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断熱・気密だけではうまくいかない!

断熱も気密ももちろん大事ですが…

 家を建てる人の意識が少しずつ変わってきていると感じます。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えた事で「良好な室内環境を作るには断熱や気密が大事」だと知った人達が、SNS上の家づくり専用のアカウントで「断熱を大事にしたい」と投稿している様子も見かけるようになりました。しかもこれは関東や関西での話では無く、鹿児島在住の方のSNSの話です。

 ここで問題なのが、家づくりを手掛けるプロ側が「断熱性能の数値合戦」をやりかねない事です。断熱気密をする事はもちろん大事ですが、その効果を十分に発揮するためには、「プランニング(間取り)」が重要だという事はあまり理解されていません。その結果「断熱性能は良いはずなのに体感は思っていたほどではなかった…」というトラブルが起こります。


同じ床面積と断熱性能でもカタチ次第で結果が変わる

 ただ断熱性能を確認するだけでは意味がないので、精度の高いシミュレーションツールを使って失敗のない温熱環境を作る準備をする事は住宅の設計においてとても大切です。

下図のようなサンプルでシミュレーションしてみます。

プランA

スクリーンショット (85)

プランB

スクリーンショット (84)

プランC

スクリーンショット (83)

 プランA~Cは全て同じ床面積と同じ断熱仕様です。その条件で断熱性能を比較してみると下記のようになります。※数値が小さい程性能が良い

プランA Ua値=0.45(W/㎡K)

プランB Ua値=0.52(W/㎡K)

プランC Ua値=0.44(W/㎡K)

 断熱性能(Ua値)で見るとプランCが一番良い結果となりました。プランBは開口部(窓)が多いのでその分の熱の出入りが大きくなるため断熱性能が下がるのはイメージしやすいと思います。
(ちなみにプランAとCは各方位の開口部の数・サイズが同じです)

 では、プランCが一番性能の優れた暮らしやすい家なのでしょうか??

「熱損失量」という「建物全体で熱が出ていく量」を示す数値で比較してみます。これはUa値を計算する上でも使用する数値ですが、下記のような結果になります。※数値が小さい程性能が良い

プランA 111.40(W/K)

プランB 128.50(W/K)

プランC 122.40(W/K)

 「プランBが一番性能が良くない」という結果は変わりません。しかしプランAとCの比較結果が大きく変わっています。熱の損失について注目すると、プランCはAに劣る上に開口部をたくさん設けたプランB寄りの結果だとわかります。
 これはUa値の計算の仕組みが原因で、Ua値を過信してはならない理由でもあります。

 これらの結果から言えるのは「シンプルな形状で無駄な開口部が無い住まい」が一番良い性能を発揮するという事です。その方が建築費用も抑えられる上に構造的にも安定するので様々な利点があります。
 「太陽の動きや周辺環境を考えながら開くべき場所に絞って開口部を開く」のが理想ですが、そういった家が意外と少ないのは問題ですね。


Ua値だけを比較しても「良い家」は得られない

 以上が、断熱性能を発揮させるにはプランニングも大事!というお話でした。窓の配置や建物の形状、日射をどのように取り入れてどのように遮るのか。この辺りを上手く工夫できれば、より断熱・気密が意味のあるものになってきます。

 断熱性能の良さにばかり気を取られずに、これからの暮らしや敷地の特性と照らし合わせながら、性能を活かして長く住まえる家づくりを目指していきましょう。

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