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短編小説『コレジャナイ異世界チート』

 ──あー、これは異世界転生ってヤツですわ。

「勇者として魔王を討伐し、世界を救ってもらいたいのじゃ」

 うん、テンプレっすね。

「おヌシには好きなアイテムをひとつだけ授ける」

 好きなアイテム? どんなものでもいいのか?

「うむ。どんなアイテムを望むのじゃ?」

 うーん。悩むなぁ。

「ほらほら、はようせい」

 急かすなって。えーと、どんなチートアイテムなら役立つんだ?

「残り、いっぷんー」

 おいおい。制限時間なんてあるのかよ。

「残り、さんじゅうびょー」

 わ、わかった。それなら、『どんなものでも破壊できる武器』をくれ。

「どんなものでも、じゃと?」

 ああ。魔王っていったら、やたらと体力も防御力もあって、ちっとも倒れないってのがお約束だからな。

「では、コレを授けよう」

 それは・・・ハンマーか?

「うむ。いかにもな感じじゃろ」

 ゴツすぎて見た目は正直好みじゃないが、わがまま言っても仕方ないか。

「では、おヌシと一緒にこのハンマーも転送しておこう。よろしく頼むぞ、勇者よ」

 お任せくださいな、っと。

***

「勇者よ。よくぞ世界を救ってくれた」

 ・・・ああ。

「授けた武器も、大活躍だったじゃろう?」

 ・・・まあ、な。

「ん? 何か言いたいことでもあるのかの?」

 ・・・当たり前だろ。

「遠慮せんでよい。なんでも言ってみるがよい」

 ・・・・・・あのハンマー、重すぎだろっ?!

「うむ」

 うむ、じゃねえよ。

「どんなものでも破壊できる武器じゃからな。相応の素材が求められるのは当然じゃろ」

 最初に転送された場所から、1ミリも動かせなかったんだが?

「でも、結局は使いこなせるようになったんじゃろ?」

 めちゃくちゃ体を鍛えまくって、ようやくな。

「レベルも上がって、一石二鳥じゃな」

 鍛えすぎたせいで、素手で魔王倒しちまったんだが?

「あのハンマーは、世界の常識をも破壊してしまったというわけじゃな」

 うるせぇよ。・・・で?

「で? とは?」

 アンタの指示通り世界を救った途端、なんで俺はまたここに飛ばされたんだ?

「うむ。見事世界を救ったおヌシに、今度は別の世界も救ってもらおうと思ってな」

 は? 別の世界?

「魔王の脅威に晒されている異世界は、まだまだあるのでな」

 それで、また俺に勇者をやれと?

「その通りじゃ」

 まあ、いいけどよ。今の俺なら楽勝だし。

「ちなみに、理が違う世界じゃから、前の世界で鍛えたぶんはすべてリセットされるぞ」

 はぁ?! マジかよ!

「代わりといってはなんじゃが、おヌシには新たに望みのアイテムを授けようと思う」

 ・・・こういうパターン、ね。

「残り、いっぷーん」

 ちょ、また制限時間ありかよ。

「残り、さんじゅうびょー」

 よ、よし。『絶対に破壊できない防具』をくれ。

「武器はもういいのかの?」

 前の世界でどれだけ体を鍛えても、痛みはそのままだったからな。今度は、どんな攻撃でもビクともしない頑丈な防具が欲しい。

「では、コレを授けよう」

 全身鎧か。見るからに頑丈そうだな。

「うむ。髪の毛一本すら通さない、完璧なつくりになっておる」

 ・・・また、重すぎるなんてことはないだろうな?

「問題ない。まるで羽毛のように軽くしておいたぞ」

 できるなら、最初の武器のときにやっておいてくれよ。

「言われなかったからのう」

 言わなくても、それくらいわかるだろうに。

「口にせずとも気持ちが伝わるなんて夢物語じゃぞ。おヌシ、意外とロマンチックじゃのう」

 うるせぇよ。コレ、どうやって着るんだ?

