも透きとほるやうなこの世のお方ではない不思議な精霊を拝する思ひが致しまして、精霊が精霊を呼ぶとでも申すのでございませうか、御苦吟の将軍家のお目の前に、寒々した女がすつと夢のやうに立つて、私もそれはみました

 つて云ふことが書いてあるでせう。この辺りなんて正しく『日出処の天子』ぢやない?」
「本当だ確かに。つて云ふか『日出処の天子』の一巻にさう云ふシーンがあるよ。さつきの魑魅魍魎の所とか、毛人と一緒に襲はれるから実質『右大臣実朝』かも知れない。」
「うん、これは実質『右大臣実朝』だよ。」
「さうか山岸凉子は『右大臣実朝』を描いてゐたのね。」
 三人は口々に『右大臣実朝』=『日出処の天子』説を呟いて三人一緒に笑つた。

続きは下リンクにてお読み頂けます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?