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これからのオフィス、これからの職場環境(論理編)


情緒と論理

さて、前回は「これからのオフィスってこういうのがいいと思って設計・デザインをしたよ」という内容をお届けしました。

今回は、もうちょっと深く掘ってみる「論理編」という事で
「設計の最中でどんな検討をしていたのか」
であったり
「おりなす設計室だからできること」
などをまとめてみたいと思います。

完成時のプレスリリースでは
「環境配慮建築」
とご紹介頂きましたが、
「なにをもって環境配慮建築と言えるのか」
についても整理します。

意匠と性能のバランスは初手で決まっている

意匠(デザイン)については主に以下のような発想から形にしています。

企業の目指す世界を体現するデザイン
→ 港・航海 というキーワードから 波・堤防・波紋 などをモチーフとした意匠を落とし込む

地域に馴染むファサード(外観)
→ 周辺建物高さから突出せず、緩やかな波を表現する屋根
→ 明るさと柔らかさを持ち、時間と共に経年変化していく杉板張り
→ オフィス空間に求められる明るさ&落ち着きのバランスとパッシブデザインから導いた開口部

完成直後頃のファサード

「開口部(窓)」は、ファサードデザインはもちろんのこと、内と外を繋ぐ重要な要素。しかし、それだけで窓の位置・サイズを決め込んでしまった事で冷暖房エネルギーの負荷が過大になり、さらには温熱環境を整える事が困難になっている事例は数え切れません。

初期デザインの時点で意匠に加えて
「温熱環境とエネルギーに与える影響」
を考えておかないと、後からでは取り返しがつかないのです。

デザインを感性から論理へ

デザインに落とし込んだ後は次の検討を行い、まず感性で形にしたデザインの「環境」の精度を上げていきます。

1:日射取得シミュレーション

計画建物・敷地の3Dデータを作成、建築地の座標データを与える事で太陽の軌道をデータ上で再現し、実際の直射日光の入り方を確認。
太陽の軌道は自然環境の中でその動きが確定している数少ない要素。

2:室温変動シミュレーション

専用ソフトで計画と同様のモデルを作成、気候データなどの情報からどの程度の室温を維持できるのかなど、様々な方面からの室内環境を確認。
この画像では1月末、外気温が最も下がるシーズンでも「体感温度」で20℃付近を維持できるレベルである事を確認できる。

3:燃費性能シミュレーション

自動車の燃費性能などと同様に「建物の燃費性能(=一次エネルギー消費量)」を確認。
このシミュレーションでも気象データや標高、断熱パターンや日射影響など様々な要素から冷暖房エネルギーの需要を把握する事で、建物方位・軒出・断熱・開口部サイズなどを検討。

これらを設計と並行して進めることは決して楽ではありませんが、感性と論理の擦り合わせがなければ
「しっかり断熱したはずなのに暑い・寒い…、光熱費がかかる…」
という事態になりかねません。

様々なシミュレーションを重ねてデザインした結果、以下のような性能になりました。

年間冷暖房エネルギー需要
→暖房40kWh/m2(20℃)
→冷房25kWh/m2(27℃)

なんのこっちゃわかりませんよね。

参考までに、同規模で特に性能について考慮しない現代の一般的な仕様のオフィスが建った場合の数値を出してみました。

→暖房110kWh/m2(20℃)
→冷房50kWh/m2(27℃)


これはごく一般的な仕様のオフィスと比較して
床面積1㎡あたりの冷暖房エネルギーロスが1/2以下で済む設計
になっているということを意味しています。
これは数値を出してみないとわからず、仮に同じ仕様で作っても建築デザインが違えば全く異なる結果になります。

窓の向く方位が変われば燃費性能も変わる。

たかが数値、だがしかし

「たかが数値、建築の心地よさは数値で測れるものではない」
と建築家の多くは言います。わかります。
僕も数値至上主義ではありません。
でも思うわけです。

「確認する術があるなら、確認して精度高める方が良いよね」

そんな検討ができることを知らない建築家が全体の99%です(当社調べ)。数値を正しく理解し、それに振り回されないバランス感覚を持ち合わせる事が必要です。

「国の基準」と照らし合わせると…

住宅や非住宅のエネルギー性能基準を義務化する法律がどんどん変化しています。今回の計画はエネルギー性能の提出が義務化されている規模ではありませんでしたが、国の省エネ基準(BEI)にするとどれほどの性能になるのかを把握するために計算をしています。

基準値を1.0としたときに一次エネルギー消費量がいくつになるのかを算出するのですが、その結果が次の通りです。

1.0≧BEI(一次エネルギー消費量基準)>0.41(今回の計算結果)

今回の結果は
基準値から約60%も削減
したものとなりました。
国の基準はあくまで最低限守るべき基準。それをクリアするのは当然の事ですが、それを大きく上回るものとなったようです。

室内環境・エネルギー性能の「見える化」

「おりなす設計室」にできる事は、室内環境・エネルギー性能の「見える化」です。
「見える化」で日射取得・室温変動・燃費性能などを見える化する事で、感性的なデザインと論理的なデザインを織り成す設計を目指しました。

もちろん、シミュレーションの結果がすべてでは無く、その後の実際の室内環境の把握が重要です。
2月のお引渡しとなりましたが、冬場のオフィス環境には大変満足して頂けたようです。
同じく2月に私が参加した開所式では、来客の出入りのためテラスドアを常に開けていました。一般的には、このような状況では空調が追い付かないことが多く、温度ムラが激しいことが予想されます。
しかし、その際も内部の温度ムラは少なく快適な状況でした。

いつかどこかで「LCCO2編(仮)」

今回は、「論理編」として
「建築デザイン×エネルギー性能の裏付けとしてこんな事をしてるよ」
というのをご紹介しました。

実はご紹介した検討以外にも「建築環境総合性能評価システム」の検討を自主的に行っています(竣工後に測定等が必要な項目等もあるのであくまで検討レベルです)。

こちらでは「周辺環境・地球環境」などへの影響を把握できる以外に
「LCCO2(建設から居住、修繕、更新、解 体・処分までの住宅・建築の一生(ライフサイクル)における CO2 排出の総量)」を概算で把握する事も可能です。
日本でも、昨年からLCCO2に関する情報提供が少しずつ活発になっています。
今後改めてその方面に配慮した内容についてもご紹介したいと思います!

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