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「勉強するのは何のため?」オンライン対談 〜苫野一徳さん×蓑手章吾さん〜

こちらの記事は、1月30日に実施された蓑手章吾さんと苫野一徳さんによる「勉強するのはなんのため?」対談イベントのレポート記事です。

お二人の出会いは2016年に開催された連続講座「教師の学校」。蓑手さんは苫野さんの著書から学んだことを実践しており、苫野さんは蓑手さんの実践話から気づきを得ていたとのことで、講座後の飲み会では毎回終電を逃すほど熱く語り合っていたこともあるそうです。

対談は、そんな出会いのエピソードから始まり、蓑手さんが学校現場での実践をベースに問いを立て、それに対して苫野さんが偉大な哲学者たちの言葉を用いながらご自身の見解を回答される、という形で進みます。

「幸福とはなにか?」「人は何のために学ぶのか?」など教育の本質に迫る問いに対して、お二人の回答がとても力強く、今まで抱いていたモヤモヤがワクワクに変わるような興奮を覚えました。


この記事では、印象的だった3つのテーマを切り口に対談内容をご紹介します。

※記事の最後にイベント動画のリンクと、寺中有希さんのグラレコを掲載しております。ぜひ最後までご一読ください。

1.特別支援学級で気づいた人間の本質的欲求

蓑手さんは特別支援学校に異動直後、好きな先生のことを思いっきりつねったり、自分を噛んだりする子を見て、大変衝撃を受けたそうです。

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蓑手さんはそんな子どもたちの様子を観察し続けて、2つの気づきを得ます。

人は世界に対して、より大きなインパクトを示したい存在なんだ
 人は他者とコミュニケーションをとりたくてたまらない存在なんだ

人間にはこのような欲求があり、人の幸せにつながっているのではないか?と苫野さんに問いを投げかけます。

苫野さんは、ヘーゲルの言葉を用いながら次のような見解を示しました。

苫野:(ヘーゲル曰く)”人間は自由に生きたい欲望を持っており、その欲望は原初的には承認欲望という形をとる。”蓑手さんがあげた事例は自由への欲望と承認欲望の原初的な現れ方なのかなと思った。
承認欲望というとおどろおどろしい言葉だが、蓑手さんのような言葉だと温かく見られる。

また苫野さんは蓑手さんの子どもの行動の捉え方を、マリア・モンテッソーリの子どもたちの問題行動に対する考え方と似ている部分があると紹介しました。

苫野:子どもたちの問題行動は、子どもなりに知ってほしいことや困っていることを大人たちに精一杯表現している。そのサインを見逃さないことが大事だよ、とモンテッソーリは言っていて、蓑手さんの子どもたちへの目の向け方はまさにこのようなところがあると思います。

蓑手さんは「特別支援にいってからオルタナティブや海外の教育に目がいくようになり、かなり教育観に影響を与えられた」と特別支援学校での経験が与えたご自身への影響の大きさを語り、次の問いへとつなぎます。

2.人はなんのために学ぶのか

パターン通りの1日が送れないとパニックになる子や、毎日同じYouTubeを見続ける子の様子を見ていて、蓑手さんは次のような疑問を感じたそうです。

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「幸せって楽なほうにいくことだろうか?人はなんのために学ぶの?」

この疑問に対し蓑手さんは、次のような子どもの変化を目の当たりにする中で「人は手段としてではなく、成長そのものを目的化できる存在なんだ。それ自体が喜びなんだ」という考えを得たといいます。

蓑手:机の上に教材を置くとなぎ払っていた子が、「わかる」「できる」と感じられる教材に変えたらなぎ払わなくなった
蓑手:これまで物を壊す・ひっかくという行動をしていた子どもが、これまでできなかったことをできるようになると、周囲の大人が喜んでくれるとわかると、物を壊したりしなくなった

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このエピソードに対し、苫野さんは「ジョン・デューイが生涯をかけてつかんだことを、蓑手さんは実践の中からつかまれた」と話し、デューイの言葉を用いながら、「教育の目的」に対するご自身の見解を示します。

苫野:デューイの教育の定義は、経験の再構成、成長それ自体なんですよね。私の言い方だと「自由になる」ってことです。成長するというのは、今までできなかったことができるようになる、苦しかったことが苦しくなくなるということで、自由を得られるということ。だから「どうしたらより子どもたちが自由になれるのか」を念頭に置きたいと思うんですよね。

苫野さんのお話を受け、蓑手さんは子どもたちに思ってほしい幸福観について、図を用いて紹介されました。

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3.比較と幸せの関係

特別支援学校での実践で感じたことのまとめとして、特別支援学級の子が幸せになれないと考えるのは違うと感じ、「幸福とは他者と比べて得られるものではないのでは?」と苫野さんに問いかけます。

そして、現在の教育に対し、「同じ学年の子を集めて、比較の方向にもってかせてしまっている部分がある」と指摘します。

苫野さんもうなずき、「学校教育では、価値承認で判断されるようになってしまっている」「存在承認から始めないといけない」と語ります。

苫野:学校教育に入った瞬間に、存在承認というより、できるかできないかという価値承認のほうで判断されるようになっている。こういう中にいたら幸せだと感じにくいし、自分のことを認められるようになりにくい。「あなたはOK、それでOK」という存在承認のところから始めていかなければ。

苫野さんは続けて、蓑手さんの自由進度学習の実践を、「あなたのペースでOK、あなたのやりかたでOK、あなたはOKというメッセージである点がよいですね」と紹介しました。

蓑手さんは自由進度学習の実践から「比べようがないような状態にすれば、子どもたちは自分たちの学びたいことを学んでいける」という実感を得たといいます。

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苫野さんは蓑手さんの話に深くうなずいていました。

4.動画のご紹介

この記事では、イベントの一部をご紹介させていただきました。イベントにご興味持たれた方は、お二人のリアルなやり取りを下記の動画からご視聴いただけます。

※動画が視聴できない場合はこちらから
https://youtu.be/cN5Piucp4SI

5.グラフィックレコーディングのご紹介

イベントに参加いただいた寺中有希さんが、こんな素敵なグラレコを書いてくれました。ご本人の許可をいただいて、こちらの記事にも掲載させていただきます。今回の対談のエッセンスをざっと見直したい時などに、ぜひお役立てください。

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本文 written by みやば


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