― 「ところかまわずナスかじり」第303話 傘を閉めたら ―

母傘「あんた!もぅっ!だらしないわねぇ!ちょっとは閉めてなさい!」

娘傘「しかたないでしょう!日差しがすごいんだから。私だって閉めたいわよっ!」

母傘「あんたねぇ、そうやってみんなにいい顔してたらそのうち疲れるわよ。」

娘傘「知ってるわよ、そんなこと!でもしょうがないじゃない。日差しも雨も防げるのは私だけなんだから。」

母傘「まったく、あんた、小さい頃は雨も防げなかったのにねぇ。」

娘傘「小さい頃は小さい頃!今は今!母さんだって若い頃は開かれてたんでしょ?」

母傘「母さんの若い頃は・・・・、ふふっ。まぁ、だだっ開げって感じだったわねぇ。普段は開かない子も開いたりしてねぇ。そう・・・バブル、だったわねぇ。」

娘傘「ほらぁ!開いてたんじゃない!」

母傘「開いてたけど、あんたたちのような開き方じゃないわよ!もっと節操があったわ!相手を選ぶというか・・・。」

娘傘「なにそれ、バカみたい!私たちは開きたい人がいたら開いてあげる、これが当たり前じゃない。」

母傘「はぁ・・・・。そうねぇ・・・・。時代、かしら。でもね、ちょっとは、その、開こうとしてる人に対して、ちょっと開きづらくする、とか、枝が折れてるとかで・・・」

娘傘「はぁ?なにそれ?いやがらせ?そんなことして何になるの?広げて、守る、でいいじゃない!」

母傘「あなたにはわからないのよ・・・・。バブルの頃の傘がどういう存在だったか。返された傘の中にさりげなく現金が入ってたり、取っ手が象牙の傘があったり、ダイヤモンドが枝の先からぶら下がってる傘があって、そりゃあ綺麗であったり・・・。」

娘傘「・・・あ、そろそろ降り出しそうだから私、行かなきゃ。じゃあね。」

母傘「気を付けて開くのよ!あ、もう行っちゃった。・・・・ふぅ。そうね。バブルは終わったのよね。あ、・・・・でも、私も久しぶりにちょっと開いてみようかしら。うふっ。私もまだまだ捨てたもんじゃないのよ。うふっ。・・・・あ、錆びてる。」

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