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『彼女の行方』【第2話】

「スタート」

窓の外を眺めながら、彼女とのことをぼんやりと思い出していた。

奈緒は結婚後しばらく旦那の実家にいたが、居心地が悪かったようで、家をでて大阪で一人暮らしをしていると言っていた。

別居の理由は深く聞いてみたことがなかった。

大阪駅に着くと奈緒の旦那さんが迎えに来てくれていて、そのまま車に乗り込み彼女のマンションに向かう。

車中で簡単に状況を話してくれた。

奈緒は精神的に不安定な状態になることがあったので、大阪に移る時に毎日連絡を取り合う約束をしていた。

2日間連絡が取れず、心配になって来てみたら、携帯を置いて奈緒がいなくなっていた。
事件に巻き込まれたか、事故にあったのではないかとすぐ警察に届けた。

今日はたまたま、奈緒が戻っていないか確認の為マンションに来ていたということだった。

「ここが奈緒の部屋です。」

ドアを開けると彼女らしい空間が広がっていた。

ペールトーンの華奢な家具に淡い色のレースやフリル、棚にはテディベアやアンティークドールが飾られている。

まさに彼女の要塞だった。

「警察には旅行に行ったのではないか、と言われたんですが、携帯を置いて出かけるとは思えなくて・・・」

「そうですよね。海外旅行という可能性はないんでしょうか。」

「パスポートは残されていますので、それはないと思います。もういなくなってから2週間経っていますしね。
念の為近所に住む、野本さんにも聞いてみたのですが、行き先に心当たりがないと言っていました。」

「野本さんというのは?」

「あ、奈緒が親しくしていた高橋さんの事務所の方です。」

「会ってお話しを伺うことは可能でしょうか?」

「はい、連絡をしておきましたので、後ほどご案内します。」

「ありがとうございます。」

約束の場所はホテルのラウンジだった。
旦那さんは戻らなければいけないので、とその場を立ち去った。

仕事と介護のためあまりこちらに来れないので、奈緒の携帯を持ち歩いているということだった。

去っていく後ろ姿が少し疲れているように見えた。

野本春美は、ショートカットでパンツスーツの似合うスラッとした女性で、あたりを見渡している蓮を見つけると手を振って来た。

「はじめまして、藤咲と言います。突然押し掛けてすみません。」

「いえ。たぶん来ると思ってた。」

「えっ?」

「奈緒ちゃんからの預かり物があって・・・
私のところに訪ねてきたら渡してほしいって頼まれていたのよ。」

「そうなんですか」

「はい、これ。」

と紙袋を手渡された。
中身を確認すると、蓮と付き合っていた頃の写真とパズルが1ピース入っていた。

「これは何ですか?」

パズルのピースは、写真を元に作られたみたいで、裏に『スタート』と書かれていた。

少し丸みの帯びた奈緒の字だった。

「さあ・・・私は紙袋を預かっただけだから。写真は見せてもらったことあったけど。」

なるほど。ロビーに入って来た蓮にすぐ気付いた理由がわかった。

「ところで、奈緒がいなくなった理由に心当たりはありませんか?」

「そこが分からないのよね。
誠さんともうまくいってたみたいだし・・・別居婚だから自由にやってたわけでしょ。
不満があるようには見えなかったわよ。」

「俳優さんの事務所の方でトラブルに巻き込まれた。という可能性はないですかね?」

「奈緒ちゃんの性格だからないと思うわよ。」

「そうですか・・・」

「会ってあげればいいのに・・・」

「えっ?」

「奈緒ちゃん、貴方にはどうしても会いたいって言ってたから・・・
別れてから一度も会っていないんでしょ。」

「・・・・・」

「まぁ、会うのを躊躇するのはわかる気もするけど・・・」

どうやら奈緒と別れた理由も知っているようだった。
荷物は今年の春頃、奈緒から蓮が受け取りに来たら渡してほしい、と依頼され預かったとのことだった。

携帯を置いたまま行方知らずと聞いて
最初は事件・事故に巻き込まれた可能性以外に、旦那さんが関係しているのではないか。

などとも思っていたが思い過ごしだろうか。

奈緒に不満がなかったとしても
旦那さんも同様に不満がなかったとは限らない。

そもそも、何かあったから家を出たのではなかったのか・・・
理由もなく奈緒が家を出たとは思えなかった。

ただ、失踪に関わっているのなら携帯は隠しておいて、持っていなくなったと言った方がスマートだろう。

奈緒の行方は相変わらずわからなかったが、
彼女は自分の意思で姿を消したのだろうか。

携帯を置いていったのには何か意味があるのか。
すぐに見つからないようにしているのか。

そのあたりがよくわからなかった。

不透明な点が多い中
蓮は写真とパズルの1ピースを受け取り大阪を後にした。

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