「おヌシを新たな世界に転送する際に、一緒に装着させておいてやる。それでは頼んだぞ、勇者よ」

 まったく、人使いの荒い神サマだこって。

***

「勇者よ、よくぞ世界を──」

 おい。

「なんじゃ。人の話は最後まで聞かんか」

 なんだよ、アレ。

「アレ、とは?」

 あの全身鎧だよ。

「頑丈だったじゃろう?」

 ああ。ビクともしなかったよ。

「何が不満なのじゃ?」

 ・・・頑丈すぎて、体がまったく動かせなかったんだが!?

「あー」

 あー、じゃねぇよ。

「スマン」

 体は動かないわ、フルフェイスで外の様子がまったく見えないわ聞こえないわで、マジ恐怖だったんだが?

「だから、スマンって」

 なんであんな構造にしたんだよ。

「可動部分や継ぎ目なんて作ったら、そこから脆くなるのが常じゃからな」

 そこはさぁ、神サマ的な力でなんとかしてくれよ。

「言われなかったからのう」

 ・・・指示待ち体質の神サマって、うぜぇわー。

「しかし、そんな状態でよく世界を救えたのう」

 魔法を徹底的に覚えまくったからな。

「魔法とな?」

 攻撃魔法はもちろん、感知魔法や浮遊魔法なんかを駆使してようやく戦えるようになったんだよ。

「うむ、見事じゃ」

 真っ先に覚えたのは転移魔法だけどな。

「あれほど難しい魔法を、よくもそう短時間で習得できたもんじゃ」

・・・あのままじゃ便所にも行けなかったんだよ。

「そりゃ必死にもなるわい」

 人間って、いざというときは何でもできるんだな。マジでギリギリだったが。

「頑丈な鎧の中で、おヌシの膀胱が破壊されずに済んでよかったのう」

 うるせぇよ。・・・で、ここに来たってことは、また別の世界を救えと?

「その通りじゃ」

 いつになったら解放してもらえるんだよ。

「申し訳ないが、代わりが出てくるまでは頑張ってもらうしかないのう」

 代わり? ちゃんと探してるのかよ。

「有力な候補は一人いるんじゃがな。いろいろと条件があるんじゃよ」

 なるべく早いとこ頼むぜ。

「うむ。ワシも望むところじゃ。それで、今回のアイテムはどうするかの?」

 ・・・もう、装備はやめた。今度は『好きな場所に一瞬で移動できるアイテム』をくれ。

「変化球で来たのう」

 転移魔法も長距離は無理だったからな。

「なるほど、つまりコレの出番じゃな」

 これって、どこでもド・・・。

「それ以上はいけない」

 あ、ハイ。

「その様子じゃと使い方もわかっておるようじゃな。では、頼んだぞ勇者よ」

 はいはい。

「ハイは一回」

 あ、ハイ。

***

 ・・・考えが甘かったよ。

「どうしたんじゃ?」

 ど◯でもドアって、四◯元ポケットを持ってることが前提なんだな。

「馬鹿でかいドアを持ち歩くやつなどおらんからの」

 結局、実家にずっと置きっぱなしだったわ。

「アイテムボックスを使えばよかったのにのう」

 あの世界にそんなモノないことくらい、アンタならわかってるだろ。

「うむ。言ってみただけじゃ」

 ・・・・むかつくわー。

「自分の部屋から好きなところに行けるんじゃから、それはそれで便利だったじゃろ?」

 繋げっぱなしにしとくと、知らないヤツとか魔物が勝手に実家に突入するんで、超短時間しか使えなかったけどな。

「それは大変じゃったな」

 行ったことがない場所には繋げない仕様なのも、アンタ言わなかっただろ。

「聞かれなかったからのう」

 必死の思いで敵地に潜入してからすぐに実家に帰って、準備万端で短時間突入して撃破、がルーティンになってたわ。

「勇者というよりも、暗殺者じゃな」

 うるせぇよ。んで、次のアイテムだけどな。

「こっちもルーティン化しとるのう」

 いちいち同じやりとりも面倒なんでな。今度は、『時間が戻せるアイテム』をくれ。

「ふむ。時間操作系は定番じゃな」

 何度か暗殺でヘマこいて大変な目に遭ったからな。

「自分でも『暗殺』とか言っておるし」

 あ、アイテムは懐中時計か腕時計くらい小型のものにしてくれよ。

「注文が多いのう」

 アンタが細かく言わないと酷いもんばっか出してくるからだろうが。

「ほら、これでいいじゃろ。竜頭を押せば24時間戻せるようになっとる」

 戻せる時間は固定か。文字盤の数字はなんだ?

