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カメムシさんのはなし



「おりちゃ、ヘルプ、ヘーールプ!!」

玄関先から大きな声が聞こえる。普段、いばりんぼの主人が、時々こうしてわたしに助けを求める。

いつもは「おい」って言うのに、こういう時だけ名前を呼ぶんだ。ああ、今日はなんだろう。

「掃除機持ってきて!!!」

夕飯の支度を中断し、コードレス掃除機を持って隣接する主人の事務所へと移動する。

「早く、早く!」そう言って、主人は掃除機をわたしから奪い、スイッチを入れる。

主人は天井を見上げていた。その視線の先。そこには、一匹の虫がいた。

綺麗な緑色をした、カメムシ。

えっ、ちょっとまって、カメムシを吸うの、、、?掃除機の紙パックを片付けるの、いやだよ・・・と、言葉が喉元まで出掛かったが、ぐっと我慢する。ここは言うことを聞いておこう。

(※ちなみに、カメムシを掃除機で吸うのはおすすめしません。掃除機の排気口に臭いが残ると思います。おそろしや‥)

主人には、どうしても苦手なものがある。それは、虫。虫全般に弱いのだ。

梅雨の時期、玄関にムカデが入り込んだ時には早く逃せと大騒ぎした。網戸にカゲロウがついているだけでびくっとする。それに、車の中に大きなアリが入りこんだ時はそわそわ落ち着かない。

わたらせ渓谷鉄道に乗った時なんて、せっかくのダイナミックな景色よりも、主人がひたすらハチから逃げ回っていた事しか思い出せない。バーベキューもキャンプもきらい。とにかく虫がだめなひとだ。

わたしも虫は得意ではないけれど、種類によってはなんとか捕まえて外に出すくらいはできる。だから、虫の捕獲はわたしの係。でも今回は、なぜか自ら掃除機で捕まえるらしい。

携帯用のコンパクトな掃除機は、充電が切れそうなのかパワーが弱い。時間がかかりながらも、なんとかカメムシは掃除機の中に入ってくれた。カメムシさん、ごめんね。

「掃除機から出てくるかもしれないから、ティッシュを吸ってふたしておこう。ティッシュ持ってきて!」

「わかった」

わたしはティッシュを3枚ほど持ってきて、一枚ずつ軽く丸めて床へ落とす。

ぽとん、しゅぽ!(吸った音)

「もう一個!」

ぽとん、しゅぽ!

「よし、これで大丈夫だろ」満足そうな主人。

だいじょうぶ、なのか・・・?わたしは「そうだね。」とだけ返した。明日にでも紙パックの交換をしないと。想像しただけで気が重い。


次の日。

胡蝶蘭のお手入れをしようと、鉢を明るい窓際へ移動した。わたしは、白い花がすっかり落ちたカーブを描いた枝と、それを支えていた柱をハサミでパチン、パチンと外す。

すると、枝に何か付いている。

ん?

綺麗な緑色をした、カメムシだった。

たしか胡蝶蘭の横に、あの掃除機が置いてあったはず・・・

ああ。きっとあのカメムシは、掃除機の中で、3つのティッシュをかき分け、長いトンネルをくぐり抜けて、明るい世界へと戻ってきたのだろう。

わたしはティッシュの上からふんわりつかみ、カメムシをベランダへと連れ出した。

広げたティッシュから、緑のそれはぷーんと空へと飛び立っていった。

なんという生命力。わたしはほっとしていた。

主人には内緒にしておこう。


     ◇◇◇

最後までお読みいただきありがとうございます。

先日、我が家で起こった出来事を書いてみました。朝から虫のお話をしてしまい、すみません(´・ω・`)でもあのカメムシ、逃げてくれてよかった・・・笑

それではみなさま、よい日曜日をお過ごしください(*´ω`*)

ではまた!



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