「使用回数に制限があるのじゃ。あまり使いすぎるでないぞ」

 999回もあれば充分だろ。

「では、頼んだぞ勇者よ」

 はいよ。

***

「なんとなくこうなる気はしとった」

 ・・・うるせぇよ。また欠陥アイテムをよこしやがったくせに。

「ちゃんと24時間ぴったり戻っておったじゃろ」

 ああ。すべて元通りだったさ。たぶんな。

「何が不満なんじゃ?」

 いやいや。俺の記憶も24時間前にリセットされるとか、聞いてなかったんだが?

「時間を戻せば、そうなるのが必然じゃろ?」

 おかげで何度も同じ失敗を繰り返す羽目になったんだが。

「使用回数が減ってるのはわかるんじゃから、24時間後に何かが起こることは察せるじゃろうに」

 そのことに気づくまでに100回分くらい無駄打ちしたけどな。

「察しが悪いのう」

 うるせぇよ。それに、何が起こるかわかないのも、それはそれで恐怖モンだぞ。

「うむ、確かにの」

 原因もわからないから、時計の使用回数が減ってるのを見つけるたびに、その後の予定をすべて変更するしかなかったんだが。

「そうなるのう」

 行動を変えてもそこそこトラブルが起こるわりに、どんどん魔王への道のりばかり遠ざかっていったよ。

「慎重すぎるのも考えもんじゃのう」

 結局、命の危険でもない限り時計を使わないようになって、ようやくまともな旅ができるようになったが。

「逃げてばかりじゃ何も解決せんからの」

 人生、何が起こるかわからないなんて、考えてみれば当たり前のことだからな。旅にトラブルはつきものだし。

「悟ったの」

 うるせぇよ。そういえば、代わりのヤツってのは、まだ無理そうなのか?

「うむ。あとひと押しといった感じなのじゃが」

 いい加減、勇者稼業もうんざりなんだが。

「もう少しの辛抱じゃ」

 ・・・はぁ。それじゃ今度のアイテムだけどな。

「ずいぶんと自信ありげな顔じゃのう」

 ああ。今回は旅の間ずっと考えていたからな。

「そんなことを考えているから、ピンチになりやすかったのではないかの?」

 うるせぇよ。まあ、おかげでとっておきのアイテムを思いついたぜ。

「なんじゃ?」

 ──『自分の好きなアイテムを作れるアイテム』だ!

「・・・」

 ん? さすがに無理なのか?

「いいや、問題ないわい」

 なんだよ、その気味悪い笑顔は。

「──その言葉を待っておった」

 は?

「ほら、コレがそうじゃ」

 いやいや、それはアンタの杖だろ?

「たった今から、コレはおヌシのもんじゃ」

 え?

「いやー、さすがのワシも限界じゃったからの」

 どういうことだ?

「いつまで経っても魔王の数は減らぬし、おヌシの旅を見るだけの生活にも飽き飽きしとったのじゃ。ここには他に娯楽なんぞまったくないからのう」

 いや、何を言って・・・。

「これまでの勇者は、このやり方をすれば大抵すぐに死ぬか、世界を救う前に寿命で亡くなったと聞いておったんじゃがの。かくいうワシも、そのペナルティでこの場におるクチじゃし」

 何の話だ?

「おヌシときたら、どんなクソアイテムでも何だかんだで使いこなしてみせるもんじゃからのう。いやいや、これでも褒めとるんじゃよ」

 苦虫を噛み潰したような顔で言われても、説得力がないんだが。

「おヌシも勇者役に辟易しておったようじゃし、Win-Winじゃな」

 ・・・まさか、お前。

「そもそも交代の条件が厳しすぎなんじゃよ。まあ、そんなストレスともこれでおサラバじゃが」

 代わりって、勇者のことじゃなくて・・・。

「新しい勇者は自動的にやってくる手筈になっておる。安心するがよい」

 ちょ、待て──、

「では、頼んだぞ。勇者──いや、新たな神よ」

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